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シャルロットの災難  作者: violet
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シャルロットのささやかな夢

王都のタウンハウスの使用人は、老執事夫婦のみで閑散としていた。

伯爵家としては小さな館だが、それでも程々に部屋数があり、以前は多くの使用人がいた。

それでも最低限の部屋は掃除され、温かい食事を執事夫人である家政婦長ヨアンナが提供してくれる。


「留守を預かってくれていて感謝している。

ここには僕達しかいない。ハンス達も一緒に食事しよう」

テオドアが執事の名を呼ぶが、ハンスは固辞し夫婦二人で後で食事すると言う。

食事のサーブをして厨房にさがる二人に、シャルロットが礼を言うと家政婦長は笑顔を見せて食堂から出て行った。


テオドアは、家政婦長にありがとうと微笑むシャルロットを見ていた。

領地にひきこもり怠惰な生活をおくっていた姉は優しい、働きたくないが仕方なければ働く。

姉に駆け引きなど無理だ、それは自分の役目と分かっている。


「ね、テオドア」

執事たちがいなくなった途端、シャルロットが声を潜めて話してくる。

ここには誰もいないし、盗聴する利もない家なのに声を潜める意味が分からない、とテオドアは思う。

「ね、ね、援助がもらえたら、婚約破棄とか離縁とかで領地に戻っていいのでしょう?」

自分から破談にすれば援助金を返さねばならないが、相手からの申し出なら貰いもん勝ちである。

「姉上は、自分が結婚生活に向かないと分かっているのですね。

いいですよ、僕が面倒みてあげますから」

嬉しそうに笑うシャルロットは美人だ。

「その為にしっかり(たら)し込んでください」

「まかせて!この身体を使って篭絡(ろうらく)してみせるわ」

意気揚々と力説するシャルロット。


病弱設定の姉の噂は知っている。

それが、すずらんの君、という呼び名になっていることも。

不可思議すぎるが、本人がいないことで噂が独り歩きしているらしい。

ただの怠慢だとバレる前に、結婚までこぎつけないと危ない。


「テオドアの学費もむしり取ってみせるから」

貴族子息は15歳になると王立学校に通う。騎士科と文官科のどちらかに入る。

テオドアの学費は、災害にあえぐ領民達への食糧支援へと変わった。

この姉は家族思いなのだ、それは間違いない。

「姉上、学校で習う知識は自学できます。でも領民を守るのは領主の務めです」

学校は知識を得るだけでなく、同年代の子息達との交流もあるのだと、分かっていてテオドアは言っている。

「まさか、悲劇のヒロインみたいな考えしてませんよね?

私の弟が可哀そう、なんて。

バカらしい。それこそ無駄です」


もちろん、悲劇のヒロインになってましたとも!

無駄に時間を過ごすのが大好きなシャルロットは妄想が大好き。

シャルロットは、出鼻をくじかれたごとく返す言葉がなくって、もくもくと食事を続けた。

今夜は夜会。絶対に金持ちをつかまえて、テオドアの学校と、来年の種を貢がそうと机の下で握りこぶしをする。

身体を使って責任を取らせる、これしかない。

それから、令嬢としてゴロゴロは失格だから、本性がバレて婚約破棄。慰謝料ガッポりで実家に戻ろう。



バラ色の未来を想像して、シャルロットの頬が緩む。

領地の片隅の小さな館で日向ぼっこしながらお昼寝、サイコー、夢は続く。

生活の安定なくしては、引きこもり生活は成り立たない。




「お嬢様、マッサージをゆっくりしたいので、早めの準備でよろしいでしょうか?」

ヨアンナが、厨房から出てきてシャルロットに声をかけた。

すでに、厨房で食事を済ませたらしい。


「それがいいね。

姉上は領地にいる間は、髪はボサボサ、何の手入れもしてないからね」

たくさんの使用人がいた時は、シャルロットがやる気マイナスでも、寝転がっているだけのシャルロットは勝手に手入れをされていた。

それが、今はない。

それをこれから挽回しようとしているのだろう。

「ヨアンナ頼むよ」


「ほどほどでいいわよ。

だってマッサージ痛いんですもの」

普段の手入れをしていない自覚のあるシャルロットは逃げ腰だ。

夜会に行って金づるを見つける為には、いろんなところを盛らねばならないと分かっていても、手入れをサボって固くなった皮膚のマッサージは痛いのである。


だから、マッサージに時間がかかるのです、とヨアンナの目は語る。

干ばつで領地に帰るまでは、この王都のタウンハウスで暮らしていたシャルロットとテオドアである。

ハンスもヨアンナも、二人のことはよく分かっているのだ。


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