いざ、ストーキング。
「ふーん、そんなことがあったんだ」
翌日の昼休み、誰もいない校舎の屋上で、聖也は弁当を食べながら、結に昨日あったことを報告した。
「噂になってるよ。聖也に彼女ができたって」
結が面白くなさそうな顔で、聖也をじとりと睨む。
今日登校したときにやたらと「おめでとう」と言われたのはそのためか。昨日の今日で噂が広まるのが早すぎる。
「取り敢えず言わせておけばいいよ。それより結、もし自分が世界を自在に変える力を手に入れたら、どうする?」
「……正直分からない。適当でいいなら、自分がお金持ちになったり、人気者だったりする世界をつくるかな……けど」
結が少し間を開けてから答えた。
「自分以外の、全てのプレイヤーを消してまですることじゃない」
「だよね……」
世界を思い通りにできるといえば聞こえはいいが、前提となるのは、勝者以外の全プレイヤーの存在の消滅だ。
最低限の良心が残っているなら、よっぽどの願いじゃない限り、他人を消してまでかなえようとは思わない。
「じゃあ、ゲームで消えてしまった人を蘇らせるとかは? 聖也がゲームに勝って、消えた人全員蘇らせれば――」
「それも考えたけど、それだと僕が知らないところで消えた人を復活はできない。……それに消えた人間を蘇らせるってのが、世界の『巻き戻し』的に行われるのか、それとも僕の意志での『再構成』によるものかで、意味合いが大きく変わってくる」
人を消すことができるなら、逆に消えてしまった人を蘇らせることをできるかもしれない。というのは聖也も考えた。
だが、それが自分の意志で行うことならば、自分が認知していないプレイヤーを蘇らせることはできないということだ。
蘇らせるにしても、いろいろ考えなければいけないことがある。
例えば消えてしまった聖也の友人――松田を蘇らせるにしても、聖也から見た松田と、結から見た松田の印象は違ったりする。
蘇らせるという現象が、事象の『巻き戻し』的のように行われるのではなく、誰かの意志による松田という人間の『再構成』の場合、松田に似た人間が誕生するだけで、元の人間が蘇ることはできないのではないだろうか。
現状、勝者の特権に関して言えることと言えば、
「とにかく、適当な人間に渡しちゃいけないのは確かだ」
「でも那由多さんは、その力で叶えたい願いがあるって言っていたのよね?」
「……そうなんだよ。困っているのはそこなんだよ」
同盟を組むってことは、最終的には那由多の願いを叶えるのに、力を貸すということになるだろう。
聖也は那由多が勝者の特権で、何をしようとしているか知らない。
聞けば答えてくれるかもしれないが、本心を語ってくれるとも限らない。聞こえのいい嘘を言って、本当は私利私欲のために勝者の特権を使おうとしているかもしれない。
結局は那由多という人間を、どこまで信用するかという話なのだ。
「那由多という人間を調べてみるのはどうだ?」
聖也たちが頭を抱えていると、それを見かねたリウラが語り掛けてきた。
「調べるって……?」
「通っている学校とやらはわかるのだろう? ならば周辺人物への聞き込みや、帰宅しているところの後を着ければ、那由多という人物の人となりを知ることはできるはずだ」
「つけるって……ストーカーしろってこと⁈」
「うむ!」
「うむ! じゃないよ! 犯罪だよ‼」
「……? バレなければ問題ないのではないか?」
犯罪はバレなきゃ犯罪じゃない、という暴論を、平然とした顔で提案する生首に、聖也たちがドン引きした表情になる。
「褒められた手段でないのは承知だ。だが次のゲームまであと一日もない。組むか組まないかだけでも決めた方がいい。聖也としても、那由多という者を信頼はしたいのだろう?」
「まあ……それはそう」
「ならば徹底的に疑うべきだ。残りの時間で多少強引にでも那由多のことを調べ尽くせ。モヤモヤと中途半端な気持ちでいるぐらいなら行動を起こすべきだ」
手段はともかく、リウラの言っていることは一理ある。結局のところ、那由多のいうことを信頼できないのは、那由多という人間のことを知らないからだ。
デッキのカードを強化することもできない以上、次のゲームまでに、生き残る可能性を上げるために聖也ができることは、那由多という人間を知り、同盟を組むかどうか決める以外ない。
聖也は結の方をちらっと見ると、結も諦めたように首を振った。腹をくくれという意味だろう。
「安心しろ。バレなければ問題ないのだ。バレなければ」
安心させたいのかリウラが念押ししてくるが、裏を返せばばれたら大問題ということだ。
余計な念押しで背徳感が増しながらも、聖也は仮病を使って早退し、那由多ストーキング作戦を決行した。