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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME2 消えかけの幼馴染と【意志と選択】
11/95

ライフノルマと宝探しの亡霊

「聖也、こっち」


 結が服の袖を引っ張って、聖也に座るように促した。

 事態を飲み込めず呆然とする聖也に、結が強がったように笑って、腕のスキャナーを見せつける。


「黙っててごめんね。私もプレイヤーだったの」

「結が……⁈」


 結がデッキから一枚のカードを取り出して、聖也に見せてきた。


「ずっとこのカードを使って隠れてた」

「――そのカードは!」


 ・・・・・・・・・・・・・・


【魔法:ステルス】――カウント4・自身が透明化し、視界、マップに映らなくなる。匂いによる追跡も阻害する。……VR(ベリーレア)


 ・・・・・・・・・・・・・・


 自分自身を透明化する魔法。隠れるにはこの上ないカードだが、


「最悪だ……!」


 結の状況を察した聖也は、口に手を当てて小さく俯いた。

 ステルスは他者からほとんど見つからなくなる半面、とんでもないデメリットが二つ存在する。


 一つ目は、ステルス中はほとんど動けなくなること。少しでも動いた瞬間ステルスが解除され、その存在があらわになる。透明になるだけで実体はあるため、さっきみたいに誰かが接触するような予期せぬ事故でばれてしまう可能性がある。


 これだけだったら問題はないのだが、問題は2つ目。

 ステルス使用中は、【ステルス】を除く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 カウント0のカードは使用できるが、そのコスト帯は【剣・サビ】や【盾・ナベブタ】のようなクソカードがほとんどだ。カウントのリセットはメインデッキのカードのみならず、『契約戦士(チャンピオン)』のカードにも適応される。


 つまり結は、ろくなカードも使えず、自分の契約戦士(チャンピオン)すら呼び出せない状態だ。


「あ、でもこのカードは使えるんだ」


 結がもう一枚見せてきたのは、【転移】のカードだった。


 ・・・・・・・・・・・・・・


【魔法:転移】――カウント0。自身、または任意のプレイヤーをエリア内の指定の建物へと転移させる。最上級ランクの魔法。……LR(レジェンドレア)


 ・・・・・・・・・・・・・・


 ――僕のカウント0のカードと比べて強すぎる。


「3枚ある」


 ――僕の初期デッキと配分おかしくないか?


 自分の持つカウント0のクソカードたちを嘆きながらも、聖也は結の状況をまとめた。


「……いざってときはそれで逃げられるってことか」


 結が小さく頷いた。


「ステルスはまだある?」

「あと2枚」

「オーケー、ついてきて」


 聖也は結を連れて店の中から表通りが見える場所まで連れてくると、そこでステルスを使うように指示した。


「どうせ見えないんだから、表が見える位置かつ、すぐに逃げられる位置で使った方がいい」


 ステルス中に他のプレイヤーが見えれば、転移のカードを使うかどうかの判断に余裕が生まれるし、万一店の奥のような逃げ場のないような場所で見つかってしまうと、その後逃げる道が無くなってしまう。


 結が【魔法:ステルス】のカードを、聖也の手を握りながらスキャンした。

 手を握って発動すれば、その相手も一緒にステルスになるみたいだった。

 スキャナーで、リウラの召喚カウントが進むかどうかだけ確認したが、どうやら使用者以外のカウントは進むらしい。

 既にカウント10溜まっている。他のプレイヤーは強力なカードや契約戦士(チャンピオン)を呼び出せる時間帯。下手にステルスを解除してカウントを溜め直すよりは、このまま隠れ続けている方が賢明だろう。


「ここで隠れて、ログアウトができるようになったら、すぐログアウトしよう。……そうだ結。ログアウトの条件ってわかる? この前は突然できるようになったんだけど」

「ログアウトコマンドの下に、数字が書いてあるの分かる?」

「うん、この数字どういう意味?」


 スキャナーのログアウトのコマンドは押しても反応しないが、そのすぐ下に『3』の文字が刻まれていた。この数字が気になってはいたが、時間経過では減らないことしか、聖也は知らない。


「ライフノルマって言ってね、その数字分ライフが消えたらログアウトできるようになるの」

「……今日は誰か3人死なないと帰れないってこと?」

「うん」

「……まじか」


 そして、聖也は松田の発言を思い出していた。


 ――お前まだ『ライフ』3つあるよな?

 ――今日は俺の為に死んでくれ


 あれは僕のライフを使って、ログアウトの条件をクリアしようとしてたんだ。

 襲い掛かってきた松田の様子を思い出して、自分のライフが代わりに消えていれば、と後悔の念が聖也をよぎる。


「……ごめんね、聖也」

「……え、何が?」

「私ね、この前聖也が、松田君と戦ってるのをみていたの」


 聖也は謎の少年に殺されそうになった時に聞こえた、『ログアウト』の声を思い出した。


「あの声、結のだったの?」

「うん、ステルスで見てた。ホントは聖也と同じ階にいたんだよ」

「……松田と話そうとはしなかったの?」

「無理だよ。私が松田君見つけた時には、ずっと誰か殺そうとしてたもん。私もライフ1だから、誰かと接触するのが怖かった」

「ライフ1……⁈」


 結もあと1回死ねば世界から消える。残酷な現状を聞いて、目の前が真っ暗になりそうになる。


「じゃあなんで僕なんかと一緒にいるんだよ。結を殺すかもしれないぞ」

「そのつもりだったら、私はとっくに死んでるよ」


 結が安堵の表情で語り掛ける。


「声をかけるのは迷ったけど、聖也はこんな戦場でも私を気遣ってくれるんだね。ありがとう」

「ありがとうって……また呑気な」


 どうも戦場の緊迫感からズレた回答に、聖也は調子を狂わされた。

 目をそらしていると、結が聖也の手をほんの少しだけ強く握った。汗で湿った熱のこもった手だった。結の反対側の手が震えているのに気が付いて、ほんの少しだけ強く手を握り返す。


 ――普通怖いよな。こんな戦場に放り込まれちゃ。


 今の結の顔は強がりだ。心配させまいと取り繕っているだけだ。


 事故とはいえ、結からすれば、聖也はデスゲーム中で初めて出会った、信頼できるプレイヤーなのだろう。

 結の震えが収まるまで、何も言わずに手を握った。

 そんな風に時間が過ぎるのを待っていると、結の手の震えが小さくなっているのに気が付いた。どうやら落ち着いてきたみたいだ。


「落ち着いた?」


 聖也の問いに、結は小さく頷いた。


「――聖也、私ね」

「ビィ――」


 結の言葉を遮るように銃声が響き渡り、上空でヴァルビーの断末魔が響いた。

 聖也は反射的に人差し指を立てて、息をひそめるよう結に合図をした。結も手を口に当てて、小刻みに頷いて返す。


 ヴァルビーが消えたことでマップの情報が得られなくなった。

 誰か付近にいるのは間違いない。ここからは肉眼での索敵になる。


 ステルス中の二人は、ただ息を殺して辺りを警戒する他なかった。結の手がぶるぶると震えている。結の手から伝わる恐怖が、聖也の鼓動を加速させる。


 暫くすると、松田を殺した少年がライフルを持ちながら、大通りの真ん中を歩いてきた。


 そして、前回と違うのは、少年が自分の契約戦士(チャンピオン)を背後に連れているということ。


(なんだ、あれ……⁈)


 3mは超えているであろう巨体。

 深く着込んでいる埃まみれのボロボロなコート、鍔の大きい海賊帽。

 ゆらゆらとシルエットを揺らしながら浮遊する風貌はさながら幽霊船の船長といったところか。

 シュノーケルとガスマスクを足して割ったような、近未来的な仮面の奥には、大きな一つ目が、人魂のような炎を纏って揺れていた。

 右手には闇夜を怪しく照らすカンテラを携え、反対側の腕は、手首と肩の間が存在しないのか、左手だけが宙に浮いていて、腕を通されていない袖が風でたなびいている。


 聖也はサモナーズロードのことならば何でも知っている。

 だからこそ確実に言える。


 あれはサモナーズロードに存在していた契約戦士(チャンピオン)ではない。


 だが、その存在が放つ圧倒的オーラはウィンガルの比ではなく、同じ空気を吸おうとするだけで、心臓が破れてしまいそうなほどの威圧感を放っていた。


 そもそもバトルロワイヤルで大通りを堂々と歩くのは、余程の馬鹿か、腕に自信を持つものかの二者択一。

 そして目の前のペアは恐らく後者。


 戦って勝てる相手じゃないのは結も察したらしい。

 目に涙を浮かべながら、手を強く口に当てて、必死に息を殺している。


 ――大丈夫大丈夫ステルス中だ見えてないバレてないこのまま息を殺していれば大丈夫大丈夫。


 自分に暗示をかけるように、心の中で呟き続ける。


 そして、少年たちが僕たちの目の前を通り過ぎていった。

 去り行く脅威に、胸を下ろそうとした時だった。


「……」


 一つ目の亡霊が懐から古びた大きな紙を取り出し、目の前で大きく広げた。

 背中越しにしか見えないが、地図には周囲の地形のような上面図が記されていて、とある一か所がぼんやりと光っていた。


 海賊、地図。2つの組み合わせに、最悪の予感が聖也の頭をよぎる。


「――見っけ」


 少年が振り返り、見えないはずの聖也たちに向かって銃口を突き付ける。

 亡霊がランタンで僕らを照らした時、二人のステルスは完全に看破されていた。


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