実家からの贈り物
毎日届けられる花で、シャルロットの部屋は花畑である。
花の管理も、脱ぎ散らしたドレスも侍女が片付け、シャルロットの部屋は綺麗である。
庭の東屋は気に入った、が、ベッドの中の方がもっと好きだ。
ベッドに転がって、いつものように本を読むシャルロット。
侍女達も慣れて来たらしく、部屋の掃除が済むとおやつまでシャルロットを一人にしてくれる。
ナイジェルは毎朝花を届けるだけでなく、夜にはお土産を手にして訪れることも多い。
コンコン。
「シャルロット様、ご実家からお届け物です」
普通は、ありがとう何かしら、となるのだが、シャルロットは普通ではない。
「うーん、開けてみて、居間のテーブルに置いておいて」
シャルロットにベッドから出るという選択肢はない。
あのケチな弟が贈ってくるって、何だろう。お父様の生首かもしれない。
もう貴方には領地を任せておけません、すぐに爵位をお譲りください、とか言って決闘になったとか。
ふっふふ、と妄想が暴走しそうになった時に侍女の悲鳴が聞こえて来た。
「きゃあああ」
バタン!と扉が開き使用人達が駆けつけて来た足跡が響く。
絶対に実家からの贈り物が関係している。
仕方ない、行こうか。
もそもそとベッドから降りて居間に続く扉を開けると、ミラベルがシャルロットを止めようとする。
「シャルロット様、来られてはなりません。
見る必要ありません」
すでに部屋に来ているキエトがシャルロットの視界を塞ごうと立ちはだかった。
「キエト、いいの。私に教えて、何があったの?
私は皆を守る義務があるの」
キエトはシャルロットの言葉に目を見張ったが、少し表情を緩めた。
「そうでした。シャルロット様は領民の為に心身投げうって尽くされる方でした」
何か間違ってます。誤解されるのはいつもの事なので、シャルロットは反論せずキエトの横をすり抜ける。
テーブルの上には開かれた箱。
そこには猫の死骸。
「ヒッ」
声を止めようとしてシャルロットは口元を押さえる。
歓喜の叫びをしそうになったのである。
これよ、これよ、待っていたのは。
ポッと出の婚約者など帰れ、ってことよね。
ナイジェルのお姉さまかしら、領地にいらっしゃる義母様?
ダークホースでナイジェルの恋人とか。
これで怖いと帰ったら私の責になるのかしら、援助は返せないし。
これだけじゃ、まだ足りないよね。
毎日、贈ってくれればいいのに。
2年前、シャルロットは干ばつで飢えた領民の為に食料物資の手配をしていた。
そこで家畜を屠るのを見たことがあるし、伯爵家では猫が捕まえたネズミを食べる現場に出くわしたこともある。
そんなことを知らないミラベル達は、シャルロットがショックを受けてると決め込んでいる。
「シャルロット様、ご気分はいかがですか。
こんなもの見て、気持ち悪いのは当然です」
ミラベルが、テーブルから離れた椅子にシャルロットを座らせる。
「いえ、大丈夫よ。ミラベル達こそ怖かったでしょ?
実家からではないと断言できるわ」
弟のテオは猫を大事にしているもの。
警備兵が猫の入った箱を持って出た後で、シャルロットはミラベルに尋ねる。
「私よりも貴方達の方が心配よ。
箱を開けてびっくりしたでしょう?」
キエトは家令のデーゼルに伝えるように男性の使用人に指示をし、警備兵を部屋の外に配置した。
この場にいない家令、それがキエトと家令の関係を表しているようで、犯人は家令の可能性もあると思った。
キエトはシャルロットを重要視するが、家令はしていないからここに来ないのではないか。
どうぞ、私を追い出してください!
公爵家の家庭の事情は関わりたくないです。