VS【無限機械兵(ムゲンマキナ)】
「リウラ、【次元跳躍】!」
「任せろ!」
合図とともに、聖也たちはリウラにしがみつき、機械兵からの猛追を瞬間移動で躱し続ける。
「おい聖也氏、敵も【次元跳躍】に慣れてきてねえか⁈」
【次元跳躍】はこれで5回目。
4回目を過ぎたころから、ワープ先に敵が待ち構え始めた。
つまり敵は【次元跳躍】の性質に気が付き始めている。
直接聖也たちを襲いに来る部隊と、ワープの限界距離である100m先で聖也たちを待ち構える部隊。
この2つの部隊で追い詰めるつもりのようだ。
聖也たちの追撃と並行してエリアの包囲も行っているから、包囲にもまだ穴がある。
だが、時間をかけるほど敵の戦力は増えていく。
今は包囲の穴へ【次元跳躍】ができるが、その穴さえいずれ埋まってしまうだろう。
「ここらで潮時だ。ドーム球場へ向かうよ」
「紬たちを倒しに行くの?」
「いや、紬さんたちはそこにいない」
聖也は機械兵から逃げながら、マップを見て紬たちの位置を確認した。
恐らく【次元跳躍】対策だろう。紬たちは拠点を見晴らしのいい駐車場へ移している。
ドーム球場には、万一聖也たちが『紬さんたちがドーム球場に残っている』と思ってきたところを迎撃するためか、結構な数の機械兵が残っていた。
「倒すプランはいくつか考えたんだけど、こいつらを引き連れたままだと危険なんだ」
「じゃあどうするの?」
「こいつらまとめて動きを止める。皆、次のワープ後が正念場だ」
聖也がリウラを掴むと、那由多とアーサーも、覚悟を決めた表情でリウラを掴む。
まともな作戦を説明できていないのに、那由多たちは聖也を信頼してくれている。
「リウラ、スタジアム内へ【次元跳躍】!」
「おう!」
合図とともに、聖也たちはスタジアム内へと瞬間移動した。
複数回のワープを経験したため、ワープ後の着地も安定してきた僕たちであったが――
「ちょっ⁈ 思ったより敵が多いんですけど⁈」
周囲に散在する多くの機械兵たちに、アーサーが悲鳴を上げた。
「一点突破だ球場の方へ!」
「中央は逃げ場がないぞ聖也!」
「だからいいんだよ! 敵を集められる!」
聖也たちは機械兵から逃げながら、ドームの通路を抜けて球場へと躍り出た。
「球場内に機械兵を溜める‼ 皆、暫くは【次元跳躍】なしで耐えるよ‼」
「「はあ⁉」」
「アーサー! 全体防御スキルあるだろ! あれで球場の中心で耐える!」
「あーもー! わけわかんねえけどやりゃあいいんだろ⁉」
すぐさま球場中心へと向かい、アーサーのスキル【護壕砦炎】の発動を促す。
アーサーが槍を地面に突き立てると、聖也たちを半円状の蒼炎のバリアが包んだ。
そしてバリアの中心にいる聖也たちへ、四方から機械兵たちが襲い掛かる。
「いつまで耐えればいいのこれ⁈」
「まだだ! 可能な限り引き付けて‼」
聖也はマップを見ながら、辺りの機械兵たちが、球場中心になだれ込んでくるのを確認する。
球場中心から球場外までの最短距離は120mほどのはずだ。【次元跳躍】の距離より少し遠い。
つまり聖也たちを直接狙う機械兵も、【次元跳躍】対策で周囲にスタンバイする機械兵も、皆球場内に集合することになる。
「聖也氏⁈ まだ⁈ まだ⁈」
「まだ! まだ!」
これを好機と見たのか、ラクナも球場外の機械兵をドーム内に入れて、聖也たちを追い詰めにかかっている。
「もう無理! 聖也氏もう無理‼」
「お前ならやれる! もう少し頑張れ!」
既に周りの機械兵は2000体以上。炎のバリアももう限界なのか、機械兵の攻撃で穴が開き始める。
機械兵の釘の爪が、バリアを突き抜けて内部に食い込み始めた。
那由多が【簡易防御壁】で穴を補強するが、バリアが破られるのは時間の問題だ。
そして、周囲の機械兵が全員球場内に入った時――
「十分だ‼ 皆リウラにつかまって‼」
聖也の合図で、皆リウラにしがみつく。
わざわざドーム外の機械兵まで聖也たちの追撃に当てたということは、四方を取り囲み切ったことで、逃げ場を失った聖也たちを潰せると判断したのだろう。
確かに逃げ場はない――四方には。
「リウラ‼ 真上に【次元跳躍】‼」
聖也が上を指し示すと、リウラが皆を連れてドームの屋外部分にワープした。
ドームの高さはおおよそ57mほど。球場中心から、真上の屋外部分への直通エレベーターだ。
そして、那由多が持つこのカードで仕上げだ。
「那由多さん! ここを出口に【変質:迷宮】のカード‼」
「! オーケー‼」
聖也の指示で那由多が【変質:迷宮】のカードをスキャンし、そのままドーム部分に叩きつけた。
するとカードを叩きつけた場所に、唯一の出口が出現し、その他の球場入り口は、謎の力で一気に封鎖された。
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【変質:迷宮】×1……カウント10。発動位置を出口に、指定の建物を入り組んだ迷路にする。Rarity…LR
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ある程度の指示ができるとはいえ、迷宮と化したドーム内。それも空の飛べない機械兵が、天井に設置した出口までたどり着くことは絶対不可能。
これで紬たちは2000体以上の機械兵を――聖也たちを追い回すための機械兵を、一気に失ったことになる。
「【スコープ】!」
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【魔法:スコープ】……カウント1。両手の親指と人差し指で四角形を作ると、四角形内の景色が拡大して見える。手を広げると更にズームする。Rarity……C
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機械兵封印後、すぐさま僕は【魔法:スコープ】のカードをスキャンし、両手の親指と人差し指で四角形を作り、駐車場を拠点にする紬さんたちの様子を確認した。
「何あのデカブツ……他の機械兵と違う」
およそ300m先の駐車場。スコープを使わずとも視認可能なほどの、大きな一体の機械兵に那由多が戦慄する。
大きさは10mほどだろうか。複数の機械兵を材料に生み出されたであろう、巨大な機械兵は、おそらく他の機械兵とは比べ物にならないほどの、パワーと防御力を持っているに違いない。
聖也たちのスキルとカードで、あいつを倒せるのは恐らく【剣・巨人殺しの大剣】のみ。巨大な機械兵相手にそのカードを切ってしまうと、ロイドを倒す手段が無くなってしまう。
しかし、それより大事なのは敵の陣形だ。聖也はスコープを使って紬たち全員の配置を確認する。
敵はラクナと紬を中心に100体ほどの機械兵が取り囲み、その約100m先に巨大な機械兵。
その更に100m先にロイドとヴォルバーンといった布陣だ。
【次元跳躍】と聖也のカードを、ロイドや巨大な機械兵に切らせて、ラクナたち本体で迎え撃つ構えだろう。
つまり、今から真正面からぶつかり合った時、対面する順番はロイド&ヴォルバーン→ 巨大な機械兵→ 紬&ラクナの順番だ。
「……」
この順番なら、勝てる。
「那由多さん。アーサー。これが最後の作戦だ。時間が無いから説明は省く」
「最後の作戦?」
「その1、僕が合図をしたらアーサーの必殺技を発動して僕たちを守って。その2、アーサーは必殺技でたまったエネルギーでラクナたち本体を狙うこと、その3、那由多さんは残りの感電矢でラクナたちの動きを止めて」
「ロイドや、間の巨大なヤツはどうすんだよ?」
「僕とリウラを信じて。とにかくエネルギーが溜まり次第、アーサーはラクナだけを狙うんだ」
聖也が指示を終えると、皆で小さく頷きあってからリウラに触れた。
機械兵を分断し、挟み撃ちの可能性が消えた今が最後のチャンス。
「最後の詰めだ‼ ケリをつけるよ【無限機械兵】‼」
「うん!」
「「おう!」」
それぞれの覚悟を胸に、聖也たちは【次元跳躍】で地上に降りると、紬たちに向かって全力で駆けだした。




