孤独(ひとり)じゃない
「っらあ‼」
聖也は間一髪、那由多に襲い掛かる矢を、感電警棒で上へ弾く。
「「なっ⁈」」
「せ、聖也氏にリウラ⁈ 逃げたんじゃ⁈」
聖也が戻ってくるのを予想していなかった、紬とロイドが驚きの声を上げる。アーサーでさえ予想外と言わんばかりの表情だ。
「せ、聖也君……?」
「逃げるよ! こっち!」
聖也は感電警棒を投げ捨てて、リウラを抱えている手とは反対の手で、那由多の腕を強引に引きながらその場を後にする。
アーサーもそれに続いて、その場を後にしようと駆けだした。
「……逃がさないよ‼」
混乱しながらもロイドが、ヴォルバーンと共に高速で接近してくる。
聖也は那由多たちを連れて、すぐ傍にあったドーム球場のゲートを潜った。
そして、ロイドたちがゲートを潜ろうとしたタイミングで――
「【ビッグフェイス】‼」
「ぐあっ⁈」
【魔法:ビッグフェイス】のカードをスキャン。ロイドの顔面が瞬間的に巨大化し、そのままゲート入り口で引っかかってしまった。
「ちょっと! なに間抜けなことになってんのよ⁉」
「か、顔が引っかかって……」
顔面をゲートの壁や地面に圧迫され、タコみたいになっている主人を、ヴォルバーンが困惑した様子で眺めていた。その隙に聖也は那由多たちを連れて距離を取る。
そしてある程度敵を撒いたところで、聖也は呆然した様子の那由多に、真正面から向き直った。
「ごめん‼」
「……え?」
リウラを地面におろしてから、頭を深く下げながら続ける。
「直前まで疑ってごめん‼ リウラの事話せなくてごめん‼ 一度逃げ出してしまってごめん‼ 那由多さんが僕のことを信じてくれてたのに、僕は那由多さんのことを信じていなかった‼」
「い、いいよ」
那由多が涙声で返す。
「私が馬鹿だっただけだから。あいつの言うことが正しいよ。人を殺して勝ち残らなきゃいけないゲームで、誰かと協力なんてきれいごとだよ」
那由多の目から少しずつ涙があふれ始める。
「……助けてくれなくていいよ‼ どうせ後で裏切られて辛い思いをするくらいなら、私は一人のままでいい‼ 一人でお父さんのいた世界を取り戻してみせる!」
「一人じゃないから‼」
吐き捨てるように叫ぶ那由多の肩を、聖也は力強く掴んだ。
「僕のデッキはカスだし、リウラは首だけで役に立たないし! 那由多さんの力にはなれないかもしれないけど――孤独じゃない! 那由多さんの願いの先で、必ず僕も傍にいる!」
――お父さんを失った世界で、どんな思いで戦ってきたのか。
僕が想像する以上に、孤独で、辛い思いでいたはずだ。
それなのに那由多の周りには笑顔が溢れていた。僕以上に大きく変わってしまった世界の中、誰も責めず、自分らしく在ろうとし続けた。
ほんの少しでもいいから、僕はこの人の――
「力になれなくても……心の支えぐらいにはなりたい‼ 那由多さんが辛い時、誰も支える人がいないなら、僕がその支えになる‼」
そう力強く宣言すると、那由多は、言葉を詰まらせ、目を涙で滲ませながら、首を優しく横に振った。
聖也の否定ではなく、まるで自分に何か言い聞かせようとするための動作。
「だから、那由多さん。これは……僕の勝手なわがままなんだけど」
これは協力とかじゃない。聖也の一方的な、そう在りたいという聖也の願い。
「この先もずっと、貴方と一緒に戦っていいですか?」
そうして真っすぐと那由多の目を見つめると、那由多が堰を切ったように、大きな声で、大粒の涙を流して泣き始めた。
聖也を力強く抱きしめるその体は、しっかりと熱を帯びながらも、体の震えは止まっていた。
聖也を支えに、膝から崩れた那由多の体を、聖也はそっと抱きしめた。




