図書室の変異
シャルロットは図書室にいた。
立派な悪女になるべく、指導書を探しに来たのだ。
さすがにミラベルに探してきてとは言えず、部屋を出たのだ。
だが、図書室で探していて上の段にあると、脚立を持って来るのが面倒で、無理に手を伸ばし転んでしまった。音でミラベルが近寄って来たのを制して、シャルロットは座りこんだ。
「面白いのがあるから大丈夫よ」
転ぶときに棚の本を何冊も落としてしまったのだ。その中に興味のある物を見つけてしまい読み始めた。
その場に屈みこんで読み始めるから、ミラベルがショールを肩にかけてくれる。
「ありがとう、ミラベル。
お茶をここで飲んでもいいかしら?」
はい、と返事してミラベルが用意に向かう。
カタン、と音がして、もうミラベルが戻ってきたのかしら、と思ったらミラベルではない侍女の後ろ姿。
「お嬢様、お茶と焼き菓子を置いておきます」
「ありがとう」
どうやら、図書室のテーブルにカップを置いたらしい。
ミラベルだったら、横まで持ってきてくれるのに。
仕方ない、あそこまで行くか。
お茶を持ってきてくれた侍女は居なくなっており、シャルロットは本を片手に動こうとしたが、キリのいいところまで読んでから、と後回しにしていたらミラベルが戻ってきた。
「シャルロット様、お待たせしました。
新しい茶葉を用意しましたので、置きますね」
ミラベルは、シャルロットの横にトレイのままお茶を置く。
「あら、さっき誰かがお茶を持ってきてくれたわ、テーブルにあるでしょ?」
シャルロットはカップを手に取り香りを楽しむ。
ミラベルはシャルロットの言葉に不安になり、慌ててテーブルの上を見る。
「きゃああ!」
紅茶の中にカエルが浮いていた。
「ミラベル」
慌てて立ち上がろうとしたシャルロットは、もんどり打って転んだ。
両手に本とカップを持ったままだったので、手をつくことも出来ず、肩を強打してしまった。
カップは割れ、紅茶がシャルロットにかかる。
「シャルロット様!」
ミラベルが駆け寄り起こしあげると、割れた破片でシャルロットはケガをしていた。
「痛い」
傷は小さいが痛みに弱いシャルロットは、大ケガのように顔を歪ませていた。
バタバタと大きな足音でキエト達が図書室に駆けつけてきた。
先程のミラベルの悲鳴を聞きつけたのだろう。
座り込んでいるシャルロットとミラベルを見ると、安心したように表情を緩めるキエト。
だが、シャルロットの手に傷があるのを見ると状況が変わる。
「すぐに医師を呼びます、ミラベル、シャルロット様をお部屋に連れて行ってください」
それから、テーブルにあるカエルの入ったティーカップを見る。
「猫の次はカエルですか。なめたことをしますね」
キエトは眉をひそめると、シャルロットのうしろを守るように図書室を出る。
シャルロットは傷の手当てを受けながら、これで帰れると思っていた。
猫、カエル、怖いわ、と泣けばいいのだわ。
「怖いわ、怖いわ」
棒読みのシャルロットは大根役者であるが、ミラベルは怖い目に遭って
震えているのだろう、と思っている。
シャルロットは、カエルの入ったティーカップも見ていないし、自分で転んでケガしただけである。
よし、明日には領地に帰ろうと思っても、ちょっと寂しい自分がいることにシャルロットは気づいていた。
指は唇に触れていた。