戦いの後で ②
多くの人が寝静まっているような遅い時間帯。
聖也は暗い部屋の中デスクの照明だけをつけて、とあることを纏めたノートと向き合っていた。
まじまじと向かい合っているのは、謎のデスゲーム『サモナーズロード』について、わかっていることを纏めるために、聖也が用意したノート。
「……やっぱり変だよなあ」
結からの情報に加えて、今回、那由多からもたくさんの情報が得られた。
特に有益だったのは勝者の特権と、メモリーカードについてだ。
デスゲームで生き残って、消えた人すべてをこの2つを組み合わせて復活させる。
それが自分たちの当面の目標となるだろう。
何故、聖也と結だけがこのゲームについて肝心な情報を知り得ていないのかとか、何故リウラは記憶を失っているのかとか、疑問点は数えきれないくらい存在するが、特に気になるのは2つ。
1つ目は、このデスゲームは何者か――聖也たち、いや、下手をすればリウラたちの世界の常識さえ軽々凌駕するほどの、超越的な存在の意志を持って行われている可能性が高いということだ。
どのようにして参加する人間が選ばれているのかはわからないが、少なくてもある程度厳選されているのは確かだ。
それは那由多が父親の存在を消されて、存在を取り戻すためにゲームに参加していること――一部の人間に戦うための動機付けが行われていることからうかがえる。
適当に選んでいるなら、戦いたくない人間にこんな動機付けは行わないだろう。
そして問題なのは2つ目。なぜ自分だけが『サモナーズロード』というゲームの記憶を引き継いでいるのか。
自分が知らない契約戦士は存在しているものの、自分がアーサーのことを知っていることを、当のアーサー本人は不思議そうだった。那由多も結もこのゲームのことを知らなそうだ。
よく考えれば松田もだった。松田も『このゲーム』と言っただけで、『サモナーズロード』というタイトルを口にしても、首をかしげていた。あれだけ世界中で人気だったゲームがだ。
断定はできないが、考えられる要因は1つある。
それはサモナーズロード消失以前に、聖也のメモリーカードが存在していたということだ。
メモリーカードが聖也を『サモナーズロードがない世界』という、世界線の改変から守り、聖也だけが『サモナーズロード』というゲームの知識を、唯一引き継いだ人間になった可能性。
ただここで気になるのが、聖也の参戦時期だ。
松田がおかしくなった日が2か月前。結や那由多がゲームに巻き込まれたのも2か月前。
聖也がゲームに巻き込まれたのは、ここ3週間ぐらいでの出来事だ。
つまり聖也は、ゲームに遅れて参加しているのにもかかわらず、聖也のメモリーカードは、他の誰よりも先に存在していたという可能性が浮上してくる。
誰かの意志によって運営されているゲーム。そしてその存在が真っ先に作ったであろう聖也のメモリーカード。
これがはたして何を意味するのか。
「……これ以上は、今は分からないな」
浮かび上がり続ける疑問に、区切りをつけるようにノートを閉じて、聖也はデスクの照明を消す。
「お休みリウラ」
「うむ、おやすみだ聖也」
ほんのちょっとだけ体を取り戻した戦友に挨拶をして、聖也はベッドに潜り込んだ。
ロイドや紬さんに、話を聞けたら聞いてみよう。
そう決めてから聖也は瞼を閉じたのだった。