首だけに戻った最強と、これからの目標
「……」
次の日、聖也は朝ごはんを食べて、何日かぶりの学校に向かった。
来たのはいいものの、校門の少し前まで来て立ち止まってしまう。
――昨日、結のログアウトを確かめていない。
ライフノルマが0になるのは一緒に確認していたし、周囲に結を狙う人影も確認なかったはずだから、十中八九生還はしているはずだ。
そう思っているのに、なぜか足が動かない。
「おっす。元気出たか」
背後からぽんと手をかぶせられ、そのままよしよしと頭をなでられた。担任の教師である響子だ。
「……すいません。ご迷惑かけました」
「迷惑なんてかけてないだろ。お前が来る気になったなら何よりだ」
ためらう聖也の背中を、景気づけるかのようにバンと叩くと、聖也を先導するかのように、少しゆっくりとした足取りで歩きだす。
響子の少し後ろを歩いていき、教室の窓を見上げた時だ。
「……え? おい? どうした聖也⁈」
聖也が突然泣き出したので、響子が心配して駆け寄った。
「大丈夫か? まだ元気が出ないなら無理して学校に来ることはないんだぞ?」
「……違うんです先生……『大丈夫』だったんです」
「……は?」
教室の窓から、結が手を振って微笑んでいた。
生きていた。無事だった。守りきれた。
僕の意志が、戦う選択が結も、僕も守ったんだ。
うれし涙を袖で拭い、聖也は教室へ向かって駆けだした。
この先自分がどうなっていくかなんてわからないけど、今この瞬間だけは心から喜んでいいはずだ。
昼休み。聖也と結は人が来ないであろう屋上で、この世界に確かに存在している喜びを語り合った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
……のはよかったのだが。
「ご機嫌そうだな、聖也よ!」
「何で首だけに戻ってんのぉ⁈」
学校が終わって家に帰った聖也を、首だけのリウラがお出迎えする。
「よくわからん。気が付いたらこうなっていた」
「よくわからん、じゃないよ! これじゃあまた戦えない状態に逆戻りじゃないか⁉」
「確かに」
愕然とする聖也に対して、リウラは何故か落ち着いた様子だ。
「まあ、体が元に戻ると分かっただけでも前進ではないか!」
そう言ってニコニコ笑うリウラに、聖也は呆れた視線を投げた。
ポジティブもここまでくると腹立たしい。だが——
「……まあ、そういうことにしておこう」
その前向きな部分に大きく救われたのも事実。これ以上問い詰めるのは止めておくとしよう。
「そういえば、体が戻る直前に……少し懐かしい感じがしたぞ」
「懐かしい感じ?」
「うむ。ほんの少しだけ走馬灯のように、誰かの記憶が浮かんできた。……誰かから見た、俺の姿が」
「……どういうことだろう?」
リウラの一時的な復活と何か関係があるのだろうか?
誰かから見た姿という点に違和感を覚えたものの、その記憶と復活が関係あるなら――
「僕らの当面の目標は、リウラの記憶を取り戻すことになりそうだね」
「違いない」
生き残るためにも、リウラの復活はほぼ必須。
取り敢えずの目標は、リウラの記憶を取り戻すこと。
そしてもう一つ。最終的な自分の目標は――
「ねえリウラ」
聖也は微笑みながら腰を落として、地面に接しているリウラと目線を合わせた。
「僕は探すよ。このゲームを終わらせる方法。これ以上僕の大切な皆が傷つかないで済む方法……そしてできたら消えちゃった人を元に戻す方法を」
「それは素晴らしい……が、それは誰のためだ?」
「決まってるだろ」
リウラの問いにフフッ笑みを漏らして、聖也は力強く、親指を胸に突き立てた。
「僕が大好きな皆と……皆を大好きな僕の為だよ」
「そうか。それならいい答えだな」
どんなときも僕と皆、両方幸せにする選択を探す。
この先何が待ち受けているかはわからないけど、自分の中にこの意志の軸がある限り、きっと大丈夫だ。
転んでも躓いても、胸を張って前に進む。
「絶対生き残るよ。この戦い」
強い誓いを胸に、聖也とリウラは強く頷きあった。
窓から差し込む夕焼けの光が、二人の体に熱く染み込んできた。