謎の徒党と新参者
昨日は仕事が終わって寝落ちしてました(汗)
申し訳ございません。
「よし、今日の作戦を確認しよう」
「「「オーケー」」」
ゲーム開始1時間前。聖也の学校と那由多の学校、その中間の位置にある河川敷。
聖也、結、那由多、紬の4人は、スキャナーを装備し、戦いに備える。
「私と結ちゃんは一緒に行動」
「うん」
「僕と那由多さんは、他に協力してくれるプレイヤーを探す」
「よろしくね」
前回の会議で決まった内容の確認から始まる。
「ピンチになったら私たちのところに来なさい。【無限機械兵】で守ってあげる」
紬が仲間になったことにより、【無限機械兵】という戦力を得たのはデカい。
自分の胸を軽く叩く紬を、聖也と那由多が頼もしそうに見つめる。
「いいなあ、せめて僕も、メインデッキか契約戦士がまともなら、そんなふうに言えるんだけど……」
「【次元跳躍】! 俺には【次元跳躍】があるぞ、聖也よ!」
「それはありがたいんだけど……如何せん火力が……」
自分の紙束同然のデッキの内容を思い出し、聖也が肩を落とす。
「聖也君、この前のゲームで何回目?」
「……? 3回目だけど」
「だったら朗報。3連続でライフを失わなかったら、デッキの中のカードを『複製』できるわよ」
「え、本当⁈」
紬の情報提供に、聖也が飛びついた。
言われるがままにスキャナーを操作すると、プロフィールの欄に『ライフボーナス』という新しい項目が出現している。
その項目をタッチすると、デッキ内のカードがリストアップされ、カード名の横に『複製』のコマンドが浮かび上がった。どうやらここをタッチすれば、対象のカードを複製できるらしい。
「……」
「「「……あ」」」
それはとても嬉しい情報なのだが、よくよく考えれば、紙束同然の聖也のデッキに、そもそも複製したいカードはない。
聖也の顔を見て、状況を察した一同が、慰めるように聖也の肩を叩く。
「……『複製』権が持ち越せるなら、今すぐ複製しなくてもいいんじゃない?」
「そ、そうね! いつかいいカードが手に入った時のためにとっておきましょ!」
結と那由多が気を使ったように、明るい声になるが、その優しさが返って辛い。
まあ、現状を嘆いていてもしょうがない。今すべきは、目前の戦いに備えて気持ちを切り替えることだろう。
「……それもそうだね。作戦会議の続きでもしよう」
「じゃあ、アクシデントが起こった場合なんだけど――」
聖也たちが、ゲームでどう動くかについて、詳細な内容の確認をしあう。
「……やっぱハーレムクソ誑し野郎じゃねえか」
そしてそんな様子を、面白くなさそうな様子で、豪が遠目に眺めていた。
何が面白ないかっていうと、ぶっちゃけていえば聖也の存在そのものだ。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経良好。基本的に人当たりの良い性格で、彼という人間を疎ましく思う人間はほとんど存在しない。
天が二物も三物も与えた存在。豪の目に聖也はそんな人間に映っている。
別に他人がどれだけ優秀だろうが、自分の人生に影響を与えないのであれば、どうと思うことはない。
問題は、聖也という人間が、豪という人間に少なからず影響を与えたということだ。
要因は大きく2つ。
1つ目の要因は、学年で行われた運動交流会の事。
野球やサッカーなど、様々なスポーツをクラス対抗で行うイベントだ。スポーツを通しての交流が大きな目的である本イベントだが、種目ごとにポイントが設定されており、順位も出る。
当時サッカー部に所属していた豪は、当然ながらサッカーの種目で出場。サッカー部員にとってはクラスで活躍する一大チャンスだ。
そのチャンスを、当時は違うクラスだった聖也が、完膚なきまでに叩きつぶした。
元々視野が広く、人読みが得意だった聖也は、豪へのパスを完全にカットし、豪のドリブルの癖を見抜き、その動きを徹底的に封殺した。
これで聖也が少しでも勝利に喜べばよかったのだが(それはそれでウザいが)、当の本人は勝利など、さも当然かのように汗を拭ってから、大して喜びもせず、勝利に沸き立つクラスメイトの元へ戻っていったのだった。
少なくとも、聖也にとって俺は『格下』。
聖也はそんなつもりはないが、少なくとも豪にとってはそう映った。
それが1つ目の諍いの要因だ。
そして2つ目はというと――
「……」
聖也のすぐ隣――で会話に混じる学園のマドンナ。夢野結。
どう見ても彼女は聖也に惚の字である。
なんであいつなんかが好きなんだ。
豪は、胸の中でモヤモヤと渦巻く感情を、正直に言語化できない程度にはまだお子様だ。
それでも、他の女子が、結という女子生徒が、聖也に対して好意を抱いているということが何よりも面白くない。
半年前、突然プロゲーマーをクビになったと聞いたときは、正直驚いた。聖也という人間に、敗北という概念が存在しているとは思わなかったからだ。
その後、どこかしょぼくれた態度で生きる聖也を見て、胸がすく半面、苛立ちもした。
自分より何もかも持っている人間が、一回の失敗ぐらいで何シケた顔で生きてんだと思った。
しかも、最近息を吹き返したかのように、自身に満ちた表情で生きてやがる。前よりも赤明るくなって――女を大量に侍らせて。
忌々しそうに聖也たちを見つめていた豪が、聖也たちに、ある共通点を見つける。
(……なんだあの機械?)
聖也、結、那由多、紬。それぞれの腕に装備されている謎の機械。
あれか? あれが何か関係あるのか?
そんな風に考えてた矢先――
「……あ?」
ゴトンという音と共に、豪の目の前に全く同じ機械――『スキャナー』が出現する。
突然現れた謎の機械に困惑しながらも、見よう見まねで聖也たちのように、腕に取り付ける。
電源らしきボタンを押すと、--00:02:34.23—というカウントダウンが進みながら、謎のマップ画面が展開された。
何だこれ。
状況を理解できない豪は、こっそりと聖也たちに近づき、その会話の内容を盗み聞きした。
「……何か今日のマップ変じゃない?」
端末の画面を見ながら、4人は一様に困惑した表情だ。
前回の戦いまでは、スタート位置を決めるピンは、開戦直前までほとんどのプレイヤーが立てようとしなかった。自分のスタート位置を知られたくないからだろう。
だからこそ、今回のマップは異常だった。
まだ開始2分前だというのに、100本以上のピンが既に立っている。
それも明らかに、3つあるエリアのうちの1つ――住宅街エリアを避ける形でだ。
「住宅街エリアって、結構人気のエリアじゃないの?」
「そうじゃなかったとしても……このピンの立ち方は異常よ」
那由多の返答に、聖也も改めてマップを見る。
何故こんな形でピンが立つのか。その可能性を必死に探る。
そうあって欲しくはないが、考えられる1つ可能性は――
「……これさ、住宅街エリアに誰か誘っていない?」
聖也の指摘に、皆黙りこくった。
聖也の指摘は可能性としてはあり得る話だ。このようにピンを立てておけば、接敵を避けたいプレイヤーを、住宅街エリアに集めることはできる。
ただ、そうなると――
「……そうなると、こいつら全員グルってことになるわよ」
紬の指摘に、聖也も険しい顔になる。
そう。その可能性が正しければ、最低50人×2グループ、最悪100人1グループのプレイヤーが徒党を組んでるということになる。
もちろん、そのプレイヤーたちが聖也たちにとって悪であるとは限らないし、徒党云々の話はあくまで可能性だ。
それでも――
「……それでも、契約戦士を召喚できない状態で、接触すべきじゃない。……罠かもしれないけど、住宅街エリアでスタートしよう」
「「「オーケー」」」」
方針を纏め切り、聖也たちは自分たちのスタート位置を悟らせないよう、開始直前にピンを立てようと構える。
そしてその会話を聞いていた豪も、会話の意味は分からないが、聖也たちの動きを真似るように端末をタッチできるよう構えた。
(……このピンってやつが付いてない所にタッチすればいいのか?)
「紬さん、結をお願いね!」
「そっちこそ、那由多を殺すんじゃないわよ!」
「聖也、那由多さん、無事でいてね!」
「取り敢えず、今日も生き残るわよ!」
それぞれの健闘を祈りあってから、開始直前にピンを立てた。
そして聖也たちの体が光に包まれ、デスゲームのフィールド【召喚都市・夜】に転送される。
そして、聖也の目に飛び込んできたのは、見知った顔のプレイヤーだった。
「はぁ⁈ 何で⁈ 何で豪がここに⁈」
聖也が驚いた顔で指をさすと、指をさされた豪も、指をさし返す。
「ハーレムクソ誑し野郎⁈ ……と」
その横にいる、那由多に目をやった。
「愛人2号」
「愛人2号って何⁈」
那由多の突っ込みを無視し、辺りを見渡して、何か異変に気が付いた豪が叫ぶ。
「つーかどこだよ、ここ‼」
突如現れた、喧嘩中のクラスメイト。
その困惑ぶりに、今日が初参戦であることを察した聖也たちは、豪を物陰へと連れ込み、自分たちがまきこまれているゲームについて説明するのだった。