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シャルロットの災難  作者: violet
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シャルロットの失敗

バサァッ。

本の落ちる音で、シャルロットは目が覚めた。


昨日、テオドアにお説教を受けた後、説明を受けた。


シャルロットを囮として、疑惑のあった侍女を捕まえたらしい。

侍女は怪しい物体を持っていて、さらに怪しい液体が入っていたそうだ。

それは、ナイジェルの帰りを待って調べることになっているそうな。

『姉上の美貌を恨んでいるのですよ』

怖すぎるんですけど。

それって、酸とかの毒物ってことよね。

顔にかけて皮膚を焼いたり、ただれさせるつもりだったと。

痛いのは嫌いです。


はぁ。

これで、屋敷内にいる使用人は信頼の出来る者ばかりだと説明を受けたけど、まるで私の為にそうしたみたいになっている。


ボスン、と起き上がった身体をベッドに転がせる。

どう考えても、その侍女達がしようとしたことが理解できない。

ナイジェルに相手にされていない現状で、婚約者に危害を加えたら(ただ)では済まないことも、分からなかったのか。

蛙やネズミの死体で追い出すことが出来なく、さらに協力者だった家令と娘のカトレアが捕まり、追い詰められて短絡的になったのかもしれない。


だからって・・・


ガバッ!!

シャルロットがベッドで跳ね起きる。

だーいチャンス到来!


これって、公爵家の責めだよね。

これで逃げても、援助金は慰謝料としてもらえるのでは?

うーん、融資を止められると困るから、どうしよう。


早くナイジェル帰ってこないかな。

融資の話をしなければ!


「ミラベル」

呼ぶと、隣の部屋に控えていたミラベルが直ぐに来た。


「シャルロット様、もう大丈夫なのですか?」

テオドアから、昨日の疲れで今日は寝ているだろう、とでも言われていたのだろう。


「ありがとう。

大丈夫よ、食事と着替えをお願い」

そうよ、ナイジェルから有利な条件を勝ち取って実家に帰るのよ。

この顔が好きみたいだから、精一杯(たら)し込むわ!


慰謝料と、融資は継続、これは譲れない。

まかせて、テオドア、姉らしいことするから。


ミラベルに髪を梳いてもらい、爪を磨き、ドレスを選び、戦闘準備を整えて、シャルロットはナイジェルを待っていた。



予定の3日を過ぎても、ナイジェルは帰ってこない。


金鉱山だけでなく、ガウス伯爵家の後処理があるのだ。

しかも、取引先が他国の商人となると、金の流出先は国際問題だ。


バーナードもナイジェルも予想していたことだが、予定通りには進まない。


予想もしてなかったのはシャルロットだ。

高揚した志気は、日に日にしぼんでいく。

面倒くさくなってきたのが本音である。

5日も経つ頃には、ドレスをしわくちゃにして、ベッドに寝ころんで本を読む生活に戻っていた。


コンコン。

テオドアが学校から帰ってくる時間だ、と思いながら生返事をする。

「どうぞ」

扉を開けてミラベルが入って来たが、後ろにいるのはテオドアではなくナイジェルだ。

「シャルロット様、お戻りになられました」

ミラベルが言っても、本から顔をあげないシャルロットは気が付かない。

「おかえりなさい」

テオドアだと思って、適当に返事している。


「シャルロット」

その声がテオドアでなく、ナイジェルだと気が付いたシャルロットは飛び上がった。


「ミラベル、ドレス!」

今更なのに、シャルロットはごまかそうと慌てている。

しかも、部屋に入ってきたナイジェルを追い出そうとしだした。


「綺麗にしてお出迎えする予定だったの!

誑し込むつもりだから、少し外で待っていてください」

ナイジェルの背中を押して部屋から追い出すシャルロットは、慌てていてとんでもない事を言っている。


パタン。

居間の方に追い出されたナイジェルは、ハハハと苦笑いする。

ソファに座って、ソファの背に両手を広げて天井を見ながら笑っている。

ガウス邸は戦場であった。殺伐とした中で後処理をしていたのだ。

つい先日までのパーシバル公爵家も気の緩む場所ではなかった。

それが、今はどうだ。

力が抜けてしまう。

俺を誑し込むだと、正直すぎるぞシャルロット。


寝室の方では、バタバタと、ミラベルや侍女に手伝ってもらって、シャルロットが着替えている音がする。

そんなに慌てなくとも、と思うナイジェルの頬は緩んでいる。


感動の再会の前に、テオドアが帰ってきてナイジェルと話を始めたのを、シャルロットはまだ知らない。



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