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スラム街にて  作者: 佐乃原誠
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最終話

 気がつけば、見知らぬ天井が目に映った。

「・・・ここは・・・?」

「よお。やっと目が覚めたかよ、ねぼすけくん」

 聞き覚えのある声がした。

 声の方に顔を向けると、そこにはあの時の男の姿があった。

「・・・なんで・・・?」

「路地裏でくたばってたから、助けてやったんだよ。子供の命は宝物って、母親がよく言ってたからなあ」

 −−—路地裏? 倒れてた? なんで?

 少年の頭には次々と疑問が浮かび、それを男にぶつけようと、身体を起こすが−−−

「−−−ッ!!」

 突然、身体の節々を激痛が襲った。

「まだ身体起こさねぇでゆっくり寝とけ。心配しねえでも、飯の準備はしてある」

 男は少年に静かに忠告した。

 少年は起きるのを諦め、横になったまま疑問をぶつけた。

「・・・何が・・あったの?」

「なんだ、この前の出来事、覚えてねえのか。まあ、あんだけしこたま殴られりゃあそうもなるわな」

 男は後ろ髪をポリポリと掻きながら青年の方に顔を向ける。

「あの日、オメェは俺の忠告を聞かないで、またあの店の前に行って、窓ガラスを投げ破った。そこまでは覚えてるか?」

少年は静かに頷いた。

「その後、店のじいさんがすぐに気付いて、食べ物を物色していたお前を捕まえて、袋叩きにした。そして動かなくなったお前を路地裏に捨てた。それを見ていた俺は、お前をまた宿屋に連れてきて、ここで休ませた。そんだけだ」

「助けて・・・くれたの?」

「助けてなんかない。俺は見ていただけだ。店の親父に感謝するんだな。ちゃんと死なない程度に殴ってくれた」

 男は顔を背け、窓を開ける。外からは暖かい日差しが部屋の中に入り込む。

「・・・なんで、助けてくれるの・・・?」

 少年は男の後ろ姿を見つめながら質問した。

「・・・別に、ただの気まぐれだ。たまたま俺が救えそうな命があったから、どうにかして救いたいと思った。今までは、奪ってばっかだったから・・・」

 その言葉は、どこか儚げに感じられた。そして、同時に切なさも感じ取れた。

「動けるようになったら、店のじいさんに謝りに行くぞ。俺も一緒に行く」

「・・・余計なお世話だ」

 そう悪態をつきながら、布団の中に潜り込む。

 親も友達も、知り合いもいないこの街で、初めて頼れそうな存在が目の前にいる。そのことが、今までの自分の苦労を和らげてくれそうな気がした。

「そういや、まだ名前言ってなかったな。俺はゼノア。お前は? なんて名前なんだ?」

「・・・俺の名前は−−−」

「・・・そうか。とりあえず、よろしくな」

「・・・うん」

 気がつけば、少年の瞳から一粒の雫が枕を濡らしていた−−−

苦しみの先に、温もりがありますように。

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