金鉱を制して
ナイジェルは金鉱を僅かな時間で制圧した。
投入した軍に敵うはずもなく、圧倒的な戦力差となったのだ。
「ここまで上手くいくとは思ってなかった。
油断していたところに我らの急襲だ、寄せ集めの警備兵では敵うはずない」
「巧妙に隠せていたのは、この金鉱が廃鉱となっていると思われていたことと、他の街から離れていることだな」
金鉱の街を占領して、ナイジェル達は1番大きな建物に司令部を置いた。
「油断するということは、パーシバル公爵家が舐められていたという事だ。
長年の家令とのパイプが強かったのだろう」
バーナードが嫌みぽくナイジェルに言う。
「お恥ずかしい話で、返す言葉がありません」
前パーシバル公爵の放蕩で、ナイジェルも家令には負い目があった。
だが、許してはいけないことだった。
「運があるらしい」
バーナードが言うのを、ナイジェルもウォーレンも意味がわからない。
「今回、スムーズにいったのは運があったと思わないか?
いや、この金鉱が怪しいとわかってから、証拠集めも軍の投下も上手くいきすぎている」
後処理に入っているとはいえ、祝杯をするわけにいかず、お茶のカップを取り、バーナードがナイジェルを見る。
「テオが言うのだ。
姉は幸運の女神ではない。だが、小さな運を持っている」
そう言われれば、家令を不審に思っていてキエトを育てていたのだ。
だが、確たる証拠もなく、何が不審かさえつかめてなかった。
シャルロットが屋敷に来てからだ。
ナイジェルもウォーレンも、心当たりが頭に浮かぶ。
バーナードがテオドアから聞いたと話を続ける。
『領地の被害は、もっと大きくてもおかしくなかった。
僕と姉が領地に行ってから、いくつもの地下水流がみつかり井戸を掘ることができました。
農地はすぐには戻らないが、領民の命を守ることができたのです。
父は何度か騙され、姉を嫁がせようとしたが、相手の良識ある家族の反対や、死亡で話は無くなりました。
子供の頃から姉の美貌は抜きんでていて、攫われたことは2回。
侍女が忘れ物を取りに戻って異変に気付いたことや、いつもは開いている門が閉まっていたりして、姉はすぐに取り戻すことが出来ました。
今回のことも、普通なら大金を援助してくれる人間など、簡単には見つかるはずないのです。
それが、持参金を積んでも結婚をしたい、女性が憧れる男性が3人』
軍を率いて金鉱の制圧に行くとなった時に、テオドアからはこうも言われた。
『姉が関わっている事件なら、きっとご無事で戻られることでしょう。
行ってらっしゃい、殿下』
実際にそうなった。
「幸運の女神だったら領地が干害などならないから、小さな運というのでしょうね」
なるほど、とウォーレンが納得する。
「ナイジェル」
空になったカップをソーサーに置いたバーナード。
「テオドアが言っていた。
シャルロット嬢を誘拐したのは、2回とも家庭教師だったと。
捕まえたその男が、お前が俺を狂わせたのだ、お前がいなければ、と叫んでいたようだ。
その時、シャルロット嬢は10歳。
元々、屋敷からあまり出ない令嬢だったが、部屋から出なくなったそうだ」
ダン!
ナイジェルが椅子の肘掛けを強く殴った。
「そんな男のせいで」
拳を強く握りしめているナイジェルに、バーナードはテオドアの言葉を思い出していた。
『姉は正しく運がいいようです。
誰よりも、姉を大事にしてくれる男性に巡り合えたと思ってます』
僕は、テオドア、君が弟であることがシャルロットの1番の運だと思うよ。




