決着。勝敗を分けたのは
「ケリをつけるよ【無限機械兵】‼」
全速力でラクナへ向かう聖也たちへ、ヴォルバーンに乗ったロイドが飛来する。
「させないよボーイズ!」
ロイドが迫ってくるのを見て、聖也はすぐさま【煙・白煙】のカードをスキャンし、辺りに煙幕をばらまいた。
一帯を、すぐ傍も見えなくなるほどの、濃い煙が覆う。
「那由多さん! 必殺技だ!」
聖也が大きな声で叫ぶと、那由多が必殺技カードをスキャンし、アーサーが聖也たちを守るように目の前で大きく盾を構えた。
【萬流転槍】――どんな攻撃も一度だけ無効化し、その2倍の威力のエネルギーを次の槍の攻撃に乗せるカウンター技。
「だめだろう。そんな大きな声を出しちゃ」
声で位置を推察したロイドが、目前に迫ってきた。
ロイドの役割は恐らく、【次元跳躍】の消費。
ブレスではなく、近距離攻撃で【萬流転槍】を腐らせに来たのは、半分は紬の指示だろう。
この距離はまだ【次元跳躍】を使っても紬には届かない。中途半端な距離でワープをしてしまえば、機動力の高いヴォルバーンに挟み撃ちにされて終わる。
「いいんだよ。狙った獲物が釣れたんだからな‼」
聖也は準備していた1枚のカードをすぐさまスキャンした。
――お前がやったことと同じだ、ロイド。
視界を奪った上で、声で位置を知らせたのは――他に気付かれたくないものがあるからだ。
聖也が気づかれたくなかったもの――それは煙幕の外。上空に出現する巨大な魔方陣。
「――――なあっ⁈」
「――――ガアッ⁈」
聖也たちの目の前で隕石が落下したような衝撃が起こり、辺り一帯の小さな機械兵、そしてロイドとヴォルバーンを吹き飛ばす。
衝撃で煙幕が晴れて現れたのは、【剣・巨人殺しの大剣】で呼び出した全長50mはあろうかという巨大な剣。
巨大なクレーターを生み出すほどの、質量を持つ剣の下敷きになったロイドたちは、光となって消滅した。
【萬流転槍】の『どんな攻撃も一度なら無効化する効果』で聖也たちは無傷。そして『辺り一帯を吹き飛ばすほどの衝撃、その2倍のエネルギー』がアーサーの槍にチャージされる。
「突っ込めアーサー‼」
「防ぎなさい! 機械巨神兵‼」
アーサーが勢いよく突っ込むとほぼ同時、ラクナが巨大な機械兵を進軍させアーサーの前に立ちはだからせる。
【次元跳躍】でアーサーをラクナの下にワープさせるには、まだ距離が足りない。
ラクナの狙いは巨大な機械兵を使って、アーサーの一撃を消費させることだ。
この対応の速さから察するに、紬は聖也たちの攻撃手段を読み切ったうえで、ロイドを、剣を消費させるための当て馬にしたらしい。
――だけど、それがお前たち最大のミスだ。
「ええい、聖也氏、リウラ‼ 信じるぜ!」
目の前に迫る巨大な機械兵に目もくれず、アーサーは速度を落とさずに突進する。
当然、巨大な機械兵はアーサーの進路上に立ちふさがるが――
「行くぞリウラあああああ‼」
「任せろ聖也!」
聖也が大きく助走をつけて、リウラを巨大兵に向かってぶん投げた。
手を離れる瞬間、聖也の手のひらを足で蹴って、リウラがさらに加速する。
散々逃げ回ったおかげで勘違いしているかもしれないが、【次元跳躍】は聖也たちが瞬間移動するだけの技じゃない。リウラとリウラが直接触れているものを瞬間移動させる技。
「「【次元跳躍】‼」」
アーサーを追い越して、リウラが巨神兵に触れた瞬間、巨神兵とリウラが――聖也たちのはるか後方へ瞬間移動する。
「「――――な⁉」」
予想外の方法で、壁を剥がされた紬とラクナが、絶望した表情で口を開ける。
【次元跳躍】のワープ対象は味方だけじゃない。
第2の活用法――それは邪魔な敵の瞬間移動だ。
「っ! 逃げ――ぐあっ」
「ラクナ⁈」
生み出され続ける機械兵を囮に、距離を取ろうと踵を返したラクナに、那由多が放った感電矢が命中した。
動きが取れなくなったラクナは、体を痺れさせながら、6本の腕で地べたに這いつくばる。
「合図したらアーサーの必殺技、アーサーはラクナ本体を狙う。私はラクナの動きを止める。そして……」
全てをやりきった顔で、那由多がニッと笑った。
「貴方とリウラを『信じる』。全部守ったわよ。聖也君」
最後の悪あがきに、生成された機械兵をアーサーにぶつけてくるが、そんな雑兵じゃ今のアーサーの一撃は防げない。
「……負け、ですね」
諦めたように目を閉じるラクナに、激しい輝きに包まれたアーサーの槍の一閃が炸裂した。
「吹き飛べやあ! スクラップもろとも‼」
「うああああああああああああああああ⁉」
アーサーの槍から解き放たれたエネルギーが、機械兵ごとラクナと紬たちを消し飛ばした。
ラクナを倒したことで、背後の巨大な機械兵や、運動エリア内を包囲していた機械兵たちが一気に消滅する。
「――! ログアウト!」
紬たちを倒したことで、ライフノルマが終了し、聖也はボタンを押して現実世界へ帰還する。
ログインした場所と同じ。河川敷傍の橋の下。
聖也に遅れて、那由多も帰還してくる。
「……勝ったの? 私たち」
戦闘の緊張から解けた那由多が、その場で力が抜けたように膝をついた。
「うん。僕たちの……」
聖也たちが勝てた要因。それはロイドが剣の当て馬役で突っ込んできたこと。
仮にこれが、巨大な機械兵→ ロイド&ヴォルバーン→ 紬さん&ラクナの順で接敵していた場合、聖也は巨大な機械兵相手に【剣・巨人殺しの大剣】を切らなければいけなかった。
その後ロイドたちを【次元跳躍】でどかそうにも、ラクナを倒したところでロイドたちは消えないから、ワープ先でリウラが倒されてゲームオーバー。
先に【次元跳躍】で巨大な機械兵をどかすのも、その後にロイドたち→ 紬たちと対面しなきゃいけないため、ラクナを倒すのに時間がかかりすぎる。
対応している間に、ワープ先で巨大な機械兵に、リウラが倒されてゲームオーバー。
巨大な機械兵を無視して、アーサーを直接ワープさせるのは、完全にワープ慣れしていないアーサーにとってリスクでしかない。
一撃を外せば後がない状況だ。
この方法もリスクが高すぎる為、実行に移せない。
つまり、聖也たちの勝利条件は【剣・巨人殺しの大剣】でロイドたちを撃破+【萬流転槍】のエネルギーチャージを達成した後で、巨大な機械兵の瞬間移動と、ラクナの撃破をほぼ同時にこなすことだった。
これは紬たちが自分を守る役にロイドではなく、巨大な機械兵を選んだことが原因だ。
つまり、この戦いの明暗を分けたのは――
「……僕たちの、『信頼』の勝利だ」
聖也が拳を差し出すと、那由多も少しだけ目を丸くしてから、穏やかに笑って拳を突き合わせた。
少し涼し気な夜の橋の下。互いの拳にこもった熱の温かさが、じんわりと胸に染み込んできた。