表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME2 消えかけの幼馴染と【意志と選択】
12/95

逃走成功――からの別れ

「みつけたぜレアカード」


 少年が銃の引き金を引くより先に、聖也は持っていた消火器を、彼の顔に向けて噴射した。


「ぶえっ――⁈」

「結、こっち!」


 戦慄する結の手を強引に引いて、走り出す。


「【転移】のカード! できるだけ遠くの階が多い建物! 早く‼」

「――う、うん!」


 結を先に走らせながら、聖也は後ろを警戒する。

 結が【魔法・転移】のカードを立て続けにスキャンすると、二人の前に別の場所へとつながっているであろう、転移魔方陣が召喚された。


「逃がすなディード!」


 少年の指示で、ディードと呼ばれた亡霊の戦士が、聖也に迫りくる。


 ――速い‼


 20mは離れていたであろう距離を、一瞬で詰められる。


「【生命強奪(ラブライフ)】」


 ディードの左手が聖也の右手を掴むと、生命力が吸われていく感覚が聖也を襲い、右肩から先の感覚がなくなった。


「うあああああああああああああああ‼」


 最後の力を振り絞って、聖也と結は転移魔方陣へと駆けこんだ。


「ぐあっ!」

「きゃあっ!」


 勢いで地面に転がり込んで、辺りを見回すと、前回戦ったショッピングモールだった。

 他に高いビルもあるが、咄嗟の判断を迫られて、結が反射的にイメージしたのだろう。


「聖也……腕……!」

「……わかってる」


 ディードに掴まれたことが原因だろうか。聖也の右肩から先が無くなっていた。

 通す腕を失った服の袖が、だらんと下がっている。

 流血もなく、痛みも感じないが、肩の付近から、薄い虹色のオーラのようなものが少しずつ漏れ出ていた。

 腕を失ったのに痛みもなく、自分の体から謎の物質が漏れ出ていることが逆に怖かった。


 だが、今はそんなことを考えている暇はない。


「結、よく聞いて。あいつは恐らく【レアカードの位置を探知できる】スキルを持っている。たまたま僕たちを見つけたんじゃない。あいつは僕たちを狙ってきたんだ」


 それは見つかった時のセリフから察することができる。

 よく考えれば初めて会った時も、松田のスキャナーからカードを物色していた。あの少年はプレイヤーを殺して回って、カードを集めて回るハンターなのだろう。


「【転移】のカードは、一時的にでも僕が預かることはできる?」

「……できない。所有者が死んで始めて、他の人に所有権が移せる状態になるの」

「OK。いいかい、結、作戦だ」


 聖也は落ち着かせるように、震える結の手を握りしめる。


「ちょろって見えたんだけど、あいつの地図は平面図だった。レアカードの存在する位置は分かっても、『高さ』まではわからない。階数のある建物の探索には、ほんの少しだけど時間を食うはずだ。あいつは結のカードを狙って、今からここに来る。ギリギリまで引き付けてから結だけ【転移】で、出来るだけ遠くの階数のある建物へと逃げるんだ。他のプレイヤーと遭遇の可能性もある。逃げた先で必ず【ステルス】を使って」


 結は【ステルス】副作用で、【ステルス】と【転移】以外のカードが使えない。

 聖也も戦う力を持ってない。

 残された選択肢は、奴らや他のプレイヤーとの遭遇を避けることのみだ。


 動き回って逃げ回ろうにも、機動力は敵の方がある上に、索敵係(ヴァルビー)は先ほど殺られている。

 敵だけが一方的に聖也たちを探索できる状況下で、ゲリラ戦に挑むのはリスクが高い。不意を突かれては【転移】すら使えない可能性がある。


 そもそも敵はディードたちだけではない。戦えない状況下で動き回ること自体が、バトルロワイヤルではリスクだ。

 確実に距離を離せる手段が残っている以上、不意を突かれない位置で敵を待ち伏せたほうが賢明だろう。


 聖也はログアウトコマンドの下に表記された、ライフのノルマを見る。


 ログアウトに必要なライフの数が『2』になっていた。

 どこかで誰かがやられたということだ。

 このまま順調に減っていけば、二人でログアウトできるかもしれないが――


「……このままカウントダウンが進むとは限らない。もし敵がここに来たら僕のライフを一つ使ってノルマを1進める。……その後は結がログアウトできるかは正直神頼みだ。これが僕の思いつく、結が一番生き残る可能性が高い策だ……」


「私のために……犠牲になるつもり?」

「うん」


 迷わず答える聖也に、結は悲しそうに目を細める。


「……そう。じゃあ」


 結がどこか諦めたような表情をしながら、聖也の手を離した。


「私たち、ここでさよならしよっか」

「……え?」


 結の言葉の意味が理解できずに、聖也はその場で薄く口を開けたまま固まってしまった。


「私なんかの為に死ななくていいよ。私がライフ1なのは、戦うことからずっと逃げてきた私のせい。……消えたくないくせに、生き残るための思考を放棄した私の責任」

「……? 結?」

「戦うことのできない私だけど、せめて聖也の迷惑になりたくない。今の聖也の性格だったら私をかばって、私より先に消えちゃうでしょ? ……いろいろありがとう。この先は私だけで頑張ってみる」

「待って結、何を考えてる」

「さっき言いそびれたこと……聖也に一つだけお願いね」


 結が強がってにっこり笑うと、最後の【転移】のカードをスキャンした。


「もし私が消えても……わたしのこと、忘れちゃだめだよ?」


 結は混乱する聖也を、その背後に出現させた転移魔方陣に突き飛ばす。


「――待って‼」


 自分が何をされたのか気が付いたときには、聖也は違う場所へと飛ばされていた。


 結に残された希望。最後の逃走手段――【転移】のカード


 その最後の【転移】を、聖也は自分に使わせてしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ