シャルロット行方不明になる
ナイジェルから指示がいっていたのか、次の日はベッドサイドにプディングが運ばれて来た。
シャルロットは、大事に読むと言った本にキャラメルソースを溢してしまい、こっそり図書室に返しに行こうとして迷子になっていた。
ミラベルや侍女達が部屋にいない隙に廊下に出たはいいけど、図書室の場所が分からない。
シャルロットの中で、図書室は北にあって日差しから本を守っているとなっている。
つまりミラベルに場所を確認さえせず、ごまかそうと慌てて部屋を出たのであった。
廊下に出ると使用人の気配は当然あるし、見つかりそうになって適当な部屋に入ったら、誰かの執務室で誰もいなかったのだ。
隠れる必要はないのだが、古くて高そうな本を汚したのを隠したいという疚しい気持ちが行動に出てしまった。
「ひえぇ、怖いよ」
人気のない部屋は寒々として、古い格式のある邸宅という何かがいそうな要素が揃っている。
壁に掛かる肖像画と目が合ったらどうしよう、という妄想で恐怖を増している。
早く帰って、暖かい天国のベッドで足を伸ばしたい。
だが、手に持つ本からはキャラメルソースの香り。侍女に返してもらったら、汚したのがバレてしまう。
「そういえば」
屋敷の中を探れといわれたような、気がする。
面倒だから、ここで探した振りすればいいかもしれない。そんな簡単に見つかるはずないし。
部屋にある机の引き出しや、本棚を探ってみる。
何が怪しいかもわからない。
机の下にもぐって引き出しの下側を覗いてみる。
「なんであるのよ。不幸過ぎる」
シャルロットの手には、引き出しの裏に張り付けられた封筒。何かが入っている。
何かを見つけても嬉しくない。ますますベッドが遠ざかる。
「どうしよう、見つけてしまった。
このせいで命を狙われるかも」
シャルロットの中でサスペンスが始まっている。
プルッと身体を震うと、寒気と眠気に襲われたシャルロットは机の下に転がった。
「シャルロット様がいらっしゃいません!」
夕飯を寝室に運んだミラベルが大騒ぎをすると、大捜査が始まった。
シャルロットのいる部屋も覗いた使用人がいたが、机の下のシャルロットには気が付かなかった。
侍従のキエトは昨夜ネズミの死骸を片付けただけに、犯人に拐われたのではないかとナイジェルに伝令を出した。
その頃の王宮では、バーナード王子がナイジェルの前に書類を出していた。
「なんとか留め置くことができた」
それはロートレック侯爵から提出された、シャルロット・フェルシモとの婚約書である。
シャルロットの父のフェルシモ伯爵のサインがある。
王のサインがないので、まだ成立されたわけではない。
既にフェルシモ伯爵にロートレック侯爵から資金が渡されているということである。
「危なかったな。
侯爵の方も焦っているのは間違いない。
夜会にシャルロット嬢が出席したのも話がいっているのだろう」
「公爵、至急ということでお屋敷から人が来てます」
事務官がナイジェルに告げる。
「かまわないよ、ここに通してくれ」
バーナードが許可を出すと、手紙を持った使用人が通された。
キエトからの手紙には、
『お嬢様が行方不明になられてます』
短い文だが、それだけに慌てて書いたとわかる。
「殿下、申し訳ありません。
屋敷に戻ります」
ナイジェルが走るようにバーナードの執務室を出ると、バーナードは事務官に兄の王太子の予定を確認するように指示する。
「昨夜の夜会から、退屈という言葉はなくなったな」
バーナードは面白そうに、領地に帰ったテオドアを思う。
「さて、テオドアはどうするかな?」
相手は狡猾な老侯爵。
お手並み拝見だ、と思いながらも王太子に先手を打っておこうと立ち上がる。