【鉱石魔人 ジークレイド】
ストックが無くなったので、予告なしにお休み貰うかもしれません。
もしそうなる場合、可能な限り、あとがきなどで事前に告知できるようにします
豪の状況を察した聖也たちが、路地裏へと業を連れ込み、デスゲームについて簡単に説明した。
全てを説明するのは難しかったが、取り敢えず説明できたのは、このゲームは、カードや契約戦士の力を利用して、勝ち残りを目指すゲームであること。
そしてライフをすべて失うと、プレイヤーの存在が世界から消え、そのプレイヤーのいなかった世界へ、世界線が置き換わるということだけだ。
「ゲームのやりすぎだろ。お前」
「まあそういう反応になるよね」
話したところで、理解されるとは限らない。
憐れむような眼で自分を見つめるクラスメイトに、聖也はどうしたものかと頭を抱えた。
「あー、聖也氏。多分俺を召喚したほうが早い」
そのやり取りを見ていたアーサーが、那由多のスキャナーから声を出す。
既にカウントは5溜まっていた。
那由多がアーサーの契約戦士カードをスキャンする。
「はーい。俺氏参上~」
「⁈ ……⁈」
目の前に突如として出現した異形の存在。人間型の喋るドラゴン姿に、豪が言葉を失い呆然と立ち尽くす。
とどめ、と言わんばかりに、那由多も【剣・感電警棒】をスキャンして、武器を具現化して見せた。
「信じられない気持ちはわかるけど、実際に起きてることなの」
「もしかしたら、他のプレイヤーに命を狙われるかもしれない。今のうちに自分のデッキと、契約戦士を確認したほうがいい」
「……チッ」
自分だけ何も理解できていないことが不快なのか、豪は舌打ちをしてからスキャナーを物色した。
デッキの場所がわから無そうだったので、聖也が場所を教えると、眉間にしわを寄せてからデッキを抜き取った。
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【小銃・レーザー】×2……カウント7。銃口に溜めたエネルギーを、レーザー状にして発射する。射程が長く、高威力……VR
【剣・シルバー】×3……カウント4。切れ味が良く、刀身の軽い銀の剣。……VR
【魔法・通話】×2……一定範囲のプレイヤーを指定して、通話ができる。……UCR
【魔法・索敵】×3……一定範囲内のプレイヤーの位置を索敵する。……UCR
【魔法・簡易防御壁】×4……カウント3。目の前に薄いバリアを発生させる。防御力は並程度。……UCR
【魔法・弱体化】×4……カウント8。命中した者のステータスを半分にする光の球を放つ。……LR
【大魔法・沈黙の矢】×1……カウント9。当てたプレイヤーのメインデッキのカードの効果・使用を封じる矢を放つ。契約戦士カード、必殺技カードは使用可能……LR
【大魔法・覚醒】×1……カウント10。特定の召喚戦士や、契約戦士の眠っている力・才能を目覚めさせる……LR
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「畜生……!」
「僻むんじゃないの」
汎用性の高い武器や魔法に加え、ゲーム中でも最強クラスのカードを詰め込んだ強力なデッキだ。
なんでどいつもこいつも、まともなデッキを持っているんだ。
自分のデッキの貧弱さを嘆く聖也に、那由多が呆れたように突っこんだ。
「要は、カードの力を使って、他のプレイヤーをぶっ殺せばいいのか」
「ぶっ殺しちゃだめだって!」
聖也の言葉を無視しながら、豪は【小銃・レーザー】のカードをスキャンした。
突然現れたレーザーライフルに「おお」と驚きの声を上げてから、豪はライフルを構え、適当な建物に向けて、レーザーを発射した。
建物に着弾したレーザー弾が大きな爆発を起こし、建物の壁に風穴を開ける。
「ちょっと! 他のプレイヤーがいたらどうすんのよ⁈」
バトルロワイヤルで物音を起こすなど言語道断だ。
あまりに迂闊な行動に、那由多が怒りの声を上げた。
「試し打ちだよ。武器の性能確かめるのは大事だろ」
「それはそうだけど!」
未だにゲーム感覚でいる豪の様子を見て、アーサーが聖也に耳打ちをする。
「……なあ聖也氏、知り合いなんだよな?」
「ああ、うん……」
「どうすんのよコイツ。一緒に行動したくないんだけど」
ゲーム参戦初日で、危機感がないのはしょうがないかもしれないが、自分のライフがかかっている以上、アクシデントを生みかねない存在と行動したくはない。
聖也としても、豪のことを放っておくわけにはいかないが、現在喧嘩の真っ最中の相手が、素直に自分の言うことを聞くとも思えない。
那由多やアーサーのライフがかかっている以上、扱いに悩むところだった。
豪というプレイヤーをどうするか、頭を抱えていたところ――
『……あ~、テステス。ゲートテス~』
聖也の目の前に、謎の黒い渦が出現し、渦から謎の声が聞こえてきた。
プレイヤーの魔法か、それとも契約戦士のスキルか何かか。
得体のしれない渦の出現に、豪を除く、その場にいた全員が渦から距離を取った。
「ちょっと、何よこれ⁈」
『ナニヨコレ⁈ と聞かれても、答えてなんてあげないよ~ン。バーカバーカ‼』
『ちょ、ちょっとジーク、毎度のことながら危機感を持って行動してくれよ……』
どうやらこっちの声も通じているらしい。
那由多の反応を茶化すような低い声と、気弱そうな男性の声が、渦を通じて聞こえてくる。
『……とりあえずさ、リウラって契約戦士のパートナーは誰か教えてくれるかな?』
気弱そうな男性の質問に、聖也たちは互いを見合わせた。
リウラに、聖也にいったい何の用だろうか。
そもそもこの質問に返答していいのか。聖也たちが戸惑っていた所――
『……とりあえず、頭が切れるって話らしいから』
『じゃあ何もないとこで銃ぶっ放す、あのバカは除外だな』
『女の子の方は、ドラゴンの召喚者っぽいし、こっちも違うね』
『……消去法で、お前だな』
渦が消え、聖也の目の前に再び、黒い渦が出現する。
「……僕に何か用?」
『用っつーか、強いて言うならビジネス?』
「ビジネス?」
聖也の疑問の声に応えたのは、気弱そうな男の声だ。
『君に特に恨みとかはないんだけど……ごめんね。そういう契約なんだ』
「一体さっきから何の話だ⁈」
『リウラという契約戦士の召喚士を消す。それが今回の依頼だからさ』
その回答と共に、聖也の足元に、何処からともなく銃弾が撃ち込まれた。
「「「なっ⁈」」」
馬鹿な。何処から撃った⁈ 何で銃弾が届く⁈
聖也たちが隠れていたのは、建物と建物の間の路地裏だ。狙撃できるようなポイントはどこにもない。
なのに、建物の壁を透過してきたかのような角度で、銃弾は飛んできた。
『ギャハハハ! 不意の一撃外すなって!』
『しょうがないだろ⁈ 狙撃銃なんて握ったこともないんだから!』
狙撃銃というワードに、最悪のカードの組み合わせが頭によぎる。
この想像が正しければ、隠れても無意味。
聖也は【魔法・スコープ】のカードをスキャンし、意を決し表に飛び出して、銃弾が飛んできた方を、拡大して確認する。
住宅街エリアで一番高いマンションの屋上。
『あらバレた』
狙撃銃を構えた1人の若い男性と、その男性が召喚したと思われる契約戦士が、スコープのついたヘッドセットを装備して、こちらを伺っていた。
男性の方は、基本的にインドアな生活を送っているのか、日本人にしては肌が白めだ。肩まで伸びた長めの黒髪が、風に触れて小さく揺れていた。
温かい時期だというにも関わらず、長袖の上着やジーンズを着ていて、申し訳なさそうな表情で、へっぴり腰で聖也を狙っている。
そして、恐らく謎の渦の発生源。煌びやかな宝箱に憑りついた、上半身のみの魔人。
大きさは召喚主である男性の肩に乗るくらいのミニサイズ。
ゴツゴツとした黒いダイヤに覆われた、恐竜のような頭部から、三日月形の角が生えている。そして胸部に、その顔と全く同じフォルムの、二回りほど大きい擬態用の顔がくっついていた。
胸部の顔の下からは胴が生えており、腹部から下は4つの節に別れ、大きな宝箱へ寄生するような形で憑りついている。
ラクナや、以前戦ったディードと同じく、聖也の記憶にない契約戦士。
「また僕の知らない契約戦士……‼」
カウントを確認すると、ちょうど12。リウラが召喚可能な時間帯。
思えば、ラクナも、ディードも、カウント10以降で出会った契約戦士だ。
――まさか、カウント10以降の契約戦士は、僕が知らない契約戦士なのか?
なんにせよ、カウント10ならば、ラクナの【無限機械兵】のような、とんでもない能力を持っているということだ。
『お互い顔合わせが済んだとこで、ゲーム実況でも始めましょうかねぇ‼』
宝箱に憑りついた魔人が、楽しそうにケラケラ笑いながら、叫んだ。
『我が召喚士、ヘボスナイパー・雄人による、シューティングゲーム! 実況はイケてる最強契約戦士! 【鉱石魔人 ジークレイド】がお送りしまぁす‼』