契約戦士VS契約戦士 &第3者の正体
召喚士VS召喚士のフェーズが終わり、互いに契約戦士を召喚したことで、戦いは爆発的に激しくなる。
「二人とも、俺の傍から離れるんじゃねえぞ!」
アーサーの体から蒼い炎が溢れ出す。
守護の炎ともゲーム中で言われていたそれは、聖也を味方と認識しているためか、不思議と熱さを感じさせなかった。
炎がアーサーの両手に集まっていき、左右の手で、アーサーの体より一回り程大きな盾と、穂先の太いパルチザン型の大槍に変化した。
アーサーが対面するロイドの契約戦士――【溶岩竜 ヴォルバーン】は、地に足をつけて戦うアーサーとは異なり、空中の機動力を武器とする、飛竜型のドラゴンだ。
アーサーがファンタジーに出てくるような、正統派ドラゴンの顔をしているのに対して、ヴォルバーンの顔はどちらかというと、トカゲのような爬虫類に近い。
がっしりとした胴体のアーサーと比べ、空を飛ぶために軽さが欲しいからか、体は細め。
背中から生える4枚の翼には炎を噴射する噴射口が備わっていて、翼から吐かれる炎で、まるでジェット機のように飛び回る。
「GO! ヴォルバーン!」
背中に乗っているロイドが合図すると、ヴォルバーンがアーサーの上空を旋回しながら、溶岩のブレスを吐いてきた。
アーサーが聖也と那由多をかばうように前に出て、大楯を使って攻撃を難なく防ぐ。
「そんなちんけな攻撃していないで降りてこい!」
「馬鹿いえ! 君が飛んだらどうだい⁈」
アーサーの挑発が皮肉で返されると、ヴォルバーンが飛行を加速させながら、小刻みに溶岩の弾を連射した。
アーサーも上手く盾でいなし続けるが、アーサーの槍では、空を飛ぶヴォルバーンに攻撃が届かない。
「……! 相変わらず動きが速すぎる!」
那由多が感電矢でヴォルバーンを射抜こうとするが、翼から炎をジェットエンジンのよう噴射にして空を駆ける標的を、目で追うのがやっとの状況だ。
弓を引き絞ったポーズのまま、その矢を放つことができないでいる。
ブレス攻撃の合間合間で、ロイドが銃で、聖也や那由多を狙おうとしてくるが――
「はいそれダメ~」
銃弾が届く寸前、聖也たちの周りに突如として発生した蒼い炎が、銃弾を自動で弾き返す。
【守護炎壁】という、一定以下の威力の攻撃をフルオートで弾き返す、アーサーの防御スキルの一つだ。
敵の攻撃は激しくなったものの、アーサーの防御力のおかげで戦況は膠着状態。
アーサーの影に隠れながら、聖也はいくつか気になった点を質問する。
「那由多さん……アーサーの『必殺技』って相手にばれてるの?」
「……バレてる」
アーサーの『必殺技』――【萬流転槍】は相手の攻撃を一度だけ完全に無効化し、その2倍の攻撃力を次の槍の攻撃に上乗せするという、所謂カウンタータイプのスキルだ。
ロイドたちがさっきから小さな攻撃を連打するような戦い方をしてくるのは、この必殺技を警戒しての事だろう。
だから、小規模な攻撃でこちらの隙を伺うような戦い方をするのは、理解はできるのだけど――
「もう一つ。那由多さん、あいつと戦うの何回目?」
「今回で3回目」
その言葉を聞いて、聖也の中で渦巻く、嫌な予感がさらに強大なものになる。
――するか? この戦い方を僕がいる状況で?
別に相手が那由多さんだけなら、この戦い方をするのは理解できる。
だって那由多さんやアーサーの攻撃はヴォルバーンには当たらない。
アーサーがワンチャン那由多さん護衛をミスってくれるのを待って持久戦を仕掛けるのは、タイマンを前提とするなら全然ありだ。(実際は他のプレイヤーに見つかるリスクはあるけど)
ただ、今回は隣に僕がいる。
向こうからすれば、那由多さんの狙いは一目瞭然。僕の契約戦士の召喚だ。
僕が契約戦士を召喚しない様子から、僕の契約戦士のカウントは最低7、最悪9や10といった強力なものだと予想はできるはずだ。(実際は戦えない生首なんだけど)。
なのに真正面から僕たちに襲い掛かってきて、持久戦上等の戦い方を仕掛けてきている。
那由多さんを狙うなら適当に姿をくらまして、アーサーの意識の外から強襲をかけるほうがよっぽど成功率が高いはずだ。
何か――何かを狙っている。確実に。
戦況が動いたのはカウント10になった時だった。
「OK、そろそろ決めようか!」
ロイドの合図でヴォルバーンは溶岩弾をアーサーではなく、その周囲の地面に向かって連射した。
激しい爆音とともに黒煙が上がり、聖也たちの視界を奪う。
そして煙に紛れ、アーサーを無視して背後の那由多を狙おうと、足の爪で攻撃を仕掛けてくるが――
「甘えよそいつは‼」
「ぐうっ⁉」
それを読んでいたアーサーが、二人の間に割って入る。
ヴォルバーンの鉤爪がアーサーの盾に触れた瞬間、盾から蒼い炎が放出され敵を弾き返す。
【反鱗炎哮】――盾に触れた相手へ反撃の炎を浴びせる、近距離専用のカウンター技だ。
炎に弾かれたヴォルバーンたちが、煙幕の外へはじき出されると――
「クソッ、ヴォルバーン! 『必殺技』だ!」
黒煙の向こう側から声が聞こえ、『――必殺技』とアナウンスが響き渡る。
熱エネルギーがヴォルバーンの方へ、一気に収束されていく。
ヴォルバーンの必殺技【焼却光線】――口にエネルギーを集約させ、巨大な熱光線にして発射する必殺技。
ただ、空中では踏ん張りがきかず、地上で翼の炎を逆噴射しながら踏ん張ることでしか打てない技だった。
「那由多!」
「わかってる!」
強力な攻撃の前兆に、那由多も必殺技カードをスキャンして迎え撃つ準備をする。那由多の体から放たれた虹色のエネルギーが、アーサーの盾に向かって集約していった。
「確実に当てろよ!」
そして那由多は、続けざまに感電矢のカードをスキャンして、ヴォルバーンを射る準備を始めた。恐らく熱線を吐き終えたヴォルバーンの動きを止め、アーサーの必殺技――【萬流転槍】のカウンターを当てる作戦だろう。
普段ならそれは、正解の行動だ。
だが――
「……感電矢はあいつに撃っちゃだめだ‼」
「え⁈ なんで⁈」
「いいから‼ 僕が指示した方向に撃って‼」
聖也の声の迫力に押され、那由多は何も理解できていない表情のまま、こくんと頷いた。
――いくらなんでも怪しすぎる‼
空中戦の有利を捨てて、わざわざ視界を奪っておいて、声で位置を教えてくるなんてありえない!
そもそも最初、煙幕を投げた時は、それが警戒できてた相手だった! そんなミスをするほど敵は間抜けじゃない!
それでもこの場面で行うってことは、自分の方に注意を引きつけたいから――言い換えれば他に気付かれたくないものがあるからだ!
ここで聖也の脳裏に浮かぶのが、ロイドと接触していた――謎の第3者の存在。
「【灼熱光線】‼」
ロイドの高らかな声と共に、聖也たちに向かって巨大な熱光線が発射される。
「【萬流転槍】‼」
アーサーの盾が蒼炎のバリアで覆われ、アーサーが盾を構え、聖也たちを熱線から守る。
バリア越しにでも伝わる熱エネルギーに耐えながら、聖也はマップを注視し続ける。
アーサーは今敵の必殺技に対応していて動けない。つまりこの瞬間だけは『那由多が無防備になる』。
そしてマップに、ロイドたちとは反対方向――聖也たちの背後に赤い点が突如として出現した。
「後ろだ那由多さん――――っ‼」
聖也の声に反射的に従った那由多の感電矢が、背後に向かって放たれた。
「――きゃあっ‼」
バチッという電気がはじける音とともに、後ろで悲鳴が上がる。
「アーサー! そいつら抑えといて‼」
「は、え、ちょっ⁈ 聖也氏⁈」
突然護衛対象が傍から離れ、困惑するアーサーを背に、聖也は那由多と共に、声の方へと駆けだした。
「誰だ‼」
煙幕の向こう、運動公園を囲う茂みの影に隠れていた人影を覗き込む。
「――あなたは」
その正体を見て聖也は言葉を失ってしまった。
この人は……ファミレスで会った那由多さんの友達の――
「元……陰キャ、さん……?」
「……紬?」
遅れてやってきた那由多もその正体を見て、武器を手からこぼして呆然と立ち尽くしてしまった。
殺傷能力の高そうな弓を手に倒れ込んでいたのは、那由多の友達の中で、元陰キャと自虐じみに自己紹介した、大人しそうな雰囲気の眼鏡女子だった。