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シャドウバレット  作者: 月のウサギ
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始まりの依頼

パァンパァン!!



「がっ……!」



男の心臓に向けて、落雷のような轟音と共に二発の弾丸が放たれる。



(ふう……これで依頼は完了したな)



ここは国内有数のヤクザの本丸だった。しかし、俺の手で全員殺し終え壊滅状態となった。

拳銃を懐に仕舞い、屋敷から出る。尻のポケットに仕舞っていたスマホを取り出し連絡をとる。



「仕事は終えたぞ」

『了解っと。それじゃあ報酬は何時ものところね』



短い電話を終えると俺はスマホを切り降りしきる雨の中を傘も差さずに歩いていく。これは黒のコートに付着した血を洗うためである。



俺の名前は切江翔。どこにでも高校生であり、バイトで暗殺の仕事をしている。成績は平々凡々、極々普通の高校生で部活はしていない。最近の悩みはバイトの頻度が多いこと。趣味は銃の整備。バイトと趣味を除けば『普通』の高校生を演じている。



近くを通ったタクシーを止め「鳴神駅まで」と短く告げるとタクシー運転手は了承し運転を始める。

タクシー運転手から手渡されたタオルを手に取り、髪に付着した水滴を拭いていく。



「お兄さん、こんな夜の住宅街で何をしていたんですか?」

「ああ、少しバイトで叱られてね。終えたら終えたで傘を忘れてね」

「それは災難でしたね。はい、着きましたよ」



数分して繁華街の中心にある鳴神駅に到着し、金を渡すとさっさと駅内に入っていく。ちょうど帰宅ラッシュなのかスーツ姿の人たちが駅の中を歩いている。



その中に紛れるように入っていると起床ラッパがスマホから流れる。



(たく……。誰だよ……て、親父か)



電話番号を見る限り『こっち側』にいるようだな。外務省の特殊外交官として『向こう側』に出向いている筈の親父が戻ってきているのか?

スマホのボタンを押し、耳に当てる。



『よう!元気にしてるか?』



電話に出ると、五月蝿い親父の声が耳元に響く。



俺は鬱陶しそうに、



「何の用だ、糞親父。今度はどんな面倒ごとだ」



と告げると親父は豪快に笑う。



親父が俺に電話をかけてくる時は基本的に厄介ごとを背負っている時だけだ。大体それに俺は巻き込まれる訳だから、堪ったもんではない。



『なっはっはっ!!そんな訳ないじゃん』

「そうか。なら――」

『だが、ちょいと連絡しておきたい事があってな』



やっぱり面倒ごとを抱えているじゃねぇか。



咳払いすると、先程の豪快な声音から冷徹な"仕事人"の声音に変わる。



『ついさっき、『向こう側』の国であるレミリスタ王国の王族の留学が会議で承認された』



冷たい機械的な声音の親父を聞いた瞬間、纏う気配が鋭いものに変わる。



『向こう側』の留学生か。現政権は『向こう側』との接触を好まない連中が多いから留学生の受け入れはあまり好まなかった筈だ。それを考えると、あまりにも珍しい。



それも、王族……『向こう側』の権力者の一族の一人がこっちに来るのか。となれば、警護が必要になるな。



「それを俺に話してどうする」



特殊外交官は『向こう側』の要人の警護も仕事の内に入っている。俺が暗殺者である事は知られていないとしても、その話をこっちに持ちかけてくる時点で何か違和感を覚える。



だが、今は知られてはいけない。ここは察していない素振りをして情報を聞き出しておこう。



『いやー、その姫さんが翔の学校……確か、如月高校だったか?に留学するんだとよ』

「……確か、留学生は都内は格式ある名門校が普通だった筈だ。少なくとも、如月高校は普通の地方の学校の筈だ」

『それは「普通の人たちの生活を見てみたい」とか言う向こうの意向だとさ。その影響でこっちはてんやわんや、明日連絡されるだろうけど一週間学校は休校して防衛設備を配備しないといけない』

「随分と向こうの方に主導権が握られてるな」

『向こうの王妃様が桁違いに交渉上手で握ろうと思っても握れない。逆に向こうのペースに終止呑まれてた』



まるで鰻を掴もうとしているような気分だったよ、と笑いながら話す親父に俺はため息を洩らす。



だが、こっちだって色々と手を回している筈だ。無論、それを話すのは外交機密とか国家機密とかになっているだろうし、深入りはしないが。



(……それにしても、設備を変えるとなればそれなりの出費になるだろ)



確か、留学に関係してかかる費用は『向こう側』が出費する手筈になっている。日本側としても毎度そんな事をされるのは堪ったものではないだろうしな。



(だが、そう言った話はあまり聞かない。メリットがないから)



こっち側の設備に異議立てしないと言うこともあるが、それを行うためには見合うだけの権益をこちらに渡さないといけない。

確か、前にもこう言った事があったらしいがその際に得たのは向こうの資源採取の権利と『向こう側』の技術交流の権利だった筈だ。

お姫様を学校に行かせるためだけにそうするのならば、それはあまりにも愚物が行う行為だ。



(……何かしら、裏があると考えて良いだろう)



それも、普通の権利――鉱山や農地、技術ではない、より大きなものの可能性が高い。それを手に入れたとなれば、日本にとって大きな……大きすぎるメリットだ。



(そうなると、米中露が黙っていないだろう。それに、『向こう側』に否定的な政治家やテロリストも)



米中露の三ヶ国は度々日本にスパイや殺し屋、特殊部隊を放っている。現状『向こう側』の知識や技術を独占している日本が世界をリードするという事態に陥らないようにするため、というのもあるが本当の目的は日本が三ヶ国以上の軍事力を持つことを防ぐためだ。



『向こう側』の技術は既存の技術をより発展させるものだけではない。兵器に関する技術も含まれている。既に、東京都心にある皇居の警備に『向こう側』の技術が使われている。



既存の兵器が通じない可能性がある兵器を持っている軍なんて、今まで高い軍事力を持っていた国にとっては目の上のたん瘤どころの話ではない。使い方によっては自分達の地位すら脅かされる事になる。それを全力で止めに入らなくてはならない。



そのため、『向こう側』に否定的な――自分達にとって都合の良い政治家を金等の甘い蜜で操っている。事実、三ヶ国から支援を受けているのが現与党だ。そのため、『向こう側』との交流は未だに限定的だ。



そして、それ以上に厄介なのは『向こう側』に反抗的なテロリストたちだ。物理的な排除を目論む連中が多く、現に多くの技術者が殺されている。



今回の件は完全に喧嘩を売っているようなものだ。水面下の争いが激化すると考えて良い。俺はそれに巻き込まれるだろう。



(……まあ、『向こう側』が出した権利が何か分からない以上、こっちも動きにくいけどな)



暗殺者である以上、私情での殺しは厳禁。これは絶対のルールだ。



『あ、そうだ。最初の一週間のお姫様の様子を連絡してくれないか?俺らが学校の様子を見るのはちょいと、な』

「……わかった」



そう言って電話を切ると駅内のハンバーガー屋に入る。



店員にハンバーガーとポテト、ジュースを個別に頼んで受け取り、店内の一番端にある席に座って夕食をとる。



「ジャンクフードって良いよね。様々な種類があってそこに意味を込めても気づかれない。だから電話をする何て目立つ連絡を取らなくても良い」

「説明になってない。正確には、頼んだハンバーガーとジュース、ポテトのサイズによって情報を伝達していると言え」



背後の席からくる女の話し声に俺が生真面目に答えると女はクスクスと笑う。



「クスクス、それじゃあ、次の依頼について連絡するわ」

「全く……ついさっき依頼を終えたばかりだぞ。流石に多くないか?」



女の頼んだものはチーズバーガー二つにポテト三つ。ジュースはなし。意味するのは『緊急』。確実に嫌な予感しかしない。



「確かに、そうね。でも、今回ばかりはインターバルを置くことができない」



……この女がそこまで言うほどの事態か。そうなれば、かなり厄介な事態になっていると考えて良いだろう。



「『向こう側』の要人の拉致のために、各国が動き始めた。要人を拉致は日本以外にはメリットしかない。しかも、要人は留学生だ」

「……なるほどな。つまり、今回の依頼は」

「ええ、要人を秘密裏に警護して貰いたい。休日は問題ないにしろ、平日は校内にいる以上、確実に緩くなってしまう。そこで、貴方の出番と言うわけ」



女の呆れ混じりの言葉に俺も辟易する。



全く……『向こう側』との関係が上手く構築出来てないのに、出来ている日本を逆恨みして足を引っ張ろうとするのは止めて貰いたいところだ。



だが、仕事は仕事だ。今回ばかりは俺がやらなくてはならない。



「分かった。期間は?」

「三年」

「良いだろう。引き受けた」



夕食を食べ終えると俺は席を立ち、離れる。



やれやれ……面倒な依頼が来てしまったな。だが、『向こう側』の要人か。久方ぶりにきっちりとしないといけないな。

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