競り落とされました
弟は売却先が決まって、就職先も決まった。
宰相補佐という事なら、王都のタウンハウスは売却しちゃダメね。
そして出戻りの私は領地でゴロゴロ・・・いい! 弟と王子の進展も気になるが、それで王宮に行こうとなど思えない。
シャルロットの頭の中で、あらぬ方向に進展していく。
まだ見ぬ弟の堅実な妻に、ごめんなさい、と謝罪まで始まる。
残るは二人。
ウォーレンもナイジェルもどちらも隠れ蓑の妻が欲しい、うわぁ、私って優良物件なんだわ。
お金で片がつく貧乏伯爵令嬢。
この二人ならさぞモテるでしょうから、しつこくされて辟易して男に走った?
ありえる!
妻の立場なら、二人の逢瀬も覗き見出来るかも。
公爵家の使用人達とは仲良くしよう、協力してもらわないと。
シャルロットは、自分の生活が使用人達から苦手とされているのを分かっていない。
食べかすに蟻がたかり、庭から部屋の中に蟻の列が出来ていれば当然だろう。
公爵家の使用人も同じようになるのは間違いない。
「それで、今のままで復興すればいいのか?
フェルシモ伯爵領は過去に何度も干ばつのあった地域だ。
用水路だけで解決できるのか?」
ナイジェルがテオドアに問いかける口調は厳しい。
「今回の様に2年続けてとなると、状況は悪くなっていると考えるべきだ」
バーナードも困ったね、とばかりに追随する。
「問題は父です。
今の僕には、権力がない。
我が領地では、父の管理が甘く、役人や代官が癒着していても厳しく罰せられません。
そして体制も考えも古く、変化を好まない。
僕は道路整備を考えてます。
そして、水分を大量に必要な農地から牧草地に変え畜産業を主体にしたい。
畑よりも牧草の方が保湿にすぐれ、王都や他領に安定し安価な肉を提供したい。
その為に、爵位と道路整備と大型の荷車が必要なのです」
テオドアの考えを実行すれば、伯爵領の建て直しも肉牛の生産年数で計画を立てられる。
あくまでも、テオドアが爵位を継ぎ、道路整備の資金があればの話である。
テオドアが爵位を継げば、能力のない役人や代官は切り捨てられ、経費も抑えるだろう。
「パーシバル公爵、姉に腕力をふるった責任はどうされるおつもりですか?」
「融資をしよう、これは利子をつけるが金利と返済方法は後で詳細を決める」
支度金とは別に用意するということだ。
ナイジェルの言葉を受けて、テオドアが手をナイジェルに差し出した。
「姉をよろしくお願いします」
ウォーレンが両手をあげて、諦めの姿勢を表示すると、ナイジェルはテオドアの手を握った。
用水路に道路、工事代金を想像してシャルロットは動悸がしてきた。
すみません、頑張っているのですが根本的にお金がたりないのです。
領民が衰弱する姿を二度と見たくないのです。
「だが、君は嫡男に過ぎない。伯爵家の決定権は君にない。
シャルロット嬢の婚約を決めれないだろう?」
ナイジェルが確認すると、テオドアは頷いて肯定する。
「テオドア、君はすでに伯爵から譲位の策は立てているのだろう?
僕も手伝うことが出来るよ」
正当な手段でないと分かっていてバーナードが言うが、テオドアは微笑んだ。
「パーシバル公爵、今夜は姉を連れて帰ってください」
男性3人は驚きを隠せない。
「シャルロット嬢は、遊び女ではないのだぞ!」
ナイジェルが声をあららげる。
「僕達には姉自身しかないのです!
父が侯爵と婚約を強行しても、手遅れにしないといけないのです。
パーシバル公爵家ならば、相手が侯爵でも手が出せない。
父の対策では領民を救えない!」
そして、シャルロットとの結婚を確実のものとする為にも、既成事実があった方がいい。
屋敷に連れ帰った伯爵令嬢が期待外れであったとしても、援助を返さなくていい方法だ。
「僕達が領地に戻って見たものは、父の対策の失敗の結果でした。
姉の目の前に、瘦せ細った子供が道に転がってました。
大地は一面茶色で、農地は死んでました。
食料の無くなった農民は、子供を捨てたのです。
その子を助ける為に姉はドレスを売り、村の食糧のために母の形見を売りました」
次に売るのはシャルロット自身だと、テオドアは言っている。
バーナードは手で顔を押さえていた。
「殿下、王家の支援だけで被害を抑えることは無理です。
父も通常であれば、領民思いのいい領主なのです。ただ、非常時に凡庸でいい人は非情になれません」
テオドアの声は大きくもなく小さくもなく、部屋に響いていた。
上手い!上手い、テオドア!
シャルロットだけが、皆が真剣に話をしているのを他人事のように聞いていた。
本当のことだが、思い通りに進ませるために少しは装飾するのも必要だ。
でも、テオドア知らないでしょうけど、公爵の恋人はエバンス伯爵子息。
私は手を出されないのよ。