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シャルロットの災難  作者: violet
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引きこもり初日

食事の後ほどなくして、テオドアの訪問を告げられた。

そういえば、今日は仕事に行かないのだろうか、とシャルロットが確認すると午後から行くと言う。


「おはようございます。朝から申し訳ありません」

テオドアは書類を手にして、ナイジェルに礼をする。


「いや、午前を指定したのはこちらだ、かしこまらないでくれ」

ナイジェルがソファに座ると、テオドアが向かいのソファに座る。

シャルロットがテオドアの側に座ろうとすると、テオドアに追いやられ、ナイジェルに手を引かれるように座る。

「末永く」

テオドアが書類をテーブルの上に置くと、ナイジェルは手に取り読み始めた。


「ほお、よくこれだけ一晩で用意したな」

「いえ、王都に来るまでに準備してました」

誰かにはシャルロットが売れると考えて準備していたということだ。


「僕は姉の幸せを願ってます。だから、公爵を選びました」

ナイジェルが書類にサインをするのを、確認しながらテオドアが言う。

「期待を損なわないようにするよ」

シャルロットはナイジェルの言葉よりも、ナイジェルの手元にある鞄が気になって仕方ない。

あれは、支度金よね。

いくら用意したのだろう?

工事代金にしては、鞄が小さくない?

足りるのかな?


「持ってみるか?」

ナイジェルが笑いながらシャルロットに声をかける。シャルロットの視線が気になったのだろう。


ドスッ!


小さな鞄なのに重すぎる。

シャルロットは持ち上げれない鞄と、ナイジェル、テオドアを繰り返し見るとナイジェルが鞄を手元に寄せた。


ナイジェルが手に持つ鍵を差し込み、鞄を開けた。

「昨日の今日で、現金を用意する時間がなくてね。

これなら問題ないだろう」

そこには、金塊がぎっしりと入っていた。


現金で工事代金を用意するより多額になっているかもしれない、とシャルロットは目を輝かす。

「融資の方は、後日現金で用意する」

サインの終わった書類をテオドアに渡して、ナイジェルが確認してくる。

「援助するのも融資するのも現伯爵ではない、君に期待している。

シャルロットとの結婚式は2か月後を考えている」


はい、お買い上げありがとうございます。

融資も早めでお願いします。

シャルロットは頭の中で、手をすり合わせヘコヘコ頭を下げる。




テオドアは父にシャルロットの婚約のサインを書かせるために領地に戻り、ナイジェルは仕事に行くと立ち上がった。

「戻ったら、話がある。後で部屋に行く」

シャルロットは二人を玄関まで送り部屋に戻ったが、ナイジェルの出がけの言葉が頭の中で繰り返す。

食事の時に言っていた事だろう。


「とうとう!」

仕事から帰ってくると夜だ。

婚約も父のサインがまだとはいえ、テオドアは何としても書かせるだろう。つまりは、もう婚約者。

本にはあんな事やこんな事が書いてあったと、興味が先に立つ。

事をいたしてしまえば、話が違う違約金とか言われないだろう。

男性が恋人という秘密を掴んだつもりが、違うのでは脅迫が出来ない。ならば初めてを捧げたという責任を取ってもらおう。

金塊を元手に弟を働かせて、領地の片隅で悠々自適な生活をするのだ。

ベッドでゴロゴロ転がれば、このベッドで、とポッと可愛い子ぶって見たが楽しくなかったのでやめた。



侍女のミラベルが、ベッドで転がっているシャルロットにお茶を運んできた。

「ありがとう、サイドテーブルに置いておいて」

はい、と返事してミラベルが寝室から出て行こうとするのを、シャルロットは声をかけた。

「公爵家には図書室はあるの?」


「はい、ご案内いたします」

「いえ、棚の右端の上の段から5冊ずつ持って来てくれたらいいわ」

シャルロットは、サイドテーブルからカップを取り口元に持って行く。


その様子をミラベルは驚いて見ていた。

図書室の本を全部読む気でいるのだろうか。

本の数もジャンルも圧倒的な規模を誇る公爵家の図書室、それを端からなんて、本の内容を理解できるのだろうか。

「わかりました、すぐにお持ちします」


シャルロットの場合、理解できない本でも挿絵やわかる部分だけ読んでいる。

それが妄想の中で、役に立つ時もある。

騎士様とお姫様の駆け落ちを妄想した時に、地図や家系図、他国の文化が役に立っていた。

無駄な知識も、妄想の中でリアリティを持たせるアイテムになるのだ。


ミラベルが本を持って戻ってくると、古い本らしくカビた匂いがし、ミラベルがベッドの上に置くのを躊躇した。

「大事に読むから、ベッドに置いてちょうだい。

後で夕飯を部屋に運んでくれたら、下がっていいわよ。

急に私の世話を任されて疲れているでしょう?

今日はゆっくり休んでね」


「お嬢様」

ミラベルは優しいお嬢様と感動している。

「シャルロットと呼んでね、お茶美味しかったわ」

ニッコリ微笑むシャルロットは、自己採点100点と満足している。

これで当分、自由だ。

毎日食事を運んでもらい、本を持って来てもらえば部屋から出ないですむ。




コンコン。

ミラベルがいなくなってしばらくすると、部屋をノックする音がした。

もちろん、シャルロットは居留守だ。

許可がないのに扉を開けて入って来たのは、カトレアである。

狸寝入りのシャルロットは、誰か入ってきたな、何かしているな、と思ったが寝室から出ようとは思っていない。

引きこもりになるのは、センシティブでこもってしまうタイプと、図太くて引きこもるタイプがある。

シャルロットは明らかに後者であるが、儚げな美貌で得をしている。

何も話さなければバレない。



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