ゼロスキルの契約戦士
なんとか風邪治りました。
ぼちぼち再開しますm(__)m
「聖也氏! このままじゃ打つ手がねえぞ!」
【隔娄界門】による四方八方からの銃撃から、那由多を守りながらアーサーが叫ぶ。
「距離を詰めるしかない……けど!」
四方から目を離せば【隔娄界門】による銃撃。【隔娄界門】から目を離せば、追尾弾による直接射撃。
距離を詰める難易度が跳ね上がったことにより、聖也たちの足が止まってしまう。
「ラクナ氏になんとかしてもらうのは……」
「ダメだ! ラクナの能力と相性が悪すぎる!」
エリア内に待機しているであろう、ラクナに力を貸してもらおうにも、【無限機械兵】を無視して、【隔娄界門】は直接ラクナ本体を狙うことができる。
機械兵の壁が機能しない以上、この場は自分で何とかしなければならない。
リウラを召喚して【次元跳躍】で逃げようにも、【隔娄界門】の射程がわからない以上、それが有効かどうかも判断できない。
エリア外には、敵か味方かもわからない、謎のグループが存在している。
「僕たちで何とかするしかない……!」
立ち向かうしかないが、このままだと手詰まりだ。
何か方法はないか、聖也が模索していた所――
「ねえあなた! あなたの契約戦士、どんな能力持ってるの⁈」
那由多が豪に尋ねる。
「ああ⁈ 知らねえよ! このカウント10とか書いてあるヤツか⁈」
「「「カウント10⁈」」」
『おっ、なになに?』
カウント10というと、ラクナ、そして恐らくジークと同じカウントの契約戦士。
【無限機械兵】、【隔娄界門】のような壊れたスキルを持っている可能性が高い。
「それ召喚して! 早く!」
「あいつらをボコせるってことか!」
狙撃の狙いは聖也が7割、那由多が3割といったところだ。豪は脅威とみなされていないからか、ジークたちに全く狙われていない。
何が起こっているのかはわからないが、ジークという契約戦士が自分のことを馬鹿にしているのは存分に伝わってくる。
自分がやっとゲームに混ざれる。ムカつくやつをぶっ飛ばせる。
そんな可能性の到来に、豪は興奮気味にカードをスキャンした。
「おら来い! 【零戦士 ゼロム】‼」
豪の目の前に魔方陣が現れ、そこから一人の契約戦士が顕現する。
「……」
現れたのは、聖也たちの腰ぐらいの背丈しかない、薙刀を持った人型の契約戦士。
淡い青の野放図に伸びた髪の毛は、目元を大きく隠してしまっていて、前が見えているのかわからない。
自分の体形に合わない、継ぎ接ぎだらけのボロボロのマントは、大きく丈を残して地面に接してしまっている。
「……ミニリウラ?」
という感想がぱっと思い浮かぶほど、服装はリウラに酷似していたが、その体はリウラと比べて随分と貧弱そうだった。自分の手に携える、身長よりも一回り大きい薙刀を構えようとするも、その重さを支えきれずにバランスを崩しかけてしまっている。
「アウ……」
声帯が発達していないのか、どうやら言葉を発することができないらしい。
マフラーで隠した口元から、かすれた声が聞こえてくる。
「おいお前! 戦えるか⁈」
アーサーが、ジークたちのいる方向を指差しながら尋ねると、ゼロムという契約戦士は少し間をおいてからコクコクと頷き、敵の方向にヨタヨタと走り始めた。
『……あれさ、何かヤバいスキル持ってるかな?』
『わかんね。まあわかんないなら……』
カウント10というカウント帯に不釣り合いな、弱弱しい見た目の戦士に困惑しながらも、雄人は銃を構える。
『とりあえず攻撃っしょ!』
ジークの宣言と共に、ゼロムの背後に空間を繋ぐ黒い渦――【隔娄界門】が出現する。
「――っ!」
【隔娄界門】を通って、背後から撃ち込まれた銃弾に、ゼロムは武器をこぼしながら、うつ伏せに倒れこんでしまう。
「おい、お前! 何してんだ!」
あまりにも無抵抗に銃弾を喰らった自分の相棒に、豪が苛立った声で叫んだ。
「豪! スキルは⁈ その子のスキルは何なんだ⁈」
「スキル……⁈」
「スキャナーのコマンドで見れるだろ! 早く見ろ!」
聖也の指示に、眉間にしわを寄せながら、スキャナーを確認するも――
「……ねえ!」
「はあ⁈ んなわけあるか!」
「知るか馬鹿‼ ほんとに何も書いてねえんだよ‼」
豪が自分のスキャナーの画面を見せると、確かにそこには、何の情報も書いてなかった。
カウント10でスキルなし⁈ そんなことがあり得るのか⁈
銃弾を紙一重で躱しながらも、聖也は顎に手を当てて唸る。
完全に復活していないリウラでさえも、謎のスキル一つを除いて、【次元跳躍】、【見えざる手】、そして必殺技の【ゼロフレーム】といったスキルの内容を確認することはできた。発動できるかはともかく、リウラという契約戦士は、スキル自体は持っていたということだ。
それが、ゼロムという契約戦士は、スキルの情報すら確認することができない。
本当に持っていないのか、スキルを、一つも?
肉体能力も、聖也や那由多よりも明らかに低い。
人間よりも弱く、スキルも持っていないカウント10。
そのことにジークたちも気が付いたらしく、黒い渦から心底人を馬鹿にするような笑い声が聞こえてきた。
『ギャーハッハッハッハ‼ お前の契約戦士クソ雑魚でや~んの‼』
【隔娄界門】ごしに銃弾が、わざとゼロムの急所を外して撃ち込まれた。
「アウ……‼」
「……クソっ!」
その様子を見ていられなかったアーサーが、那由多をかばいながらも、ゼロムを守る体制に入る。
距離を詰めるどころではなくなった、身動きの取れない一同を目に、豪が一枚のカードをスキャンした。
「どいつもこいつも使えねえ‼」
スキャンしたのは【大魔法・沈黙の矢】のカードだ。
「こいつをぶち込めば、敵の銃撃は止まるだろうが!」
「――‼ おいバカ止めろ!」
灰色のエネルギーが弓の形に収束していき、豪が目の前の【隔娄界門】に向かって、弓を引くモーションを取る。
それを聖也が慌てて制すも、遅かった。
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【大魔法・沈黙の矢】×1……カウント9。当てたプレイヤーのメインデッキのカードの効果・使用を封じる矢を放つ。契約戦士カード、必殺技カードは使用可能……LR
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確かに、スキャナーの効果を封じる沈黙の矢なら、属性弾のみならず、オールレンジライフル、透視スコープといった、スキャナーの効果で呼び出された道具を無効化することはできる。
そして、ジークと聖也たち、お互いの声が通じることから【隔娄界門】は一方通行ではなく対面通行――こっちの攻撃も向こうに届くという、豪の想像は正しい。
そのまま攻撃を放てば、【隔娄界門】を伝って、雄人にむかって沈黙の矢が飛んでいくだろう。
だがそれは――
『はい馬鹿乙‼』
ジークが【隔娄界門】の位置を変えなければの話だ。
豪が矢を放った瞬間、那由多の背後に位置を変えた【隔娄界門】から、沈黙の矢が吐き出され、そのまま那由多に命中した。
「ぐあっ⁉」
「あ……」
【隔娄界門】はそもそも、出現位置をジークの意志で操れるスキルだ。もう一つの出口をライフルの銃口の先に固定する必要はない。
豪が自分のミスに気が付いたときには、時すでに遅し。
沈黙の矢によって、那由多のスキャナーが灰色のエネルギーに包まれ、メインデッキの使用を完全に封じられる。
「てめえ、何しやがる⁉」
ミスの代償があまりにも大きすぎる。アーサーも堪忍袋の緒が切れたのか、豪に向かって食って掛かる。
完全に仲間割れを始めたところに、聖也が割って入った。
「……豪!【覚醒】カードあっただろ! それは使えないのか⁈」
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【大魔法・覚醒】×1……カウント10。特定の召喚戦士や、契約戦士の眠っている力・才能を目覚めさせる……LR
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ゲーム中、一部の戦士の能力を開放する力を持ったカード。
もしもゼロムが特定の条件で力を開放するタイプの契約戦士なら、覚醒のカードで強化されるかもしれない。
残された希望を胸に、カードをスキャンさせるも――
「アウ……」
ゼロムの身に変化は起こらない。
つまり、ゼロムの中には眠っている力など存在しないということだ。
「「「……」」」
完全に打つ手を失った豪に、聖也たちの絶望した視線が突き刺さった。
「……んだよ」
豪が頭を乱暴に搔きながら叫ぶ。
「こっちは今日が初めてのゲームなんだよ! 何もわからなくて当然だろうが! そんな目で見てくんじゃねえ!」
『あ~、わかるゼ。混乱するキモチ。……でもね、雑魚君』
目の前に出現した【隔娄界門】から、ジークのおどけた声が響く。
『戦場において、今日が初めてとか関係ねえんだわ! どんな理由があろうと、雑魚は雑魚! 役に立たねえ言い訳にゃあならねえってな‼』
「てめえ……!」
『もう打つ手ないんだろ? じゃあ、飽きたから死んでくれや!』
そして、【隔娄界門】から撃ち込まれた銃弾が脳天を貫き、声を出す間もなく、豪は光の粒子になって、消滅した。
豪が殺られたことで、ゼロムも光になって消滅する。
「「「……‼」」」
『見世物としては面白かったぜ! ギャーハッハッハッハ‼』
消えていく聖也のクラスメイトを目の前に、絶望のあまり、聖也たちは言葉を失ってしまった。
『……んじゃ。あと二人』
狙いは聖也のみのはず。だが、ジークは那由多も含めた全員を狩ろうとしている。
今までの発言から、どうも自分より弱い奴をいたぶるのが好きで仕方がないらしい。
『せいぜい粘ってくれよなあ! あの雑魚君みたいにあっさり死んでくれるなよ⁈』




