表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/11

4話「もう戻らない」

「え。でも私……足を引っ張ってしまうかも……」

「大丈夫だよ! 俺も協力するし」

「そ、そう。何だか乗り気ね」

「べつに、君に作ってほしいって思ってるわけじゃないよ。でもさ、少しは経験してみてもいいんじゃないか? って思ってて。どうだろう? もちろん君が嫌ならしなくていいと思うけど」


 せっかく彼が誘ってくれたのだから、と。


「ええ! じゃあ、一緒にやってみるわ! ご指導お願いします!」


 そう言ったところまでは良かったのだが。


 ――結論から言うと、料理の練習は失敗の連続で、彼に多大なる迷惑をかけてしまった。


「はぁっ、はぁっ……まさかここまで不器用だとは……」

「ごめんクリステ……」

「いやいいけど……ちょっと想定外、驚きの不器用さだな……」


 料理は私には向いていなかった。

 もうやめよう、と、心の底から思った。



 ◆



 あれから数週間が経ったある日、王女レトミーが処刑されたという情報を得た。


 なんでも、国王の忠臣を自作自演と嘘ではめようとしたそうで。その嘘がばれたことで国王の怒りを買ってしまったらしく、王女の位をはく奪されたうえ謹慎となったそうだ。だが、謹慎期間中に侍女に当たり散らし、一人の侍女を自殺へ追い込んだらしくて。その件によって国王はさらに激怒、彼女を処刑すると突如言い出したそう。


 そしてレトミーは首を落とされたのだそうだ。


 父が娘の処刑を決めるなんて、と驚いたけれど、国王が一旦そうと決めてしまえば誰も止められなかったのだろう。


 それにしても、レトミーは相変わらずだ。


 自作自演やら嘘やらで他者を陥れようとするなんて、彼女らしいが酷すぎる。


 彼女の主張が偽りのものであると理解されて良かった。

 でなければまた被害者が出ていた。

 また誰かが私のようになるところだった。


「レトミー王女、処刑されたそうね」

「そうなの!?」

「驚いたわ……まさかそんなことになっていたなんて」


 処刑されて可哀想、なんて思えはしないけれど。


「そっか。じゃあ復讐の相手はもういなくなってしまったんだね」

「何だか残念そうじゃない? クリステ」

「ま、そうかもな」

「え……? どういうことよ……!? まさか、レトミー王女のこと好きだった、とか……?」


 するとクリステは首を横に振る。


「それは絶対ない」


 きっぱりと言っていた。


「復讐する相手はいなくなった、それが残念でさ」

「え……」

「君を傷つけた奴が先に死んで楽になるなんて、あり得ないよな」

「クリステ……?」

「ま、でも、もう生きて会うことはない。それは良かったよね」

「ええ、そうね」



 ◆



 レトミーの死から数日が経ったある日、クリステと共に暮らしている家へ一人の男性がやって来た――その人というのが、王子で元婚約者のオーガンだった。


「久々だな」

「オーガン様……」


 彼が訪問してきたのは、クリステが仕事で家にいない時間だ。


「そんな恐れたような顔をするな。今日は良い話を持ってきたのだから。ま、そう身構えず聞いてくれ」

「もう何もお話する気はありません」

「は? 舐めるなよ。偉そうなことは言うな。そして、話を聞け」

「クソ女には構わない方が良いのでは?」

「ぐっ、どこまでも生意気なッ……!」


 オーガンは殴りかかろうとしてきた、が。


「ちょっと、何してるんですか?」


 彼の背後からクリステがひょっこり現れた。


 救世主!


 思わず叫びそうだった。

 いや、もちろん、さすがに堪えたけれど。


「俺の妻に何か用ですか?」


 クリステはさらりとそんなことを言った。


 一瞬心臓が跳ねたけれど。

 でもすぐに理解した。

 この状況だからそういう風に言っているのだと。


 ここは下手に否定しない方が良さそうだ。


 クリステのやり方に任せよう。


「妻、だと……?」


 オーガンは眉間にしわを寄せ猛獣が威嚇するような顔つきになる。


 けれどクリステは動じていなかった。

 彼はとても落ち着いていて、常に冷静さを保っている。


「そうですよ」


 この状況で冷静であれるなんて、尊敬する。


「ふざけるな! お前が何者か知らんが、彼女は俺オーガン王子の元婚約者だ! 他の男に出る幕などない!」


 怒鳴り散らすオーガン。


「呆れた。身勝手にもほどがありますよ、王子様」

「何だと!?」

「婚約は破棄したのでしょう? それとも、もうお忘れですか?」

「あ……あれは、あれは、そう言っただけだ! 一過性の感情だ! 本心なんかじゃない!」

「ですが、発したのでしょう」

「言っただけだ」

「言葉には責任を持ってください」

「生意気なクソ男が! こざかしいわ!」


 オーガンはクリステに接近しビンタを繰り出す。


「お願い、やめ――」

「お前のような平民の男が王子である俺に意見するなど百年早い!」


 これ以上クリステに触れさせたくない。

 そう思って制止しようとするけれど。

 でも正気を失っているオーガンを一人で止めるのは難しそうだ。


「くたばれ愚かも――っ、ぐほ!?」


 取り敢えず突進した。

 背後からの攻撃には備えていなかったオーガンは、すぐに地面に倒れ込んだ。


「酷いことをしないでください!」


 クリステに駆け寄り、勇ましく言い放つ。


「オーガン様、貴方のところへは戻りません!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ