【増素界門(マスゲイト)】と【隔娄界門(ヘルゲイト)】
ちょっと風邪をひいてしまったので、明日の投稿ができるかわかりません。
朝起きて元気なら続きを仕上げて投稿します。
無理だった場合はごめんなさい(;´Д`A ```
「全員、その場に留まるな! 動け!」
聖也が叫ぶと、那由多とアーサーは困惑しながらもその場を離れる。
「敵はあの建物の屋上! 射程無限のライフルで、壁をすり抜ける弾を撃ってくる! 透視能力を持つスコープを装備してるから、壁裏に隠れても無駄だ!」
「「――はぁ⁈」」
聖也の説明に那由多たちが、ふざけんなと言わんばかりの悲鳴を上げた。
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【狙撃銃・オールレンジライフル】……カウント9。どこまでもまっすぐ弾が飛ぶ、射程無限の狙撃銃……LR
【兜・透視スコープ】……カウント8。建物や壁を透過して、生命体を観察できるスコープゴーグル。倍率の調整が可能……VR
【弾・透過弾】……カウント8。建物や壁を透過する属性を、銃弾に付与する。属性の付与は一発限り……VR
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ゲーム中でもトップクラスに凶悪だった、3種のカードの組み合わせ。
このコンボにより、敵は狙撃の腕さえあれば、どんなに離れた敵でも意識の外から殺すことのできる、最強のスナイパーと化したわけだ。
どうして人を殺さなきゃカードが手に入らないデスゲームで、この組み合わせを再現可能なプレイヤーが存在するんだ。
聖也が、戸惑っていた所、唯一聖也の指示に耳を貸さなかった、豪の腕に弾が掠めた。
「――ってえ⁉」
腕を襲う痛みに、悲痛な声を上げる豪。
「んだよこれ⁉ 夢じゃねえのか⁈ ゲームじゃねえのかよ⁈」
「さっきからそうだって言ってるだろ! 立ち止まるな! 動け!」
「聖也君、どうする⁈」
「とりあえず距離を詰めなきゃだめだ! 建物に向かおう!」
聖也が駆けだすと、那由多とアーサーもその後を追った。
状況は分からないが、このままだと殺される。
その後を追うようにして、豪も聖也たちの後に続いた。
聖也たちの周囲に、何発も銃弾が撃ち込まれる。
「アーサー! 前張りお願い!」
「しゃーねえなあ!」
聖也が最前線をアーサーと交代した。
銃弾は聖也たちに当たる気配はないが、万が一ということもある。
ならばアーサーが弾を防ぎながら、距離を詰めるほうが堅実だ。
「建物に隠れながら距離を詰めよう!」
「隠れても意味ないんじゃないの⁈」
「あのスナイパー下手糞だから、立ち止まらない限り大丈夫! それよりも【透過弾】を消費させよう!」
通常弾は無限だが、属性付与の【透過弾】は消耗品。カードの枚数分しか打てないはずだ。
弾を全て吐かせてしまえば、あとは建物裏で隠れる戦法も成立する。
アーサーの影に隠れながら、弾を消費させるのがベストと判断した。
だが――
「聖也氏、あいつもう10発は打ってるよな⁈」
止まない銃撃に、聖也たちが異変を感じ取った。
メインデッキの最大枚数は20枚。暗視ゴーグル×2と、オールレンジライフルを合わせると、残りのスペースは17枚だ。
17枚すべてが【弾・透過弾】のカードなわけがない。そうであったとしても、溢れ出る湯水のごとく、ガンガン消費してくるのはおかしすぎる。
聖也が再び表に出て、敵の様子を確認すると――
「――はあ⁈ ふざけんな⁉」
宝箱に憑りついた魔人――ジークが、手元に発生させた青い渦に、【弾・透過弾】のカードを投げ込むと、渦の反対側から、そのカードが10倍の数になって吐き出された。
「あいつ、デッキのカードを増やすスキル持ってやがる!」
「なんですって⁈」
『ギャハハハ! その通り!』
突如、聖也たちの目の前に出現した黒い渦から、人を中にした笑い声が響き渡った。
『俺のスキル【増素界門】っていってなぁ! 生物以外だったら、いくらでも増やせんだわ!……あ。よろしかったらどうぞ』
黒い渦から、大量の【弾・透過弾】のカードが吐き出される。
『ケツを拭く紙にでもしてくれや! ギャーハッハッハッハ‼』
「クソ! うざってえ‼」
苛立った豪が、ビームライフルで、ジークたちに応戦する。
鋭いレーザー弾が発射されるも、そこはビームライフルの射程外。レーザー弾はジークたちに届く前に消滅してしまった。
『あたらない、かすらない。そもそもここは、射程外~』
「ぐ……‼」
「聖也、俺の出番は……」
「ダメだリウラ」
自分を召喚するよう促すリウラを、聖也が制す。
確かに、距離を詰めるのにリウラの持つ【次元跳躍】は最適だ。
だが、一度見せてしまえば、ワープを警戒して距離を取られる可能性がある。
敵が逃走手段を持たずに、逃げ場のない建物の屋上にいるとは考えにくい。となると、ワープによる接触のチャンスは一度のみ。
接触できる距離まで、リウラの【次元跳躍】は温存しなければならない。
範囲外でリウラを召喚しても、敵の的が増えるだけだ。
「とにかく、距離を詰めるしかない!」
隠れるのが無意味とわかった以上、敵の姿が見える表通りを最短で突っ切った方がマシ。
聖也たちは再び、表に出て、アーサーを盾にしながら、距離を詰め始める。
『雄人~お前舐められてるぜ~。あんなどうどうと姿晒しちゃってさあ~』
『だから一般人に狙撃銃使えって言われても無理なんだって!』
『しゃーねえ、 エイムアシストつけてやるかあ!』
雄人と呼ばれたプレイヤーのスキャナーから、ジークが別のカードを取り出すと、【増素界門】で10倍に増やす。
そして、カードをスキャンしてから、聖也たちに向かって銃弾を撃ち込んだ。
「――っぐあ‼」
「那由多さん⁈」
そして、明らかに自分たちから逸れて放たれた銃弾が、急激に軌道を変えながら、那由多の肩に命中した。
「ホーミング弾……‼」
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【弾・追尾弾】……カウント7。敵の近くを通ると、敵に向かって誘導する属性を付与する。属性の付与は一発限り……VR
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カードの枚数を増やせるのなら、他の属性弾をデッキに入れるスペースができる。透過弾以外のカードを持っているのも当然だった。
「アーサー! 銃撃の瞬間に全体防御だ!」
「わーってらい!」
倒れる那由多を支えながら聖也が指示すると、敵が引き金を引くモーションを取ると同時に、アーサーが防御スキル【護壕砦炎】を発動する。
ドーム状の蒼炎のバリアが、敵のホーミング弾を弾き返した。
『対処が早いねえ! 敵が強いと実況が盛り上がるもんだ! ……んじゃ、レベル3』
ジークの宣言と共に、バリアの内側――聖也の背後に、黒い渦が出現した。
ジークや雄人の声、そして大量の透過弾のカードが送られてきた渦。
「――まさか⁈」
『はいゲームオーバー!』
聖也が反射的に横に飛ぶと、渦の中から銃弾が撃ち込まれ、内側からバリアの壁に弾かれた。
『これも避けんのかよ! 察しが良すぎてつまんねえぞ‼』
最悪だ。
ジークのスキルを理解した聖也が、絶望の色に顔を染めた。
青い渦の【増素界門】が物質を増やすゲートなら、この黒い渦は、空間と空間を繋ぐワープゲート。
そのワープゲートが、雄人のもつオールレンジライフルの銃口に発生している。
自分たちのいる場所は、ワープゲート発生の射程内。
もう狙撃の腕など関係ない。
四方八方――どこからでも、ライフルの銃口を0距離で、聖也たちに突き付けることが可能というわけだ。
『【隔娄界門】っていうんだなこれ。ヘボスナイパーのシューティングゲームはつまんねえから打ち切りだ! 俺様神様ジーク様の、無双狩りゲーの始まり始まり~‼ ギャーハッハッハッハ!』
『最初からそうしてくれよ……』
無限射程のライフルに、数の制限のない属性弾。
極めつけは空間を繋ぐ【隔娄界門】による、狙撃地点の変更。
敵側が一方的に聖也たちをいたぶる、最悪の狩りゲーが開幕した。