発見
人間には、張らなくていい意地と張らなければならない意地がある。
机の下で、シャルロットは思っていた。
でた答えは、面倒になっちゃったなー、である。
ちょっと汚したのをごまかそうとしただけだ。
ほんの少し寝てしまったら、周りが大騒ぎになっていた。
部屋から出ようとしても、使用人達の会話が漏れ聞こえ、大騒ぎになっていることを痛感すると出にくくなってしまった。
どうやってごまかそう。
「疚しいことがあって、逃げ出したに決まっている」
カトレアの声が聞こえて、扉に耳をつけてみる。
「あんたなんかとは違って本物のお姫様だからね。
公爵様は婚約者と言われてたし、あんなにお綺麗なんだもの。
どんなに公爵様を狙っても、おあいにく様ね」
カトレア一人に、複数のメイドが反論しているらしい。
「いくら代々仕えているからって、身の程をわきまえた方がいいよ」
「ひがみにしか聞こえないわ。
侍女として行儀見習いに来ている貴族娘だって、爵位が低いから愛人狙いじゃない。
私の方がずっと奇麗だもの」
パタパタと足音が遠ざかり、カトレアと離れて行くようだ。
「バカね。愛されるのは私よ」
うわあぁぁ!
これって、ナイジェルの愛人ってこと!?
ちょっと、もしかして私の事好きなのかしら、って思ってたのが恥ずかしい。
でもナイジェルは、使用人は使用人だと言ってた。
ということは、すごい自信のメイドだ。自信を持つ何かがあるのかもしれない。
それにあのネックレス。
これ以上探させるのも申し訳ないし、正直に話そう。
ごまかすのは無理だと、シャルロットは覚悟を決める。
部屋から出ると、扉の音で振り向いたメイドと目が合った。
「お嬢様!」
その声で一斉に集まって来る。
「シャルロット」
階段を駆け上がってきたのはナイジェルである。
「本を返そうと思って迷子になってしまったの。
皆さんに心配をかけてしまって、ごめんなさい」
謝るシャルロットの頬にナイジェルがそっと手を触れる。
「冷たい、ずいぶん身体が冷えてるじゃないか」
言いながら、シャルロットを抱き上げて部屋に運ぼうとする。
「大丈夫よ。
部屋で横になってただけだから」
居眠りしてたのも言い方次第で、病弱設定になる。
「すぐに温かいスープをお持ちします」
ミラベルが居室の扉を開けて、シャルロットを抱き上げたナイジェルを通す。
「ミラベル、ありがとう」
はい、と頷いてミラベルは厨房に向かった。
ベッドに降ろされると、シャルロットはクッションを背もたれにして座る。ベッドサイドには椅子を引寄せてナイジェルが座った。
「無事でよかった」
シャルロットには知らせていないが、昨日のネズミの件をナイジェルも気になっていた。
「机の裏にあるのを見つけたの」
シャルロットが封筒を出すと、ナイジェルが手に取る。
「このために?
こんなに身体が冷たくなるほどに、探したのか?」
「本を返しに行ったのも迷ったのも本当のことなの。
気が付いたら大騒ぎになっていたの、ごめんなさい。
お仕事を抜けて戻ってこられたのでしょう?」
これは、さすがに悪かったとシャルロットも反省する。
ただ、シャルロットの容姿は儚げである。病弱なのに頑張ったと誘導するのは簡単だ。
「俺の方こそ悪かった。無理をさせた」
ナイジェルはミラベルからスープを受け取ると、サイドテーブルに置く。
「飲めるか?」
ナイジェルに頷いて、シャルロットはスプーンを持つ。
温かいスープが身体に染みる。
「美味しい」
ホッとシャルロットが微笑むと、ナイジェルがシャルロットの髪を撫でる。
「しばらくはベッドから出ない方がいい」
ナイジェルの言葉に内心小躍りしても、見かけは小さく頷いて、シャルロットはスプーンをテーブルに置いた。
「少し眠りたい」
そう言ってベッドにもぐりこんだ。
やったね、しばらくって1週間ぐらいかな、と思っているとすぐに眠りに落ちていった。