複製権
今日は早めの投稿です。
『難易度上げてくぜぇ! レベル4!』
射撃ポイントを【隔娄界門】で何度も変えながら、聖也たちを追い詰めるジーク(と雄人)。
レベル3の射撃が躱され始めたときに、ジークが楽しそうに難易度上昇の宣言をした。
「——っ⁈」
「那由多⁈」
突然、何もない所から銃弾が飛んできて、那由多の右足を貫いた。
片足を吹き飛ばされ、軸を失った那由多は、その場に倒れこんだ。
「今何処から撃った⁈」
銃弾が飛んできた方向には、【隔娄界門】は発生していなかったし、オールレンジライフルの射線からも逸れた場所だった。
射撃のタネに気が付いたのは聖也だった。
「【透過弾】……!」
視覚外の壁の向こうに【隔娄界門】を発生させ、壁を透過する【透過弾】を打ち込む。
こんな攻撃を混ぜられては、射撃地点を直前で見切るのも不可能だ。
「クソ……グアッ!」
肩と足を撃ち抜かれ、満身創痍の那由多に覆いかぶさり、わが身を犠牲にしてアーサーが守る。アーサーも射撃地点の特定は無理だと判断したらしい。
『ギャーハッハッハッハ! みっともなくて最高だぜお前ら!』
その様子を、透視スコープ越しに眺めるジークがあざ笑う。
「もう一か八か、やるしかない……!」
とにかく、あの暗視スコープだけでも何とかしなければ、位置を補足され続けて終わる。
自分が今からしようとすることは、完全なギャンブルだ。
それでも、ライフ2の那由多を守るために、自分が動かなければならない。
覚悟を決めた聖也は、【召喚・焔鳥ヴァルビー】のカードをスキャンする。
目の前に小さな魔方陣が現れ、索敵能力に優れた、炎の羽根を持つ小鳥が召喚される。
「ピピ――ビィィ⁈」
そして、いつもどおり元気な鳴き声と共に、空へ飛び出そうとするヴァルビーを、強引に鷲掴みにして、制服の胸ポケットに詰め込んだ。
「ごめん! 今日はここにいて!」
すぐさまマップ画面を開き、周囲の情報を確認する。
ヴァルビーが空を飛んでいない影響からか、索敵範囲がかなり狭い。自分を中心に10mほどが索敵範囲か。
「おい、ヘボ共!」
そして、聖也が【隔娄界門】に向かって叫ぶ。
「お前らまだ僕に一発も当ててないだろ! そんな便利なスキル持ってて情けないんじゃないの⁈」
『見え透いた挑発! 乗っちゃうもんね!』
聖也は周囲を警戒しながら、スキャナーのマップ情報が、自分の視界内に移るように腕を構えた。
そして目の前に発生した【隔娄界門】からの射撃を間一髪で躱しながら――
「……最高だヴァルビー!」
マップ情報をみて歓喜の声を上げる。
聖也の位置を表す、赤い点の前に、黒い渦のアイコンが表示されていた。ジークの【隔娄界門】だろう。
ヴァルビーの力により、視覚外の【隔娄界門】も補足可能。
これなら、なんとか対応できるか⁈
『サモナーズロード』ゲームの中のオールレンジライフルの弾速、追尾弾の追尾開始距離、そして自分の走行速度を計算し、聖也は一直線にジークたちに向かって駆けだした。
『あの子突っ込んでくるんだけど⁈』
『ビビんな! 撃ち殺せ!』
「アーサー! 那由多さんを連れて壁裏に隠れて!」
聖也の指示で、アーサーは動けない那由多を連れて、路地裏に引っ込んだ。
そして、雄人が引き金を引いた瞬間、迫りくる追尾弾の曲がり方を予想し――
『……ええ⁈』
紙一重で、聖也が銃弾を回避する。
『うざってえ!』
ジークが【隔娄界門】を交え、今までの戦法を総交えしながら聖也に銃弾を浴びせるが、
「……っ‼」
マップの【隔娄界門】の位置情報と、雄人のモーション。
そこから銃撃の射線を予測し、ギリギリで銃弾を躱して、徐々に聖也は距離を詰める。
『何であの子、全部の銃弾避けられるの⁈』
『ちょっとは当たれや‼ 頑張りすぎだ雑魚の分際で‼』
慌てる雄人と、先ほどまでの余裕から打って変わって、苛立つジーク。
そして、とあるカードの有効範囲に迫ったことで、聖也は【煙・白煙】のカードで呼び出した煙玉で、辺りに白煙をまき散らす。
(……ごめん! ヴァルビー!)
そして、煙の中で、聖也は胸ポケットのヴァルビーを、空に向かって解き放った。
「ビィッ⁈」
煙から外に出たヴァルビーは、当然【追尾弾】で撃ち殺される。
そして、敵の注意がヴァルビーに向いている隙に、スキャナーを素早く操作し、ライフボーナスの項目から、カードの複製コマンドを立ち上げる。
最悪だ最悪だ最悪だ‼
せっかく手に入れた、複製権を‼ 今後いつ手に入るかわからない複製権を‼ 強いカードが手に入った時のために取っておきたかった複製権を‼
こんなカードに使わせやがって‼
聖也が複製したカードと、オリジナルのカードを、立て続けにスキャンした。
「【ビッグフェイス】‼」
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【魔法:ビッグフェイス】……カウント3。指定した者の顔を、質量はそのままに巨大化させる。攻撃力はない。……CR
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聖也が複製したのは【魔法:ビッグフェイス】のカードだった。
『んん⁈』
『んあ⁈』
カードの効果により、二人の顔が何十倍にも巨大化し、顔のサイズと合わなくなった透視ゴーグルが、二人の顔から弾かれた。
透視ゴーグルを装備できなくなったことにより、ジークたちは那由多たちの位置を補足できなくなるだろう。
『ギャハハハ‼ 雄人! 顔デカすぎ! ウケる!』
『ジークだって人のこと言えないだろ⁈』
「行くぞリウラぁ‼」
「待ちくたびれたぞ!」
「僕のイメージする高さに調整を!」
ジークたちが困惑(?)しているうちに、煙の中でリウラを召喚し、聖也はリウラを背負いながら、助走を開始する。
そして聖也が指示した高さへ――
「【次元跳躍】‼」
聖也が飛び蹴りのモーションを取りながら、指定の位置――ジークたちに向かって【次元跳躍】をした。
だが――
「――ガッ⁈」
聖也がワープをしたころには、ジークたちはもう既に、建物の屋上から去っていた。
飛び蹴りが空を蹴り、着地を失敗した聖也たちが、盛大に屋上の床を転がり倒れる。
「おい雄人……あいつが蹴ろうとしていた位置、お前のチンチンがあった場所だぜ」
「ワープして金的を狙うの⁈ 恐ろしすぎるだろあの子⁈」
生身の自分が与えられる最大の攻撃を外してしまい、聖也が忌々し気に声の方向を睨んだ。
自分が現在いる建物から、3路地分ほど離れたマンションの屋上。
そこにはまだ【ビッグフェイス】で顔が巨大になったままの、ジークと雄人が存在していた。
「惜しかったなあ、坊主!」
「【ブックマーク】のカード……!」
立ち上がろうとする聖也に、ジークがとあるカードを見せびらかしてきた。
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【魔法・ブックマーク】……カウント5。AとB、2枚で1枚のカード。事前にAカードを置いた地点にワープできる。
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やはり逃走手段を用意していたか。
敵を仕留め損ねた聖也が、怒りで拳を地面に叩きつける。
だが、一番の問題は――
「なんで僕たちがワープを使うことが分かった⁈」
直前まで隠していたはずの【次元跳躍】のスキル。それがバレていたことだ。
【次元跳躍】の直前も煙の中にいたことから、事前の動作で見切ることは無理だ。
そもそも【次元跳躍】は前回の戦闘で、たまたまリウラが思い出したスキル。初対面のジークたちが知っているはずがない。
「……お前ならもう気が付いてるんじゃねえのか?」
ジークがニヤニヤと意地悪な笑みを投げてくる。
思い出すのは、雄人が最初に言った言葉。
――リウラという契約戦士の召喚者を消す。それが今回の依頼だからさ。
「お前の依頼主が、……リウラのスキルを知っている⁈」
「大正解! ねえ、俺も一つ聞いていい?」
ジークが自分の顔を指差しながら尋ねる。
「この顔がでっかくなるヤツ。いつ解除されるの?」
「教えるわけないだろ!」
「だよなあ! ……このままでっかい顔で戦うのもめんどくさいから……」
ジークがにやりと笑って、雄人に向かい直る。
「ログアウトだ雄人‼」
「りょ、了解」
「は⁈ え、ちょっと待て⁉」
聖也が慌ててスキャナーを確認すると、いつの間にかライフノルマを達成していた。
「し~ゆ~あげいん~」
慌てる聖也をあざ笑うように、呑気に手を振ってログアウトするジークたち。
その様を呆然と見送ることしか出来なかった聖也が、誰もいなくなったマンションの屋上を見つめながら、その場で膝を折った。
「クソ……」
「……那由多たちを守れただけで良しとしよう」
結局、今回の戦いで、自分たちは命の危機にさらされながらも、ジークという契約戦士に遊ばれて終わっただけだった。
誰かに自分の討伐を依頼されていることから、次のゲームでもジークは自分のことを狙ってくるだろう。
他に協力してくれるプレイヤーを探すどころではなくなった。
目の前に迫る問題に頭を抱えながら、聖也はトボトボとログアウトのコマンドを押すのだった。