復活()と蘇るスキル
「作戦変更だ! リウラの体を回収に向かう!」
なぜ体が転がっているのかはわからない。だが、聖也たちに残された希望はリウラの復活だ。
「リウラさえ復活すれば僕たちが勝つ!」
「! わかった!」
那由多が力強く返事をした。
「聖也、そこの角を右だ!」
「アーサー、頼む!」
「しゃーねーなあ‼」
リウラがテニスコートの角を曲がるように指示するが、そこには5体ほどの機械兵が待ち構えている。
どうやら聖也たちを遠めに包囲しながらも、足止め用に、疎らにエリア内にも機械兵を配置しているらしい。
「どけやガラクタ共‼」
アーサーが盾を正面に構えたまま機械兵たちにタックルを食らわせ、盾に触れた機械兵が【反鱗炎哮】の炎で吹っ飛ばされた。
「その先だ!」
リウラが示す先に、またも機械兵の集団が現れる。
今度はおおよそ30体ほど。
先ほどの戦闘を鑑みてか、一度に全員で襲ってこない。部隊を3つほどにわけて、バラバラに襲ってくる。
アーサーが第一陣の機械兵を、先ほどのように吹き飛ばすが――
「抜けたぞ!」
その隙に残りの2部隊が、聖也と那由多に迫りくる。
「感電矢が足りない……!」
那由多の感電矢のカードは残り3枚。
鉄くずの機械兵相手とはいえ、感電矢は単体対象なので、20体ほどの機械兵の動きを止めるには数が足りない。
だが、そんなことは聖也も分かっている。
「那由多さん! 今だ!」
聖也は【砲・ウォーター】をスキャンし、出現したバズーカ型の水鉄砲で機械兵の集団を水浸しにする。
「――! ナイス!」
那由多が感電矢を放つと、水を伝って集団に電導し、機械兵たちの動きが止まった。
その隙に聖也たちは、目的の場所にたどり着いた。
「聖也! あそこだ!」
「どこだよ⁈ 体なんて見当たらないぞ⁈」
リウラが指定した地点に着いたはいいものの、辺りにリウラの体らしいものは見当たらない。
あるのはどこかで見たような気がする、装飾品が付いた厚手のブーツぐらいだ。
「……」
……いや、まさかな。
嫌な予感を覚えながらも、聖也はそのブーツを手に取った。
なんだか中身が入ってるような重量感だ。
靴底を覗いてみたけど、何やら謎の虹色のオーラが出ていて底が見えない。
虹のオーラはプレイヤーや、契約戦士が傷ついたときに出ていたオーラや、リウラの首の断面から漏れ出るオーラと酷似している気がする。
謎のブーツを手に取りながら、聖也は恐る恐る確認を取った。
「……まさか、これ?」
「ああ!」
リウラが力強く返答する。
「どうやらそれは俺の足みたいだな!」
「「「あ、足いいいいいいいいいいいいいいいいいいい⁈」」」
悲鳴に近い声が辺りに響き渡った。
「足⁈ 足って何⁈ リウラお前……体があるって言ったじゃないか⁉」
「? あっただろう」
「一部だなんて聞いてないわよ⁉」
「荷物が増えた分状況が悪化してるじゃねーか⁈」
アーサーの言う通り、このままではリウラの頭部に加えて、足まで担いで移動しなければいけなくなる。
「何とかなんないの⁈ せめてくっつくとかさあ!」
「お、おい⁉ むりやりくっつけようとしても――」
聖也がグリグリと、リウラの足を頭部に押しつけてみる。
リウラも顔に無理やり足を押し付けられて、物凄く嫌そうに抵抗した。
そして押し付けている最中、リウラの首の境目部分と、足の境目部分が近づいたとき――
「「「「………………」」」」
リウラの足が首の境目部分から離れなくなった。
「「……」」
リウラと顔を見合わせた後、聖也は無言でもう一方の足を首元付近に近づけた。
「「「「………………」」」」
そしてもう一方の足も同じく、リウラの首元に固定された。
「……む?」
何が起こったのか理解できず、聖也たちが呆然としていた所、リウラの足がバタバタと動き始めた。
「おお! 動けるようになったではないか‼」
「いやいやいやいや‼ おかしいだろ⁈」
聖也の手からリウラが離れ、ほぼ一頭身の姿で辺りを走り回って見せる。
「キモイキモイ! どんな生物よあなた⁉」
人の形を成してないリウラを目にし、那由多が本気で気味悪がった。
頭と足は完全にくっついているわけではなく、首と足の切れ目から洩れている虹色のオーラを境界にして、引き寄せあっているような感じだ。
そうは言っても、首と頭の間のパーツを全部すっ飛ばして生命活動ができている理由が、誰にも分からないが。
「って、んなことやってる間に囲まれちまったじゃねえか⁉」
そんなことをやっているうちに、機械兵たちが追いついてきて、逃げ道を潰すよう四方を取り囲んだ。
「リウラ、その姿で【ゼロフレーム】は打てないの⁉」
「……打てん」
「「「ふざけんなお前⁉」」」
わざわざここまで危険を冒させておきながら、リウラが動けるようになった以外のメリットがない。
その身体能力も、膝や周辺の筋肉などのパーツがないからか、機動力は聖也や那由多より少し高いくらい。攻撃力に至っては皆無だ。(足先だけのパーツでそこまでの運動能力が復活しているのはすごいかもしれないが)
むしろ感電矢などの貴重なカードを消費した分、収支で言ったらマイナスまで考えられる。
「足だけ復活したところで何の意味もないじゃない‼」
「そうだよ! 足だけ復活したところで――」
那由多と共に食って掛かろうとした時、
「――足……?」
聖也の脳内に、以前リウラとした会話がフラッシュバックする。
――スキル! スキルは使えないのか⁉
これは、リウラを初めて召喚したときのことだ。
――これはどうだ⁉ スキル【次元跳躍】‼ 足にエネルギーを溜めて瞬間移動する技‼
――足が無いから使えんな。
もしかして、もしかすると!
すぐさまスキャナーを使って、リウラのスキル情報を確認する。
【次元跳躍】……足に溜めているエネルギーを消費して、一定距離間内を瞬間移動する。30秒に1回使用可能。
――前見た時よりだいぶ弱くなっている。だけど……
「全員‼ リウラに今すぐ捕まって‼」
「「え⁈」」
「リウラ、気が付かないか⁈」
復活している。リウラの主力である、最強の移動スキルが!
「【次元跳躍】! 皆を運んで‼」
「! よしわかった‼」
敵の機械兵たちがすぐ側まで迫った瞬間、聖也たちの視界が一瞬で別な場所に切り替わる。
「【次元跳躍】‼」
何百体と聖也たちを囲んでいた、機械兵の包囲陣。
聖也たちはそいつらを置き去りにして、その後方へと瞬間移動した。
「が⁈」
「痛っ!」
「ぐえっ」
ワープ慣れしていないリウラ以外が、跳んだ先で盛大に転んでしまう。
「いったぁ……何これ、ワープ⁉」
「リウラ、今の距離が最大レンジか⁈」
「……いや、ここからあの植木くらいまでならいけるぞ!」
リウラが示したのは、運動公園内に適度な感覚で植えられている、幹が細く背の高い植木だ。
最大距離はおおよそ100m。
過去の体験から察するに【次元跳躍】の対象はリウラ自身だけでなく、リウラが触れているものも含まれる。
過去の戦いで聖也の首を絞めていたディードは一緒に瞬間移動されなかったことから、リウラに直接触れているもの以外は、瞬間移動不可能。
並行して考えるのは敵の情報だ。
機械兵は先回りしていることから、ラクナの意志である程度機械兵は操ることができる。
機械兵の位置を通して、こちらの位置を補足可能。
そして、機械兵一体一体は、さほど強くはないということ。
【次元跳躍】のスキル、そして現在、自分が置かれている情報を、立ち上がりながら整理する。
そして、聖也の頭をよぎる天啓。
「那由多さん! 紬さんたちってライフ1じゃないよね⁈」
「え?」
返答は那由多の代わりにアーサーがしてくれた。
「あいつらライフ3だ! スキャナー横のランプの色で分かる!」
聖也のランプの色は緑、那由多のランプの色は黄色。そういえば結のランプの色は赤だったか。
紬たちも、聖也と同じ緑のランプ。つまりライフ3。
ここで倒されても、まだゲームオーバーになるわけじゃない。
このまま【次元跳躍】でエリア外に出てしまってもいいかもしれないが、今回逃げ切れても、おそらく紬たちは今後も那由多を狙ってくるだろう。
那由多を狙わないよう交渉の場に立つためには、逃げ回るのではなく、自分たちの力を示す必要がある。
「まさか、倒しに行くの⁈ 紬たちを⁈」
「うん! あいつら1回ぶっ飛ばさないとダメだ!」
足りていなかった機動力と火力。その一つが【次元跳躍】で埋まる。
【次元跳躍】で手に入れた、瞬間移動という新たなカード。
この能力は相手にとっても想定外の能力のはずだ。
紬たちがこの能力に対応する前に、敵の包囲を躱して、機械兵の主であるラクナを討つ。
「攻略するよ【無限機械兵】‼」