襲った理由
本編改稿作業、完了しました。
一人称から三人称への変更になります。
突然の文体の変更、申し訳ございません。
その分、物語をテンポよく、面白く展開できるよう努力して参りますので、宜しくお願い致しますm(__)m
【召喚都市・昼】――普段はデスゲームの戦場となっているフィールド。
聖也はショッピングモール地下にあるコーヒーチェーン店で、とある人物と会う約束をしていた。
「すまない、待たせたね」
会う約束をしていたのは、那由多のライフを狙った張本人――ロイド・クラフト。
呼び出したのは聖也なので、2人分のコーヒーをポイントで購入して、適当な席に着く。
「……話ってなんだい?」
「……単刀直入に聞きます」
互いにコーヒーを一口すすってから話を始める。
「なんで……那由多さんのお父さんのカードを狙ったんですか?」
「……なるほど、その話か」
少し渋い顔をしてから、ロイドはコーヒーカップを置いた。
「決まっているだろう。お父さんの記憶を読みとって、会社を立て直すためだよ」
「……那由多さんに頼んで、お父さんの記憶だけ見せてもらえば良かったんじゃ?」
「僕は技術者じゃなくて経営者だからね。僕が記憶を読んでも、技術の完全再現には至らないのさ」
聖也の質問にロイドが首を振って答える。
「カードを奪って、会社の技術者に見せる予定だった。カードはプレイヤーが死ななきゃ所有権が移らないからね」
「……那由多さんと協力して、お父さんのいた世界を取り戻そうとは考えなかったんですか」
「勝者の特権か。……残念だが、僕も那由多ちゃんもこのゲームの勝者にはなれないよ」
「……どういうことですか?」
聖也が怪訝な顔になると、ロイドは話を切り替えるためにコーヒーをすすった。
「君なら気付いているだろう。このゲームは……カウントが大きい契約戦士を持つプレイヤーが有利すぎるということを」
ロイドの言葉に聖也がうなずいた。
それはゲームを始めてから真っ先に気が付いた点だった。
ゲームでのサモナーズロードでは、他のバトロワゲーよろしく、時間経過でエリアが縮小していって、プレイヤー同士が接触しやすくなるシステムになっていた。
カウントの高い契約戦士を使うということは、狭くなっていくフィールドでゲーム終盤まで一人で戦うリスクを背負う、半分ギャンブルみたいな戦法だった。
そこを立ち回りやメインデッキの調整で、どうカバーするかが面白い部分だったのだが――
今巻き込まれているデスゲームでは、そのエリア縮小が起こらない。
つまり、逃げる側が圧倒的に有利のルールになっている。
「僕のヴォルバーンのカウントは6。那由多ちゃんのアーサーのカウントは5。……カウント10のあの機械のプリンセスに勝てると思うのかい?」
実際に、紬の契約戦士であるラクナの必殺技【無限機械兵】は発動さえしてしまえば、無限に湧き続ける機械兵が他プレイヤーを殲滅する、チート技。
ヴォルバーンやアーサーが弱いわけではないが、勝ち残りを前提にしたときのゲームメイク能力が違いすぎる。
「カウントが低い契約戦士たちを持つプレイヤーは、他の人が契約戦士を呼ぶ前に倒すか、『カウントの高い契約戦士を持つプレイヤーの駒として動くか』の二者択一ってことですか?」
「そうだ。僕はハナから勝ち残りなんて考えていない。お父さんのカードを狙ったのも、『今の世界で生きている家族や社員を守る』ためだ。……なんて今更、言い訳かな」
ロイドは自虐気味に笑って、一気にコーヒーを煽った。
「……那由多ちゃんに『悪かった』とだけ伝えてくれないか。もう……那由多ちゃんにも君にも会わない。……私みたいな汚い大人になるなよ」
そう言って背を向けて去ろうとするロイドの背中は、何だか哀愁を帯びて見えた。
放っておいたら、そのまま知らないうちに消えてしまいそうな背中だ。
「……あの!」
聖也が席から立ち上がり、消えそうな背中に向かって叫ぶ。
「辛くなったら……やばかったら連絡ください! 僕も、那由多さんも力になります!」
その言葉に、少しだけロイドは立ち止まって、そのまま振り返らず歩き出した。
消えそうだった背中が、ほんの少しだけ熱を取り戻したように小さく震えていたような気がした。