シャルロットの覗き見
ダン!!
隣の居間の大きな音でシャルロットはベッドから覗きに出た。
扉を少し開けて、こっそり覗くと、キエトと複数の男性使用人が二人の女性を押さえつけている。
うわぁ! 女性が危ない! と一瞬思ったが、アレはシャルロットに危害を加えようとして来た女性を捉えているんだった。
シャルロットが部屋に一人でいるかのように思わせて、キエト達が部屋に隠れていたのだ。
こんなチャンスは二度とない。
シャルロットは忘れないように、隙間から覗いてメモを取っていく。
キエトって細い身体なのに、体術をしているのかしら?
強い!
軍人のナイジェルに仕えているキエトなのだ。
訓練されているのは容易に思いつくはずなのに、キエトかっこいいなどと思っている。
「あんなワガママな女!」
「ナイジェル様は騙されているのよ!」
二人の女は口々に暴言を吐く。
女を縛り上げて、キエトは冷たく言い放つ。
「美貌では足元にも及ばない、家柄も何もかも勝てる所などないでしょう?
以前、ナイジェル様の寝室に忍び込もうとして追い出されたのを忘れているようですね」
すっごーくカッコいいんですけど!
メモ、メモ、ついでに絵も描いちゃえ。
たとえ女性相手でも、主君を守る為に手を抜かない。
シャルロットの妄想で、キエトが主人公の話が作られていく。
キエトの深い想いは主君に。
あれ、主君の妻に密かな憧れ、そっちの方がいいかも!
って、私だー、困ったな。
「シャルロット様?」
キエトが寝室の扉の隙間から覗いているシャルロットに声をかける。
ドッキン!
心臓が飛び出しそうになって、メモを身体の下に隠すシャルロット。
疚しい妄想をしていただけに、悪事がバレた小悪人のように狼狽えてしまう。
「こちらは危険ですので、寝室から出ないでください」
キエトが扉の前に来て、床に座り込んで見ていたシャルロットに目線を合わせるように跪く。
コクコク、と声を出さずに頷くシャルロットに安心したように、キエトが微笑んだ。
うわぁああ!
寝室側の扉の裏では、シャルロットが鼻を押さえてもんどりうっているのをキエトは気が付かない。
いいもの見た!
疲れる程、興奮したシャルロットは、よろよろとベッドに戻った。
でも、やっぱり、ナイジェルの圧倒的な経済力の魅力には及ばない。
顔もナイジェルの方が好きかも。
軍人のナイジェルはもっとカッコいいかも。ちょっと身体見せてくれないかな。
お土産にスイーツくれるし。
それに・・・キスしたし。
居間の方から、ガタガタとしていた音が終わると、ノックをしてキエトが声をかけてきた。
「シャルロット様、もう居間にいらしても安全です」
キエトが寝室に入って来たら困ると、メモをベッドの下に隠してシャルロットは返事する。
「わかりましたわ」
キエトが寝室に入るなどありえないのに、メモの上に本や小物を置いていく。
すでにベッドの下には、シャルロットが隠した物がたくさんある。
ミラベル達はシャルロットの大切な物と判断して、掃除の時にも触らない。
こうして、掃除をしない場所が増えていくのである。
「シャルロット様?」
居間に来ないシャルロットの為に、ミラベルが寝室にお茶を運んできた。
「そろそろテオドア様が学校から戻られるお時間になります。
お着替えの用意をいたしました」
シャルロットにティーカップを渡しながら、ピンクの刺繍のドレスでいいですか、とミラベルが確認してくる。
弟に会うだけだから着替えなくっていい、と言いたいのに言えないシャルロットである。
きっとお似合いですよ、なんて期待の目で見ないで欲しい。




