鍵の意味
ナイジェルは封筒を見ていた。
中に鍵が入っているのは知っている。
屋敷の部屋の数多くに鍵の付いた机や棚があり、管理を兼ねてその部屋の引き出しの裏側に鍵を入れた封筒を貼ってある。
シャルロットの居た部屋にも鍵の付いた家具があったのだろう。
「可愛いじゃないか」
封筒から鍵を出すと、カチャと音がする。
シャルロットに探るようにいったのは、シャルロットの様子を見るためでもあった。
期待してたわけでも、来たばかりのシャルロットに手がかりが見つけられるとも思っていない。
ナイジェルの役に立とうとした結果が、この鍵だ。
シャルロットは、この封筒の意味を知らない、怪しい封筒を見つけたと思ったのだろう。
王宮の庭園でシャルロットの思い込みで取引を持ち掛けられた時に面白いと思った。
清楚な美貌の容姿で、言う事がずれている。
王子にもウォーレンにも負けたくないと思い、シャルロットの一挙一動が気になった。
由緒ある伯爵家が貧困に陥ったのは、干ばつで苦しむ領民に寄り添ったからだ。
領地で建て直しの手伝いをし、見かけよりもずっとたくましいのだろう。
公爵夫人に相応しい。
判断した時には好意を持っていた。
テオドア・フェルシモ、君の選択は正しい。
あの3人の中で、俺が一番惹かれていたのだろう。
返品なんてしないさ。
「ナイジェル様、今日はお呼びだてしてしまい申し訳ありません」
キエトがグラスとデキャンタを、ナイジェルの前のテーブルに置く。
「いや、知らせてくれてよかった。
昨日のネズミの事もある。
最悪にならないように気を付けるのに越したことはない」
ナイジェルは鍵をテーブルに置くと、グラスを手に取る。
「ミラベルを中心として、侍女達を交代で番に付けてます」
キエトは、ナイジェルが次期家令にと考えている人間である。
「デーゼルの娘の動向も注意しろよ」
「はい、シャルロット様に敵対心を抱いているようです」
仕えている家の主人の婚約者に、そのような事を許せるわけがないが証拠がない。
ナイジェルも家令の裏切りは分かっている。逃げられないように準備をしている段階である。
代々家令をしてきた家系の人間を退けるのだ。それだけの準備をしなければならない。
「俺は父上のようにはならない。
甘くみられたものだ」
キエトは何も言わず、ナイジェルの話を聞いている。
「明日、ここ数年の帳簿をシャルロットに届けてくれ」
それと、と付け足す。
「庭に咲いている中で薄い色の薔薇を、朝一番で届けてくれ。
きっと似合うだろう」
一口グラスに口を付けると立ち上がり、部屋に置いてある剣を手にする。
「気になる、見回りに行ってくる」
「お供いたします」
ナイジェルとキエトは廊下に出ると、夜の冷気に身を包まれる。
足音も立てずに二人は、長い廊下を進む。
封筒を見つけた結果になったが、ナイジェルが考えているような原因ではない。
お互いに相手を思い違いしているが、支障はでていない。
昼間にたっぷり寝たシャルロットは目が冴えて、ベッドの中で本を読んでいた。
難しすぎて理解できず見るだけのシャルロットは、パラパラと頁をめくるだけなので読むのは早い。
もう次の5冊を持って来てもらっていた。
「あら、これは古いけどパーシバル公爵家の領地の地図だわ」
湖がある、これが金山、と興味が出たのでじっくり見始めた。
「すごい、金鉱は2つあるのね。
お金がうじゃうじゃあるのが分かるわ。
あり過ぎて、家令に裏切られているかもなんて幸せじゃないのかもね」
ドラマだわー、と他人事のように言っているが、すでに当事者になっている。
シャルロットは1週間ベッドで過ごす予定だが、明日朝1番に薔薇が届けられ、慌ただしくなるとは想像もしていない。




