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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME3 守護の竜騎士と無限の機械兵
25/95

【メモリーカード】と那由多の願い

「こんな時間まで何してたの。家族が心配するんじゃないの」


 聖也が尋ねると那由多は目をそらして、ツインテールをクルクルと手でいじり始めた。


「帰りたくないのよ。家族がいるから」

「家族と仲が悪いの?」

「仲はいいよ」

「? じゃあ何で?」


 那由多がスキャナーから一枚のカードを取り出して、聖也に見せる。

 とある人物の情報が記載されたカードだった。記されていたのは、那由多に似た金髪の、白人外国人の男性の姿。


「それね、私の本当のお父さん」

「……! 那由多さんのお父さん、プレイヤーだったの⁈」

「違う、2か月前私がゲームに巻き込まれた日に、そのカードを残して私のお父さんは『世界から消えた』」


 2か月前――結や松田がゲームに巻き込まれた日と同じくらいか。


「今家には、私の知らない私のお父さんがいる」


 その言葉を聞いて聖也は戦慄した。那由多の身に何が起こったのか大体察しがついたからだ。


「……前のお父さんの存在が消えたってこと?」

「そう。朝起きたらさ、住んでた家も、学校も、友達も。何もかもが変わっていた。私が今生きているのは『本当のお父さんが存在しなかった世界線』」


 那由多の父が消えた世界線――つまり那由多の母が、別な男性と結ばれた世界線というわけだ。

 結婚相手が変われば、家庭の経済状況や住む場所、通う学校なんかも変化が出るだろう。

 2か月前を境に、那由多の身の回りの環境は、突然大変貌したということになる。


「だとしたら、那由多さんが今こうして生きてるのって変じゃない?」


 疑問は無数に浮かび上がるが、まず思いつくのは、父親が変わったのに、なぜ那由多が存在しているかだ。

 遺伝子が異なれば、生まれてくる人間は当然異なる。

 世界線が変わったのに、変わる前に生まれた那由多が存在しているのは、矛盾が生じていないだろうか。


 聖也の疑問に答える為か、那由多がもう一枚、別のカードを取り出した。

 今度は那由多自身のプレイヤーカードだ。


「このカードの正式名称知ってる?」

「……プレイヤーカードじゃないの?」


 聖也の回答に、那由多が首を振る。


「プレイヤーの情報が記されたこのカードは『メモリーカード』っていうの。メモリーカードには2つの役割がある」

「2つの役割?」

「まず一つ目。『プレイヤーのあらゆる情報をカードに記録しておくことで、あらゆる世界の改変で起こる変化から、私たちプレイヤーを守る役割』」

「……お父さんが消えて、タイムパラドックスみたいな何かが起こっているけど、メモリーカードのおかげで、那由多さんはその影響を受けないってこと?」

「その通り。そして二つ目」


 那由多が聖也に向かって、父のメモリーカードをゆっくりと近づけてくる。


「目を閉じて」


 聖也が言われるがままに目を瞑る。額にコツンとカードの端が当たった。


「――⁉」


 その瞬間、走馬灯のように、那由多の父のあらゆる生体情報や記憶が流れ込んできて、情報量に耐え切れず、聖也は頭を押さえながら、後ろにグラつき手を着いた。


「……今のは?」

「メモリーカードの機能。額に当てることで、カードに記録された人間の情報を読み取ることができる。『カードの人間のデータを保存しておく役割』ね」

「これは……何のためにある機能なの?」


 聖也が尋ねると、那由多は「これはアーサーの仮説なんだけど」と前置きをしてから続けた。


「メモリーカードさえあれば、勝者の特権を使ってその人の存在を完璧に復元できるかもしれない」

「あ……‼」


 僕が誰かを蘇らせるとなった時に、心配だったのはどうやってその人の存在を復元するかだった。

 誰かの記憶や体験を頼りに人間を再現しようとしても、主観である以上、再現できる範囲にはどうしたって限界がある。

 だがメモリーカードがそういう誰かの『主観』ではなく、誰でも公平に扱える『データ』なら――


「僕の友達を復活――いや、それどころかゲームで消えちゃった人全員復活できるかも!」


 全てのプレイヤーのメモリーカードさえ集められれば、ゲームで消えた人間を復活できる。

 ずっと罪悪感を覚えていた松田の消失。その解決策が見えてきた聖也は、思わず明るい表情になった。


「でもそうなると、那由多さんのお父さんはなんで……」

「プレイヤーでもないのにって話でしょ。このゲームが誰かの意志で行われているのなら……おそらく私の『戦う動機を作ること』じゃない?」

「……そんなの酷すぎる」


 絶望と共に、得体の知れないゲーム主催者に対しての激しい怒りがこみあげてくる。

 いくら勝ち残れば世界を自由に変えられる力が手に入るとはいえ、それだけで人が殺し合いをするとは限らない。

 つまり那由多のように、その力を使わざるを得ない状況を作ることによって、デスゲームの活性化を図ろうというわけだ。

 怒りで拳を強く握る聖也を見て、那由多が儚げに微笑む。


「……やっぱりあなたに話してよかった」

「え?」

「だってもし私が消えちゃっても、聖也君なら私も、私のお父さんも蘇らせてくれるでしょ?」

「……那由多さんの願いって」

「うん。『お父さんがいた世界』を取り戻すこと」


 それは今までの話から、なんとなく想像がついていた。

 ただそうなると気がかりなことがいくつかある。


「その願いってさ、誰かと戦ってでも叶えたい?」


 まずは願いを叶えるために、那由多が他のプレイヤーを倒す意思があるかどうか。

 後からプレイヤーを復活できる可能性はあるとはいえ、やってることは「後で復活させてやるから今は死んでくれ」と同じだ。

 どんな理由があったとしても、進んで人をキルして回るプレイヤーに力は貸したくない。


 聖也の質問に、那由多はほんの少しだけ悩む素振りをして答えた。


「襲われたら抵抗するけど……他のプレイヤーを殺すのは気が引けるわ。だけど私が勝ち残ることだけが、願いを叶える方法じゃない」

「どういうこと?」

「消えた物全部復活させて、あったはずの日常を取り戻す。私と同じ願いを持つ人を見つけて、その人たちとチームを組むの。それをプレイヤー皆でできれば、皆を殺して自分の願いを叶えるゲームから、『誰か王様を決めて、その人に願いを託すゲーム』に変わる」

「すごいな……考えたこともなかった」


 聖也も他のプレイヤーを殺そうと思ったことはない。だがライフノルマがある以上、いずれ誰かと敵対して、殺さなければならなくなる可能性をずっと考えていた。

 結と自分を護ることしか考えられていない中で、那由多はさらに先を考えていた。


 願いを共有して、誰かに願いを託してゲームを終わらせる。

 自分が思い至らなかった発想に感歎し、聖也はその場でうんうんと唸る。


「……でもそれ、出来ると思う? 言ってること結構な綺麗ごとだよ?」


 ただ、それはあくまでプレイヤー全員が納得してできることだ。誰か一人でも『自分勝手な世界をつくりたい』とか考えた時点で、そのプレイヤーとは敵対しないといけなくなる。


「アーサーにもそれ言われたわ。でも願いの為に誰かを殺すことを頑張るより、そっちの方が私らしく在れる気がするの。どんな世界になっても、私は私らしく生きていたい」


 でも綺麗ごとを貫き通すことがが、那由多さんにとっての『意志と選択』なんだろうな。


 那由多が戦いについてどう思っているかの疑念は晴れた。そして確認しておきたいことがもう一つ。


「願いを叶えるとさ、今の那由多さんの友達は友達じゃなくなっちゃうってことだよね、寂しくない?」


 世界が変わった時、『違う高校の生徒になっていた』と言っていた。『お父さんのいた世界を取り戻す』ことは、逆を言えば今の世界で那由多が築いた幸せを手放すということだ。


 誰も頼れる存在が傍にいない中、あれほどの人脈を形成できたのは、那由多の性格による部分も大きいだろうが、それ以上に人知れない努力もあっただろう。


 下手をすれば、前の世界よりも、仲の良い友達もいるかもしれない。そんな存在を手放すことが、那由多に出来るのだろうか。


「寂しいよ。歪んだ運命の先でであったけれど、サイコーの友達。みんな大好き。……だけど」


 迷いを飲み込むように、少し貯めてから那由多は前を向く。


「それはお父さんが消えたことで生まれた幸せだから」


 スキャナーの画面が一瞬赤く光った。

 取り出して画面を確認すると、ログインのボタンが消えていた。


 ―― Next Game Count Down ------00:29:53.76 ――


 どうやらゲーム開始30分前にはログインできなくなるらしい。


「ねえ、聖也君。最後に訊いていい?」


 那由多が神妙な顔つきで、聖也へ向かい直る。


「本当はリウラがどうとか、護衛とかどうでもいい。消えた人たちの復活の為――私たち協力しない?」


 那由多が本当に欲しかったのは、きっと利害を超えた信頼関係だ。

 リウラが首だけの状態のでは、きっと那由多の戦力にはなれないだろう。

 だけど、ほんの少しだけでも那由多が背負おうとしている覚悟を、共有することができたなら――


「……協力しよう。僕たち」


 ほんの少しでもこの人の助けになりたい。


 聖也が手を差し出すと、那由多は儚く微笑んで、その手を強く握り返した。


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