戦場の探索とステルスな幼馴染
ゲーム開始3分前に、スキャナーから開戦準備のアラームが鳴り、戦場の全体マップが表示された。
マップは大きく3つのエリアで構成される。
1つは前回戦った、駅・商店街エリア。
2つ目はその南東に位置する様々なスポーツ施設が設立されている運動公園エリア。
3つ目が駅・商店街エリアの南西に位置する住宅街エリアだ。
円を3等分するような形で広がるエリアからスタート地点を決めなければいけない。ピンのようなマークが立っているのは、他のプレイヤーのスタート地点だろうか。
ゲームの知識があるとはいえ、まだ見たことない土地に降り立つのも不安だ。
まずは前回と同じ駅・商店街エリアでスタートし、戦場の探索を進めることにした。
辺りにピンがないことを確認して、広場の端をスタート地点に設定する。
そしてカウントダウンが終了し、聖也は因縁の戦場に転送されていた。
すぐさま物陰に身を隠し、索敵役のカードのカウントが溜まるのを待つ。
「おいで、ヴァルビー」
【召喚・焔鳥ヴァルビー】のカードをスキャンすると、赤い炎の羽根を持つ、フードをかぶった可愛らしい小鳥が、元気な声と共に飛び出してきた。
「周りの索敵をお願いできる?」
聖也が指示すると、ヴァルビーははるか上空をゆっくりと旋回し始めた。
ヴァルビーから送られてくる周囲の情報が、3Dマップのデータとしてスキャナーに転送される。
「よし、周囲には誰もいないな」
自分の他に、プレイヤーの反応を示す、赤い点が表示されないことを確認してから、聖也は表へと出た。
「僕が頼れるのはヴァルビーだけだ……」
「聖也、俺の存在を忘れてもらっては困る」
「どうせ戦えないだろ。索敵ぐらいできるようになってから物を言えよ」
リウラを嫌味な口調で突き放しながら、聖也はリウラの契約戦士カードを確認した。
カード表面を濃い靄が覆い、コストとうっすらとしたリウラの全体像しか見えないのは変わりない。
――ただ唯一、リウラの首から上だけが靄が晴れてはっきりと確認することができた。
どういう条件で靄が晴れていくのかはわからないが、カードの様子を見るに自分はまだリウラの『頭部』しか召喚できないということだろう。
メインデッキも含めて攻撃手段をろくに持っていない聖也は、他のプレイヤーと遭遇したときに対抗する手段を持たない。
現状、ヴァルビーの索敵を活かして、接触を避けるのが最善の策だ。
聖也はマップを見ながら、広場を挟んでショッピングモールとは反対側に位置している商店街の方へと足を運んだ。
「前回と同じような感じで隠れなくていいのか? あれも中々いい手だったと思うが」
「既に見つかっている状況ならね。まだ他プレイヤーと会っていないからそういうのは無し。それに今回はフィールドの調査と武器探しもしたい」
聖也は、本屋やスポーツ用品店、飲食店やスーパーなどが並ぶ商店街を探索していく。
店の中に店員など、人影は存在しない。シャッターが閉まっていないだけのゴーストタウン状態だ。店には特に鍵などはかかっていなかったため、好きなだけいろんなものの物色ができた。
「……これがベストかな」
金属バットや料理包丁など、様々な武器を検討したが、最終的に選ばれたのは家庭用の消火器だった。
金属バットや包丁なんて持ったところで、人間である聖也は、ウィンガルみたいな契約戦士には太刀打ちできない。
それよりか消火ガスを顔にでもぶっかけた方が、目つぶし程度には役に立つとの判断だ。護身用に消火器を持っている絵面がとても締まらないが、背に腹はかえられないので不問とする。
「あとは、このゲームについて何か情報があればいいんだけど」
情報といえば本屋と考えるのは安直かもしれないが、他に手もないので立ち寄ってみる。
結論から言えばハズレだった。あるのは現実の本屋と同じように、漫画とか小説とか、雑誌とか参考書とかばっかりで、有益な情報は何一つ得られなさそうだ。
これ以上ここにいる意味もないか。
そう思って、店を出ようと出口へ向かった時だった。
「――ぐえっ⁉」
聖也が何かに躓いて、その場で大きく転んでしまった。
ひざ丈ぐらいの大きさのものに躓いた感触だ。
聖也が起き上がろうとすると、「いたた……」と女の子の声が聞こえてきた。
マップは常に警戒していた。誰の反応もなかっただけに、完全に不意を突いた出来事だった。
「誰だ⁉」
「……私だよ」
「っ⁈ 結⁈」
振り返った先には、聖也の見知った顔――幼馴染の少女の姿がそこにあった。