迷う気持ち
ナイジェルは、シャルロットに怖い思いをさせたくなかったのだ。
家令だけでなく協力していた使用人、全てを捕縛するには強硬手段が必要だった。それが流血になろうと。
シャルロットが何も知ることなく終わらせようとした。
「決してシャルロットをないがしろにした訳ではない」
「みんなそう言う。
自分のイメージの私を守ろうとする
私は、私です。
私は、当事者の一人ではないのですか?」
シャルロットは顔を見せたくなくって、ベッドに潜り込んでしまう。
モソモソと布団の中を動いて、ベッドの端に寄る。
「当事者と、公爵家の人間と言ってくれるのか。
それでも、金鉱が関係している限り、詳しい内容を話すわけにいかない。
知れば、王家の監察対象になってしまう」
ナイジェルがそっとデュヴェをめくり、クッションを抱いて身体を丸めているシャルロットの頭を撫でる。
「大事なんだ、傷つけたくないんだ」
「そんなに、この見てくれがいいの?」
顔をあげたシャルロットは泣きそうだ。
「それも含めてかな」
シャルロットの頭に置かれたナイジェルの手は、シャルロットの髪をもてあそび始めた。
「最初はシャルロットの容姿に惹かれた。広間に現れた姿は誰よりも美しかった。
すぐに殿下が手を取ったから、それで興味を失った。そういう女だと思って。
だが、庭園の影から飛び出して来たシャルロットに目が惹かれた。
話すと面白くって、こんな女性がいるのかと驚いていた。
弟君が君の支度金のオークションを始めた時は、すごい姉弟と笑いを抑えるのが大変だったよ」
シャルロットの髪がクルンとナイジェルの指に絡められる。
「屋敷に連れてくれば、君は部屋から出なくって、何してるんだろうって気になるばかりだ」
「この姿に似つかわしくないって?
がっかりしたよ、って?」
シャルロットがクッションを振り上げる。それを手で受け止めてナイジェルが笑う。
「機敏に動けるじゃないか。
そんなこと思ってないよ、誰かに言われたの?」
シャルロットが横を向くのを見て、言われたのだろう、と納得する。
「明日は弟君に来てもらおう。
俺は金鉱に行かねばならない、それを伝えたくって来たんだ。
起きているとは思ってなかったけど、顔を見れて嬉しいよ」
ポイとクッションを横に投げ捨てると、ナイジェルがシャルロットとの距離を詰めてくる。
シャルロットは起き上がることなく、ベッドの上をもそもそと這って逃げる。
「どうして離れるんだ?」
不服とばかりにナイジェルがシャルロットの手を取る。
「だって、私、公爵夫人になれるような教養もないし、きっとすぐに飽きられるから」
「第2金鉱の事など、よく気が付いたじゃないか。十分だ。
それに何だって?飽きる?
君は世界に一人しかいないんだ、飽きるはずない」
「私、部屋から出ないし」
「ちょうどいいじゃないか、君を縛り付ける必要がなくなる」
シャルロットが否定すれば、ナイジェルが肯定する。
「領地に帰りたいの。
援助してもらったから、身体を差し出せばいいや、と思ってた
きっと疎まれるから、そうしたら領地で暮らそうと思ってた」
ギシ、と音をたてて、ナイジェルがベッドに乗り上げ、シャルロットの肩を抱こうとする。
「帰すつもりはないし、疎まれるってのがわからないな」
「暖かい」
ナイジェルに抱きしめられて、シャルロットが呟く。
「何も教えてくれないって、文句言うつもりだったのに」
「もっと文句を言えばいい」
嬉しそうにナイジェルが言うから、困ってしまう。
嫌われたくないと、思ってしまう。