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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME1 元プロゲーマーと元最強の戦士
3/95

狂った友と見知った世界

「なんでこんなことになっちゃったんだろう?」


 広場中心に設置された町の地図を見ながら、聖也は呟いた。


 案内板の文字は、ゲーム中で使用されていた魔法文字で記載されていたが、違和感なく内容を読み取れた。まるで頭の中に自動翻訳ツールがあるかのようだ。

 頬をつねったり叩いたり。古典的な方法で夢でないか確かめてみたが、痛覚はしっかりとあるし、夢から覚める気配もない。


「街にNPCでもいればいいんだけど……」


 夢であれ何であれ、現状がわからなければどうしようもない。

 取り敢えずぶらぶらと散策でもしてみようかな、と考えていた時だった。


「聖也……?」


 背後から震えた声で名前を呼ばれ、聖也は振り返る。


「……え⁉ 松田⁈ 松田じゃん⁉」


 見知った顔がそこにあり、思わず驚きの声を上げる。

 2か月前突然不登校になった聖也の友達だった。


 2か月も見ない間に松田の顔は酷くやつれていた。

 元々細めの体つきではあったが、痩せこけって目元の下に大きなクマができた姿はまるで病人だ。


 変わり果てた友人の姿に驚きながらも、聖也は松田の傍へ駆け寄った。


「突然学校来なくなるから皆心配してたぞ! いったいどうしたんだよ⁈」

「ああ……それは……」

「……あ、言いたくないなら無理に話さなくていいよ」


 聖也の問いに、松田は言葉を濁して返答をためらった。

 答えたくないことを無理に答えてもらうこともない。それに、聖也は聖也で知りたいことがある。


「知らない間にゲームの中の世界に来ちゃったみたいなんだけど、何もわからなくて困っているんだ。……あ、知ってる? 『サモナーズロード』っていうゲームなんだけど」

「『サモナーズロード』……? というか、聖也。もしかして今日が初参戦なのか……?」

「? 初参戦って?」


 理解ができずに首をかしげる聖也を見て、「そうか……」と何か納得したように松田が呟くと、聖也から見えないよう、両手を自分の背中に隠して、何かゴソゴソと手を動かし始めた。


 ……いや、何その怪しい動き。


 松田が何を考えているのかはわからない。

 だけど怪しい動作や、まるで獲物を見つけた狩人のような視線。

 聖也の直感が気をつけろと危険信号を発している。


「聖也、俺たち友達だよな……?」

「……うん、そのつもりだけど……」

「今日が初参戦ってことは、お前まだ『ライフ』3つあるよな?」

「……『ライフ』?」

「……そのようすだと大丈夫そうだな。何も知らないところ、ごめんなんだけど――」


 なにがどう大丈夫なのか。聖也が口を開くより先に、松田が大きく腕を振り上げた。


「今日は俺の為に死んでくれ‼」


 僕に向かって振り下ろされた一撃を、聖也は後ろに転ぶような形で避けた。

 松田の手にはどこからか現れた、刃渡り15㎝ほどのサバイバルナイフが握られていた。


 息遣い荒く、倒れこんだ僕へナイフを手に歩み寄ってくる友達。

 ナイフの刀身がキラリと街灯の光を反射したとき、聖也は初めて自分が殺されかけたことを理解した。


「……ざ、ざっけんなお前⁈ いきなり何すんだ⁈」


 立ち上がると同時、聖也は一目散にその場から逃げ出した。

 すぐに逃げ出すと思っていなかったのか、反応が遅れた松田が、すぐさま後を追い回す。


「逃げるなーーーー‼ 殺されろーーーー‼ 友達だろーーーー‼ 今日が初めてのゲームなんだろーーーー⁉」


 物騒な言葉を喚きながら追ってくる友を背に、「ゲーム……‼」と、聖也は自分の腕に装備したスキャナーを構えた。


「ゲームならログアウトすれば……!」


 その考えはメニュー画面を目にしたとき打ち砕かれた。

 ステータス、契約戦士、マップ、デッキ――といった様々なコマンドのうち、ログアウトのコマンドだけ灰色に色が変わっている。


 押しても唯一反応がない。どうやら今はログアウトできないのか?


 そんなことを考えながらも、松田と聖也の距離はみるみるうちに離れていった。2か月も見ないうちにやつれた影響か、松田の足はだいぶ遅い。二人の距離がみるみると離れていく。


 自分を狙う松田の顔は、目が血走っていて、あからさまに正気じゃない。

 このまま逃げ切ってもいいかもしれないが、ここがサモナーズロードの世界なら……


「迎え撃つ……!」


 さっき松田は突然、サバイバルナイフをどこからか取り出した。

 いや、取り出したんじゃない。呼び出したんだ。【召喚士】の力で。


 松田の腕には、自分と同じスキャナーが装備されていた。

 スキャナーはその名の通り、カードを読み取り、カードに記された武具、戦士、あらゆる超常現象を具現化する、いわゆる【召喚具】。

 松田は恐らく、サバイバルナイフを自分に見えないように()()したのだろう。


 サモナーズロードはデッキのカードを駆使して相手プレイヤーを倒し、勝ち残りを目指すゲーム。

 聖也の手にも『スキャナー』と『デッキ』は存在している。

 つまり聖也も、召喚の力をゲームのように扱えるということだ。


「ちょうどサモナーズロードの戦いに飢えていた所だ」


 松田の口ぶりから、向こうは今回が初めてのゲームじゃないらしい。

 松田が何故襲ってくるのかはわからない。

 だが、ここが『サモナーズロード』の世界なら当然だ。


 バトロワゲーで敵を見つけたら殺す。当たり前のことじゃないか。


 所詮夢、所詮ゲーム。


 松田が襲ってくるのも、これが夢で、ゲームの世界だからだ。

 夢であろうとサモナーズロードの戦いとあれば、元世界ランキング1位のプレイヤーとして、意地でも負けられない。



 ――ならじっくりと堪能させてもらおうじゃないか。



 聖也は自分の中で反撃の意志を固めると、ショッピングモールの中に駆け込み、適当な物陰に隠れ込んだ。

 迎え撃つには自分の持っている戦力――


「デッキと『契約戦士(チャンピオン)』を把握する必要がある……!」


 策を立てるため聖也はスキャナーからカードを取り出し、辺りを警戒しながら、一枚一枚の効果を確認し始めた。


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