召喚士VS召喚士 &謎の第3者
「あと2回……君を殺してお父さんのカードをいただくとしよう」
「ぐあっ……ぁ……っ‼」
ロイドの手が那由多の首を強く締め付ける。
那由多も力を振り絞って、首を絞める手を剝がそうとするが、その程度の抵抗ではびくともしなかった。
「離せ‼」
聖也が体全体で勢いよくタックルして、跨るロイドを無理やり剥がす。
ロイドが起き上がる前に、首を押さえてせき込む那由多さんの手を引いて走り出した。
「大丈夫⁉」
「……ゲホッ! ありがと……!」
「とりあえずカウントを稼げ! あとは俺が何とかする!」
アーサーの指示に頷きながら、聖也はスキャナーの画面を確認した。
今現在のカウントは2。アーサー召喚まで3分耐えなければいけない。
「聖也君、とりあえず武器!」
「ありがと!」
那由多が【剣:感電警棒】のカードをスキャンし、出てきた武器を聖也に渡した。
錆びた剣なんかよりもだいぶ心強い。
「いい武器だね」
「――銃は反則だろ⁈」
対して相手が召喚したのは、カウント2のハンドガン。
この時間帯で召喚できるということは、リウラやアーサーのような、契約戦士相手には効かない威力のものだろうが、人間を殺めるには十分な威力だろう。
聖也はすかさず【煙・白煙】のカードをスキャンして、敵の銃撃を一か八か、紙一重で横に飛んで交わし、召喚した煙玉を地面に叩きつける。
玉が大量の煙を吐き出し、辺り一面を覆った。
すぐ目の前さえ、まともに見えない視界の悪さ。
状況を察してくれたのか、那由多も足音を殺し静かに移動をし始める。
足音を立てれば、ロイドはその方向に銃を乱射するだけでいい。
命中の制度は落ちるだろうが、一発でも流れ弾に当たってしまえば聖也たちの負け。
一方でロイドからすれば、銃でレンジの有利があるとはいえ、視界が悪い状況。
それも1VS2の状況でむやみに銃声は晒せない。
ロイド側も聖也たちの接近が怖い以上、互いの位置を探りながらの膠着状態に突入した。
(だけどこっちは索敵手段がある)
辺りのマップ情報を教えてくれる【召喚・焔鳥ヴァルビー】のカードを、聖也がスキャンした時だった。
「ピピィ!」
(おいバカ!)
ヴァルビーが魔方陣から、元気な鳴き声と共に空へ飛んでいく。
――空気を読んでくれよコイツ!
鳴き声に慌てる聖也の方へと、何発も銃弾が撃ち込まれる。
聖也は慌てて姿勢を低くして、銃弾が当たらないことを祈った。
「【簡易防御壁】!」
突然目の前に現れた透明なバリアが、聖也を銃撃から守った。那由多の【魔法:簡易防御壁】だ。
「大丈夫⁈」
「助かった! ありがとう!」
那由多が聖也の下へ駆け寄って、簡易防御壁を展開しながら、【魔法:感電矢】のカードをスキャンする。
那由多が大きく弓を引くポーズをとると、電気のエネルギーが弓矢となって具現化し、手を離すとともに、一筋の光となって銃声の方向へ解き放たれた。
「ぐっ‼」
電気の矢が腕を命中したのか、煙の中からロイドのうめき声と銃を落とす音が聞こえた。
「あとカウント1!」
しっかりと命中したのか、それともかすっただけかの判断は、煙に遮られてできなかった。
ここでの追撃はリスク。
そう判断した那由多に手を引かれて逃走を再開。聖也たちは煙幕から抜け出した。
2VS1とはいえ、身体能力は大人である向こうの方が上。
いくら感電警棒を持っているとはいえ、近距離戦は負ける可能性もある。
那由多の【感電矢】も、弓を大きく引くモーションの都合上、敵のハンドガンと打ち合いはできない。
ならば【簡易防御壁】で銃撃を防ぎながら、アーサー召喚までの時間を稼ぐのが無難。
「くっ……!」
残りカウントが1を切ったことで、逆にロイドが逃走を始めた。
アーサーのカウントは5、ロイドの契約戦士ヴォルバーンのカウントは6。
このまま聖也たちが耐えきれば、ロイドは1分間絶対的不利な戦いを強いられる。
ロイドからすれば、アーサーの召喚を許してでも、自分の契約戦士を呼ぶ時間を稼ぐのが吉。
聖也たちも無理に追撃して、ハンドガンで反撃を喰らってはたまらないので、追うことはしない。
そして聖也たちは、念願のカウント5を達成した。
「よく耐えた那由多! 聖也氏!」
那由多が【竜王騎士 ドラゴアーサー】のカードをスキャンすると、魔方陣からアーサーが飛び出てきて、二人をがっしりと肩に抱き寄せた。
「なかなかやるじゃないの聖也氏。若干のへまはあったけど」
「マップの情報が欲しかったんだよ……」
ヴァルビー召喚の際の事だろう。痛い所を突かれて、思わずアーサーから眼をそらした。
「それより、今のうちに話しておきたいことが……」
リウラの事を話そうと思ったとき、ヴァルビーから送られてくるマップ情報が視界の端に映り、思わず言葉を止めてしまった。
(なんだ……こいつは……?)
言葉を止めたのは、別な思考に脳が上書きされてしまったからだ。
マップに映っていたのは、建物の角に隠れている赤い点。恐らくロイドの位置を示したものだろう。
問題なのはもう一つ。ロイドの側から離れていく赤い点が存在していたことだ。直前の位置関係的に、ロイドと謎のプレイヤーはどう考えても接触している。
「聖也氏? どした?」
そして赤い点のプレイヤーは一定距離離れた後、マップ上から突然姿を消した。
「消えた……? いや、【索敵無効】か?」
サモナーズロードに存在していた、索敵対策用のカードが頭に浮かぶ。
【魔法:索敵無効】。
――ステルスのように姿を消せるわけではないけど、ヴァルビーのような、索敵効果を持つカードやスキルに引っかからなくなるカードがあったはずだ。
効果は他プレイヤーを攻撃しようとするか、近くにプレイヤーがいると切れてしまう。
ロイドと一定距離をとってから消えたことから、このカードを誰かが使用したことは間違いない。
だけど、何のために、こいつはロイドに接触した? 何のためにもう一度姿を隠した?
聖也がそんなことを考えていると――
「カウント6! 来るよ聖也君!」
空から大きな影が勢いよく、聖也たちに接近してきている。
「さあ、第2ラウンドと行こうじゃないか!」
自分の契約戦士にまたがったロイドが、狂気の笑みを浮かべて襲い掛かってくる。
先程の謎のプレイヤーの存在が頭を離れないまま、契約戦士同士がぶつかる第2ラウンドがスタートした。




