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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME2 消えかけの幼馴染と【意志と選択】
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【意志と選択】

「……頼む」



 転送された先で、聖也はすがるような思いでリウラのカードをスキャンした。

 片腕を失っているため、左手に装着してあるスキャナーに、口を使ってカードを読み込ませる。


 目の前に強大なエネルギーを発する魔方陣が出現するも――


「……すまない」


 現れたリウラは、相変わらず頭だけの姿だった。


 何かの奇跡がおきて、リウラが戦える状態で召喚されてくれればよかった。

 結果はダメだった。大きな魔方陣から現れたのは、戦えないだけの喋る生首だ。

 聖也の希望は完全に潰えた。


「もう嫌だ……」


 精神が限界に達した聖也は、その場で蹲って、みっともない声で泣き始めた。


「助けようとしなければよかった。そしたら結は一人で逃げられたかもしれないのに」

「……敵の能力を鑑みれば、聖也が来ようが来まいが、いずれ見つかっていただろう。お前がいたから、最初の追跡は躱せたじゃないか。そこは後悔するところじゃない」

「結局結のカードを使わせたのは僕だろ‼」


 リウラの落ち着いた声を、荒げた声で遮った。


「逃げる術だけ教えて別れればよかったんだ! 僕が勝手に心配して、助けようとしなければ結は自分の為にカードを使ってた! 結の性格を考えればそうすべきだった! 僕を助けようとすることなんて予想できたはずだった!」

「いい加減にしろ、聖也」


 冷静を装いながらも、少し苛立ちを含んだ声でリウラが続ける。


「何で結がお前と別れたと思っている。お前が自分を犠牲に結を助けることしか考えないからだろ。他のことでもだ。何故真っ先に自分を傷つける? 自分を否定する?」

「あたりまえだ。僕の人生なんか二の次だ。両親も義姉さんも友達も、皆の生きる邪魔をしてばかりだ。……お金も力もない子どもの僕が、自分以外の何を犠牲に皆を助ければいいんだよ!」

「その考え方をやめろ‼」


 悲鳴と嗚咽が混ざったような声で嘆き喚く聖也を、リウラが鋭い声で一喝した。

 始めて聞くリウラの大きな声に、思わず言葉を失ってしまう。


「自分を一番下に置く考え方を今すぐ止めろ‼ お前へ向けられる善意に、お前自身が見て見ぬふりをする‼ 一番(たち)の悪い現実逃避だ‼ お前の命は誰かのために存在しているものではない‼」

「誰かのために生きて何が悪いんだよ!」


 むきになって返した言葉は、最後の方ですぼんでいった。


 ――あなたは誰かの幸せを思う一方で、あれをしなきゃとか、こうしないととか、自分の選択を誰かのせいにするような生き方になっていない?


 美月が――義姉さんが自分を励ましてくれた時にくれた言葉が過っていた。


 リウラの言いたいことは分かっている。両親が死んでから、聖也は自分だけのために何かをしてきたことがない。

 両親が死んだあの日から、一挙一動が誰かの為になっていないと不安で仕方がなかった。

 自分だけが幸せな思いになることが不安で仕方がなかった。

 誰かの幸せが自分の幸せだったはずなのに、誰かが幸せでないことが自分の不安に変わってしまっていた。


 近くの公立を蹴って、少し離れた私立の中学校で特待生として入学したのも。

 プロゲーマーになって今すぐにでも、家にお金を入れたかったのも。


 今の学校に憧れていたわけじゃない。

 特段、プロという肩書に憧れていたわけじゃない。


 義姉さんの為にお金で楽をさせたかったから。

 義姉さんの為に僕が自立した存在でありたかったから。


 ほんのちょっとでも生きる邪魔になりたくなかったからだ。

 自己犠牲という名の自己満足に溺れていたかったからだ。

 恩人の支えになることが、心の支えだったからだ。


「僕は、……ぼくはなあ!」


 吐き出すうちに、自分の中に閉じ込めていた気持ちがほどかれて、聖也は弱弱しくその場に膝をついてしまった。



「もう、自分の為に生きていく自信なんかないんだよ……」



 誰かのために頑張るのは、自分の為に頑張れないから。

 誰かのために戦うのは、自分の為に戦えないから。後悔に勝る生きる支えがないからだ。


 自分を信じるのが怖い。

 両親を殺した自分を。

 義姉に寄生して生きる自分を。

 理由はともあれ、チームに多大な迷惑をかけた自分を。

 故意じゃなくても、友達を殺させてしまった自分を。


 こんなに犠牲を生み出しておいて、どうして自分の為なんかに生きられようか。

 自分の為の生き方なんて知らない。

 誰かに尽くす以外で、自分に胸が張れる生き方なんてわからない。




 ――生きる自信も、幸せも。あなたの意志と、選択の先にあるわ




「生きる自信も、幸せもわからないよ……!」




 聖也は顔をクシャクシャにゆがめながら、頭の中に残る義姉の言葉に、弱弱しく返した。




「自信なんかなくていいんだよ」


 泣きじゃくる聖也に、リウラが一転して、優しい声で語り掛ける。


「後悔を抱えたままでいい。お前は傷ついたままでいい。ただ、お前はどうありたい? どんなときにでも変わらないお前の理想とは何だ? 生きる自信や幸せが始まりじゃない。お前の理想があって、理想に向かうための選択があって、行動を重ねて、ようやく自信が、幸せが生まれるんだ。自信も幸せも、お前が自分の意志と選択で生き抜いたときの、結果の一つでしかないのだよ」


「意志と、選択……?」


「後悔も傷も。お前の変わらない願いの先で、糧として意味を持つときが必ず来る。悲しくても傷ついていても、足先だけは前を向け。お前が後ろ向きに生きるための材料にするな。――今一度問おう。お前は()()()()()()? どんなときにでも変わらないお前の理想とは何だ? それを叶えるために必要な選択はなんだ?」


 リウラが僕を真っすぐ見て笑った。


「その答えが、お前の意志――お前の物語の始まりだ」


 気が付けば涙は止まっていた。


『どんなときも僕と皆、両方幸せにする選択を探す』。

 幼いころに自分が抱えていたモットー。結が思い出してと言ってくれた言葉。


 誰かの幸せがスタンダード(あたりまえ)なんかじゃない。

 自分の幸せと誰かの幸せを重ねていいのなら。

 僕だけの物語を始めていいのなら――



 答えはもう決まっていた。



「結の助けが、無駄になるかもしれない」

「無駄にならないかもしれない」

「頑張ったところで、何もできないかもしれない」

「何かできるかもしれないだろう」

「……僕が死ねば、リウラも死ぬんだよ?」

「聖也。可能性の話はやめにしよう」


 リウラがおどけて笑う。


「やりたいように、やってみろ‼」


 現実的にものを考えれば、今の僕たちには力がない。何もできないかもしれない。

 だが聖也の胸は高ぶっていた。やらない理由よりも、やりたい思いに熱に身をまかせてみたかった。

 腕が回復したわけじゃない。だけど力はみなぎっていた。

 リウラを地べたから拾い上げて、聖也は力強く立ち上がる。


「いくよ。結を助けに!」

「おう!」


 リウラと頷きあった後、聖也は結がいるであろうショッピングモールへ勢い良く駆けだした。


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