在りたいように在る。
「……すまない。頑張ってみたのだが駄目だったようだ」
魔方陣があった場所にリウラの生首が出現し、開口一番に謝罪の言葉を口にする。
……やっぱりダメか。
「「は……?」」
リウラの姿を見た那由多たちが、間抜けな声を出した。
「ちょ、ちょちょちょちょちょちょちょ聖也氏⁈ 何これ、何なのこれ⁈」
「【戦神 リウラ】……の頭です」
「下は⁈ 頭から下どこに置いてきた⁈」
「うむ……まだ体の復活条件がわかっていないのだ……」
「な、なんで話してくれなかったの⁈ 話す機会ならいくらでも――」
二人がかりで問い詰めてくる那由多たちに、「話すわけないだろう」とロイドが言い放った。
「そっちの状況は分からないが……私なら他のプレイヤーに、自分の弱点なんて教えない。君たちにいつ裏切られて、ライフを奪われるかわかったもんじゃないからね」
「私はそんなことしない!」
「口で言うならだれでもできる。要は那由多、あなた『信頼』されてなかっただけでしょ」
紬の言葉が那由多の心を刺した。
わなわなと震えながら、那由多が聖也の顔を伺ってくる。
違う、最後は話そうとしたんだ。でも話す時間がなかったから――
そんな弁明が思わず引っ込んでしまうほど、那由多の目は光を失ってしまっていた。
「……ごめんね。私のゴタゴタに巻き込んで」
絞りだすように呟いて、那由多は俯きながら、聖也に背を向けた。
前髪で表情は見えなかったが、何かをこらえるように、唇を強く噛んでいたのだけは伺えた。
「……あーばかばかしー! こんな生首ども護衛してられるかっての!」
「痛っ⁈」
アーサーが動けないリウラを、聖也に向かって蹴り上げてきた。
「さっさとそいつ持って失せな」
「いや……でも……」
「失せろって言ってんだよ」
声を低くして顔を近づけてくるアーサーに、聖也もリウラも言葉を失ってしまう。
「……お前らまで守ってやれねーんだわ」
そう小さく呟いて、アーサーは那由多の傍へと歩いていった。
アーサーが、震える肩にそっと手を置いた。
那由多の心は、もう限界に見えた。
ヴォルバーンの溶岩弾と共に、戦いが再開された。
激しい爆発が辺りに巻き起こる。
「…………っ!」
聖也は巻き込まれないよう、リウラを抱えながら、全力でその場を走り去った。
逃げるときもずっと、那由多の暗い顔が、頭に張り付いて離れなかった。
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ある程度距離が離れたところで、聖也はリウラを下ろして、スキャナーの画面を確認した。
ライフノルマはあと3つ。
那由多たちが生き残るには、ノルマが消費されるまで持久戦を挑むしかないわけだ。
「……今からでも体生えてこない?」
「善処はするが、期待はしないほうがいい」
そんな上手いこといくわけないか。
聖也はがっくりと肩を落とし、その場に座り込んでしまった。
「……結局、那由多さんを傷つけただけになったな」
去り際の那由多は震えていた。
光を失った目で虚ろに自分を見つめる様は、裏切られたと言わんばかりの顔だった。
いや、那由多のことだから、裏切ったとかじゃなくて、『信頼』されてなかったことがショックだったんだろう。
――最初から僕が那由多さんを信じていれば、那由多さんを助けることができてたのだろうか?
「……」
いや、それは驕りだな。
聖也の口から、自虐じみた息が漏れる。
そもそも聖也も、最初は那由多を、ゲームのことをよく知っているプレイヤーの一人だとしか認識していなかった。
那由多のことを知ろうと思ったのも、協力するかどうか――判断する都合上、成り行きでやったことだ。
「どうせ力になれないんだから、もっと早くに断っておくべきだった」
そんなことを呟くと、リウラが如何にも不満そうな顔で、聖也を睨んでいた。
「……なんだよ」
「ほんとにそう思っているのか?」
リウラが重ねて尋ねてくる。
「那由多の手を取ったこと――協力を受け入れたことを後悔しているのか?」
リウラの問いに、聖也は少し間をおいてから、強く首を横に振った。
「……してない!」
聖也が後悔しているのはリウラの事を話せなかったことで、結果的に那由多を傷つけてしまったことだ。
「そうだな。那由多のいう協力とは、俺の力で那由多を守ることだったか?」
「……違う。那由多さんのいう協力は――」
――本当はリウラがどうとか、護衛とかどうでもいい。消えた人たちの復活の為――私たち協力しない?
同盟を組む前の、那由多の言葉が頭をよぎる。
――そうだ。那由多さんが僕に協力を申し出たのは、僕が那由多さんと同じ志を持っていたからだ。
僕という人間を信じてくれたから、あの申し出があったんだ。
那由多さんが欲しかったものはきっと――
「聖也。あとは選択するだけだ。……今はできるかできないかは考えなくていい」
リウラが聖也に、ニッと笑って見せる。
「お前はどうしたい? 疑って、一度は手を取って、傷つけて。お前の中に残った意志はなんだ? お前の抱いていた疑心も後悔も、今一番、大事な選択をするための糧なのだ」
「それなら答えは決まってる……けど」
聖也がわざとおどけた口調で、やれやれと首を振った。
「お前の体が元に戻るだけで、イージーな選択なんだけどな~」
「ぐうぅ……‼」
痛い所を突かれたリウラが、苦し気な顔で口を噤んで唸った。
本気で苦しむリウラを見て、聖也は思わず笑い声をあげてしまった。
「……今回も勝てる見込みないけど、いい?」
「負けた時のことは負けた時考えればいいさ」
先のことは分からない。勝てる見込みなんてない。
それでもきっと、それは望む未来から、逃げていい理由なんかにはならないのだろう。
何かを理由に、自分に後ろを向くのは、あの時やめたはずだ。
「在りたいように在る。それが俺たちの強さだろう」
――心の底から、那由多さんたちの力になりたい。
なれるかどうかじゃない。叶えるためには動かなきゃ。
リウラの言葉に強く頷いて、聖也はリウラを担いで立ち上がる。
「……あっちだな」
意志が決まったらあとは行動に移すのみ。
爆炎が立ち上る戦場へ、聖也は全速力で駆けだした。