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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME4 最悪の魔人とゼロスキルの戦士
44/95

【心力(スヴォシア)】

 

「えー、それでは私から、皆に改めて紹介したい人がいます」

「「「「おー」」」」


 ここは【召喚都市・昼】の駅・広場エリアにある、とあるカラオケボックス。

 その一室でわざとらしく畏まって、マイクでアナウンスをする那由多に、アーサー、結、聖也が拍手を送った。拍手ができないリウラは口笛で場を盛り上げる。


「はーい、入っておいで―」

「……ど~も~。元・裏切り者でーす」


 那由多がドアを開けると、自虐を含んだ自己紹介と共に、紬が入ってきた。


「……元裏切り者の相棒ですが、何か」


 そしてその後に、無限の機械兵を操る紬の契約戦士(チャンピオン)、ラクナが続く。


「良かった。紬さんたちと仲直りしたんだね」

「……あんたのおかげでね。その節はどうも」


 紬が聖也から眼をそらしてお礼を言った。明らかな照れ隠しだ。


「何がともあれ、雨降って地固まるってわけね。ここにいる皆、友に戦う仲間よ」

「念のため聞くけど、紬さんはそれでいいの?」

「あんたたちに負けといて、私に拒否権なんてないでしょ。……それに」


 紬はドリンクバーでとってきたジュースを一口飲んでから続けた。


「……友達が欲しけりゃ、世界じゃなくて自分が変わらないと意味ないんだわ」


 きっと戦いの後、那由多と色々話し合って見つけた結論なんだろう。

 初めて会った時より、紬の顔が吹っ切れたかのように明るく見える。

 毒の混じった言葉で誤魔化してるが、真っすぐと自分と向き合って変わろうとする紬は、聖也の目にはすごく魅力的に見えた。


「じゃあ、改めて、このゲームの生き残りを誓って……乾杯!」

「「「「「カンパーイ!」」」」」


 それぞれドリンクを手に取って、乾杯の音頭と共に、グラスが重なる軽快な音が響いた。手がないリウラの代わりに聖也は2つグラスを持って、グラスを合わせて回る。

 それぞれのグラスを合わせようと、机の上を、皆の手がせわしなく動き回る。


「……」


 ただ一人、ラクナを除いて。

 皆がグラスを合わせて回る中、ドリンクを口にもせず、何やら不満げな顔で微動だにせず座っていた。

 感情の振れ幅が低いラクナだが、何となく怒っているという雰囲気だけはヒシヒシと伝わってくる。


 皆がその様子に気が付き、場が静まり返ったタイミングで、ラクナが拗ねた様子でドリンクをグビグビと呷る。


「ちょっとラクナ。あんた空気読みなさいよ」

「失礼、紬。結束の前に1人……私に謝らなければいけない者が一人いるようなので」


 不機嫌そうなラクナの言葉に、聖也たちは互いを見つめあった。

 謝らなきゃいけない者って……誰?


「……もしかして僕? まだライフ奪ったこと根に持ってるとか」

「貴方ではないですよ成神聖也。その件につきましては私たちの因果応報なので。……いつまで目を逸らしているつもりです? アーサー」


 ラクナの言葉で、皆が一斉にアーサーの方を振り向いた。

 アーサーは何かを誤魔化そうと、わざとらしくドリンクを、ストローで音を立てながら飲んでいる。


「……何かしたの、アーサー?」


 那由多の質問には、アーサーではなくラクナが答えた。


「ええしましたとも、とんでもないことを。……あなたリウラに【心力(スヴォシア)】を渡しましたね」

「「「「心力(スヴォシア)?」」」」


 聞きなれない単語を耳に、人間の皆が首をかしげる。


心力(スヴォシア)とはあなたたち人間にとっての、炭素であり水素。酸素であり窒素である――この世のありとあらゆるものに変化できる『万能可変元素』。私たちの世界の生物が生きていく為に必要なエネルギーであり、肉体を構成する為の物質のことですよ」

「「「「……?」」」」

「百聞は一見に如かず、ですね」


 ラクナは六本の腕の一つで、呑気にジュースを飲んでいるリウラの頭を鷲掴みにした。

 そして、リウラの首と足の境目から少し漏れ出ている、虹色のオーラを指差した。


「これが『心力(スヴォシア)』」


 ラクナの言葉に人間の皆が、顔を見合わせた。

 全員この物質には見覚えがある。ゲーム中けがをしたときや、必殺技(アルティメット)を発動するときに体から溢れてくる虹色のオーラだ。


「私たちの世界の物は全て心力(スヴォシア)によって形成されています。生物も物質も全てです」

「……その心力(スヴォシア)ってやつはどこから生まれてくるの?」

「発生源はあなたたち……人間ですよ」

「「「「ええ⁈」」」」


 驚く聖也たちをに、「一部の人間に限りますが」とラクナが付け加える。


「ファンタジーでいう、マナとか魔力みたいなものよね? それが私たち人間から?」

「解釈はどうぞご自由に。私も不思議で仕方ありませんよ。心力(スヴォシア)を生みだす存在がいるのに、それを活かした文明や生命が、微塵も発達していないのですから。……話がそれましたね」


 こほん、と咳払いをしてからラクナが続ける。


「私たちの情報が記されたカード……契約戦士(チャンピオン)カードは、私たちにとっての『メモリーカード』です。……これは私たちの肉体の『記憶』も保存してあります。私たちが実体化したり、解除したりできるのは――」

「……メモリーカードを使って、ラクナたちの肉体や記憶を、僕たちの心力(スヴォシア)を使って再現しているから」

「理解が速いですね成神聖也。……その通り。メモリーカードに心力(スヴォシア)を注ぎ込み、物や生命体を実体化する。それが『召喚』。あなたたちの持つスキャナーは、心力(スヴォシア)を操る術を持たない人間たちにとって、カードの情報を再現するための『心力(スヴォシア)のコントロール装置』みたいなものです」

「人間でいうと、心力(スヴォシア)がタンパク質とかで、メモリーカードがDNA?」


 結の回答にラクナがコクリと頷いた。


「だからメモリーカードが壊れているというのは危険なのですよ。リウラのように」

「もしかして、僕がリウラを完全な姿で召喚できないのは……」

「ええ。メモリーカードのリウラの情報が破損しているからです。……本来なら長い時間をかけて、ゆっくりと記憶を取り戻し、メモリーカードを修復しなければならないのですが……」


 ラクナがゴーグルの奥から、ギロリとアーサーを睨んだ。


「アーサーは自分が持つ『リウラの記憶』を心力(スヴォシア)に混ぜて渡し、リウラの復活を図りました」


 聖也はアーサーがリウラにキレて、頭突きをしていたシーンを思い出した。

 あれは八つ当たりしているように見えたのだが、実際は自分の心力(スヴォシア)をリウラに流し込んでたというわけか。


「……あの、それの何が問題なの?」


 那由多が恐る恐る質問すると、ラクナはリウラを指差した。


「ここにいる全員、リウラについて抱く印象を述べなさい」


 少しだけ考える素振りをしてから、各々が回答を述べる。


「ポ、ポジティブ?」と結。

「妙に前向き、能天気」と那由多。

「首だけで生きてる化け物」と紬。

「恩人だけど……おバカさんかなあ」と聖也。


「バラバラでしょう。私たちは心力(スヴォシア)で構成される生物。――メモリーカードに記憶を逐一保存しなければ、自己を保てない不安定な存在なのです。だから記憶喪失の中、他人の記憶を流し込むということは……」

「リウラという存在そのものが、別なものになる可能性がある?」

「そうです。今回、人格や肉体が一切置き換わらずに、肉体を一部でも取り戻せたのは奇跡。アーサーの取った行動はとんでもない荒療治なのですよ」

「ケッ、結果ちゃんと復活したならいいじゃねえか」


 ふてくされたようにジュースを飲むアーサーを、ラクナが忌々しそうに見つめる。

 荒療治には違いないけど、リウラが復活するには仕方がないのでは?

 そんな考えを読み取ったかのように、ラクナは聖也に向き直った。


「……せいぜい、記憶を貰う相手は選ぶことですね。リウラが正しく、肉体と記憶を取り戻すために」

「ちなみに、ラクナからリウラの記憶を貰うことは……」

「ダメです」


 ラクナは念を押すような強い口調で、繰り返す。


「私の記憶ではダメです」


 何かを隠すような強い言い回しに、聖也は怯んで何も言えなくなってしまった。

 ラクナの記憶で復活すると、何かまずいのか。

 アーサーに怒っていたのも、記憶を使っての復活に他に、問題があるからだろうか。


 場が完全に静まり返ってしまい、カラオケボックスのモニターのCMの音声だけが、狭い密室内に響き渡る。


「……まあまあ、リウラの復活はさておいて、とりあえず次のゲームの方針を決めましょ! 紬とラクナも次から協力してくれるのよね?」

「ええ」

「紬がそうするならば」

「こんなに心強い味方が増えたんだもの! 皆、必ず次のゲームも勝ち残るわよ!」


 壊れた雰囲気を元に戻そうと、那由多が強引に場を纏めた。

 これ以上はラクナも話す気はなさそうだ。聖也と結は顔を見合わせて、那由多のテンションに「おー!」と拳を掲げてのっかった。


 その後は次のゲームの行動について、1時間くらい話し合った。


 まず、ライフ1の結は、現状最高戦力である紬たちと行動することに決まった。

 ラクナのカウントを安全に溜めたい紬にとっても、結の【ステルス】はありがたかったらしく、暫くは一緒に行動してもらうことになりそうだ。


 そして聖也と那由多は――


「他にも協力してくれるプレイヤーがないか探しましょ」

「了解。仲間をどんどん増やそう」


 方針を固めて、その日は解散となった。

 那由多との出会いのおかげで、バトルロワイヤルという環境下でチームを組めるのは大きな利点。


 消えたプレイヤー全員の復活。その実現に着々と近づいている実感を胸に、聖也は現実世界へとログアウトした。



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