テオドアの評価
朝方、ナイジェルはシャルロットが寝ているうちに金鉱に向かった。
家令たちを捕縛した今、金鉱現地での内通者を断罪するためだ。これは王家への背信行為ともいえるのだ。
パーシバル公爵家に乗り込んだ部下達でなく、近衛の騎士まで動員しての遠征である。
第3王子バーナードが随行することで、近隣貴族への捜索、懲罰が可能となる。
大規模な行軍は、王家の権力の誇示にもなる。
シャルロットが起きたのは昼前だ。ナイジェルに言われていたのか、侍女も起こしには来なかった。
少し寂しいと思う。
夜更かししたからと言って寝坊するシャルロットは、寝坊と言うには起きた時間が遅すぎる。
ミラベルが起きたシャルロットに昼ごはんを持って来ると、次は起きようと思って終わる。
シャルロットはあまり落ち込まない、次頑張ろうとなる。
反省しているようで、していない。
夕方になると、テオドアが公爵家に来た。
テオドアの学生服姿に、シャルロットは感動していた。
「途中入学で、馴染めた?」
学費が無くて、諦めていた学校に入学できたのだ。
姉として単純に嬉しい。
「うん、まぁまぁかな。
公爵から留守を頼まれているので、寮には外泊を申請してきたんだ。
公爵が戻ってこられるまで、ここから通うよ。
部屋も用意してもらってある」
荷物も運びこんだから、とテオドアがシャルロットが安心するように言う。
「休暇でもないのに寮を出るなんて、特別だと言われるんじゃないの?」
それでなくとも途中入学で目立っているだろう、とシャルロットは心配する。
「大丈夫だよ、殿下から言ってもらっているから」
テオドア、それダメなやつじゃないの、王族の権力を使うなんて。しかも自分は王族には程遠い貧乏伯爵家。
シャルロットの頭の中では、クラスメイトに虐められているテオドアの姿が浮かぶ。
ツン、とテオドアの人差し指がシャルロットの額を突く。
「姉上、ろくなこと考えてないでしょう?
大丈夫って言っているでしょう。病弱な姉の付き添いと言えば同情してくれましたよ」
突かれた額を両手で押さえて、シャルロットはテオドアを見る。
「不安定な状態の姉上を置いて領地にいくことを、公爵は心配されてました」
はは、とテオドアが笑う。
「姉上が不安定な状態でないのは、寝ている時だけですよ。
僕なんて、姉上が何を考えているかなんて想像もつきません。どうせ、ろくな事じゃないし、後ろ向きですし」
「ひ、ひどい!」
「貶しているんじゃありませんよ。それが姉上らしいし、前向きがいいと決めつけなくってもいいでしょ?
姉上は臆病で、優しいから」
うちの弟はすごい女たらし? シャルロットは思わずテオドアの歳を考えて、ありえないと思う。
「姉上、まだうちの領地に帰ろうと思ってますか?
ここでも隠遁生活は出来そうですよ?
僕は公爵なら、姉上を任せられるな」
見てください、とテオドアは続ける。
「姉上の部屋が整頓されているんですよ。公爵家の財力なら侍女を何人も付けれて部屋の片づけができる。
僕は領地の姉上の部屋には苦情を言いたい。食べ残しにカビが生えているのを部屋に放置するのは止めて欲しい。それに」
シャルロットは、テオドアの口を手で押さえて言葉を止める。
「それは、ちょっとは気をつけるようにするし」
「ちょっと?
あの部屋に住んでいて病気にならない姉上が、病弱のイメージって詐欺ですよね」
どうやら、テオドアにはナイジェルの評価は高いらしい。
「いいですか?
こんな好条件は二度とありません、もう一生公爵のお荷物になるのがいいです」
シャルロットだって、テオドアがシャルロットを大事にしているのは知っている。だが、たまに心が折れそうになる。