獅子里 豪(ししざと ごう)
タイトル変えました。
前回のタイトルだと、内容と小説の雰囲気に齟齬があると感じたので、このタイトルで行こうと思います。
宜しくお願い致します。<(_ _)>
「昨日の話はいろいろと衝撃だったね」
翌日、聖也と結はラクナから得た情報について、廊下を歩きながら語り合っていた。
「うん、僕たちが『心力』っていう謎のエネルギーを生成しているって話は驚いた」
「私たちはそういう物を生んでいる感覚はないんだけどね」
「アーサーが言ってたけど、心力は、心力を使って生きている生命体以外には感じられないらしい」
「……でも、ログインしたら私たちにも見えるよね?」
「うん。だからさ、今こうして現実世界で生きている肉体と、ゲームの中での僕たちの体は全く別物なんじゃないかな」
「どういうこと?」
聖也の疑問に、結は首をかしげる。
「僕たちの世界で怪我したら血が出るじゃん。でもあっちの世界で怪我したら、血の代わりに心力が出るだろ? ゲームの世界で僕たちの体は、かなりリウラたちに近い性質なんじゃないかな?」
「心力で生きてる生命体ってこと?」
「うん。リウラたちと違うのは、『心力を生む存在でありながら、心力をエネルギー源に活動できる』こと。だからあっちの世界でお腹も減らないし、腕とか失っても、致命傷で無ければ割と動ける。出ていく以上に、体からエネルギーを自給自足で生成できるからね」
「でも、今の私たちはご飯食べないとお腹がすいちゃうよ?」
「世界を行き来するたびに、肉体の再構成が行われているんだよ。こっちの世界では普通の人間の体。あっちの世界では心力で生きていける体。リウラたちみたいに、僕らは自分自身をメモリーカードを使って、それぞれの世界に『召喚』してるんだと思う。心力が何にでもなれる物質なら可能なはずだ」
「……私たちもう、人間じゃなくない?」
「……見方によってはそうなるね」
訳が分からなくなってきた。と、結は混乱した様子で頭を抱えた。
仮説を話した聖也自身も、そうなんじゃないかと思うだけで、実際に確証はない。
これ以上わからないことについて話すのは止めよう。
そう思っていた所、廊下にある学年掲示板の前で、大きな人だまりができていることに気が付いた。
そういえば、中間テストの結果発表がある日だったな。
「お、聖也。結果見ていかないの?」
前を素通りしようとする聖也に、クラスメイトが絡んでくる。
「いいよ別に。わかってて聞いてるだろ?」
別に順位や点数を見る必要はない。なぜなら掲示される前から結果は分かりきっているからだ。
「相変わらず全教科満点。やっぱやべえなお前」
その言葉に同調するように、周囲の生徒が頷いた。
元々要領がいいのもあるが、聖也は入学して以来、テストで満点以外を取ったことはない。
特待生としての待遇を保つためではあるが、どのくらいの成績を維持すれば待遇を維持できるのかは説明はなかったため、誰にも成績について文句を言わせないよう、念のため満点をキープしているだけだ。
正直な話、学費さえ免除されれば、学年で何位かなど、聖也にとってはどうでもよかった。
だが周囲からすると、聖也が今回も満点かどうかというのは、一つの楽しみなイベントのようになっていた。まるで某格付け番組で連勝記録を更新し続ける、一流芸能人のような存在だ。
自分の点数をよそに、聖也の成績で皆が盛り上がる中、
「いいねえ、特待生様は余裕そうで」
冷や水を浴びせるような声が、和やかな空気を引き裂いた
シンと静まる生徒たちの奥から、声の主が聖也の目の前に歩いてくる。
「……僕に何か用?」
聖也の前に現れたのは、獅子里 豪。聖也と同じクラスの男子生徒だ。
身長は聖也より少し高いくらい。髪型は程よい長さで切りそろえられたツーブロック。
運動系の部活に所属していたからか、ガタイが大きく、肉付きもいい。
中性的で幼い顔立ちの聖也とは対照的に、野性的な顔立ちで、いかにも肉食系男子といった風貌だ。
そんな強面男子の苛立った様子に、周囲の生徒は、彼の琴線に触らぬよう、少し後ずさりして押し黙る。
「努力なんかしなくたって、満点くらい余裕で取れんだもんな」
「……はあ? どういう意味だよ?」
テスト前に追い込むような勉強法をしていないのは事実だが、それは常日頃、良い成績を保てるよう、授業も自習も手を抜かず行っているからだ。
雑な難癖に、聖也も苛立った声で返す。
「調子に乗るのも大概にしろよ、ハーレムクソ誑し野郎が」
「ハーレム?」
「テスト期間中に、他校の女子生徒10数名と遊んでたんだろ? 羨ましいねえ」
「「「「「「何だって?」」」」」」
周囲の生徒の視線が、一斉に聖也を刺す。
「お前、彼女がいながらそんなことしてたのか⁈」
「するわけないだろ⁉ 事実無根だ‼ そんなことするわけ――」
そういいながらもテスト期間中の出来事をさかのぼる。
確か那由多さんのことを調べようと、後をつけていた頃だったっけ。
結局バレて、那由多の友達の女子生徒多数と、ファミレスで恋バナしたことを思い出す。
「――するわけ、ないじゃないですか。皆さん」
「口調どした?」
あれは遊びではない。ゲームで生き残るためにやむを得なくした行動だ。つまりノーカン。
自分に言い聞かせながら否定する聖也に、生徒の一人が突っ込んだ。
「仮にそうだったとして、お前に絡まれる理由はないだろ! ダル絡みもいい加減にしろ!」
「存在がうぜえって話だよ! こんなすけこまし野郎以下だって思うと、胸糞悪くて仕方ねえんだわ!」
「だったら1回でも勝ってみろよ! ドローすらできない奴が、何難癖付けてんだ!」
「二人ともいったん落ち着いて……!」
結がヒートアップしていく二人を宥めようとするが、どちらも意に介そうとしない。
喧噪に気が付いた生徒たちが段々と集まってくる。
そんな騒ぎに終止符を打ったのが――
「朝から何ギャアギャア騒いでんだ‼」
学校最強(恐)の女教師――音和 響子。聖也たちのクラスの担任だ。
目が覚めるような怒声で、聖也たちを含め、辺り一帯が静まり返る。
この教師に立てつける者は、この学校には存在しない。
「で、何があった?」
「じつは……かくかくしかじか」
「ははーん、なるほど」
結が説明を終えると、響子呆れたように息を小さく吐いてから、豪を指差す。
「とりま昼休み、職員室」
「ゲッ」
響子との対面説教を宣告された豪が、眉をしかめた。
「はは、ざまあ‼」
「聖也。お前もだ」
「何で⁈」
「何でもクソもあるか。ほら、朝の会の時間だ!」
スカッと浮かれた顔を見せた聖也にも宣告が下る。
愕然と固まる二人をよそに、響子は日誌をパンパン叩いて、生徒たちに教室に戻るよう促した。
「……逃げんなよ?」
「「……はい」」
間に入って、肩に手を置く響子に、二人は言われるがまま頷いた。どんなに嫌であろうが、YES以外の選択肢は二人の中に浮かび上がらなかった。
「「……‼」」
お前のせいだ。と互いが互いを睨みながら、響子に連れられて教室に戻る。
昼休みまでの時間を、暗い気持ちで過ごす羽目になった聖也達だった。
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「だからコイツが、皆が必死こいて勉強してる最中、女遊びしてたのがムカつくって話なんすよ‼」
「それでクソ誑し野郎だの、ハーレムがどうだの言ってくるのか⁈ 状況証拠だけで酷い言い草だ‼」
「状況証拠はあるんかい」
聖也たちのやり取りに、呆れた視線を響子が投げる。
昼休み。職員室に呼び出された二人は、改めて事の経緯を話すことになった。
二人の話を聞き終えた響子が、少し間をおいてから結論を話す。
「まあ、喧嘩の件に関してはお前が悪いよ。豪」
「はあ⁈」
「はあじゃねえよ。仮に聖也が女遊びしてようが、テストの結果に絡めて喧嘩を売るのは筋違いだろう」
「女遊びはしてません」
「つーか部活止めてから、お前やたら聖也を目の敵にしてるじゃないか。今回聖也に絡んだのは、私怨以外の訳でもあるのか?」
図星を突かれた豪が、バツが悪そうに押し黙る。
それを白旗とみなしたのか、響子が豪に、諭すように続けた。
「何に苛立ってるかは知らないけど、聖也に突っかかったところで、今のお前が変わるわけじゃない。喧嘩や粗相で得られる知見もあるだろうが、青春の方向性は間違えんなよ」
言いたいことを言い終えた響子は、豪に外へ出るよう促した。
頭も下げずに、豪は職員室から出ていった。
一人残された聖也は、身を縮めながら、響子が話を切り出すのを待つ。
「お前に言いたいことは……そうだな。女遊びはほどほどに」
「してないですって⁉」
「天性の誑しであることは否定できないからな。念のための釘差しだよ」
聖也の抗議を軽くいなすと、響子は話題を変える。
「まあ、豪のお前への態度が、目に余るのは事実だった」
「……なんかやけに目の敵にされるんですよね。最近特に」
「お前がプロゲーマー辞めた辺りから、敵対視はしていたよ。最近あからさまになってきただけで」
プロゲーマーを辞めた辺り、というと、『サモナーズロード』が世界から消えた頃だ。
「原因は何となく察しはつくんだがな」
「何が原因なんです?」
「あたしが教えても意味ないんだよ。それにどっちかというと、向こうの意識の問題だ」
含みのある言い回しに、聖也が首をかしげる。
響子がポケットから飴を取り出し、頬張った。どうやら話はここで終わりのようだ。
「……」
職員室を出て暫く歩くと、不機嫌そうな様子の豪とすれ違う。
「……女たらしキモゲーマーが。ギャルゲーでもやって引きこもってろ」
罵倒ができれば何でもいいらしい。
原因が自分にないなら、気にしても無駄か。
少し苛立ちを覚えながらも、気持ちを切り替えた聖也は、何事もなかったかのように教室へ向かった。
今日は午後6時からデスゲームが始まる。
今日の戦いのシミュレーションをしながら、残りの学校時間を過ごす聖也だった。