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シャルロットの災難  作者: violet
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シャルロット・フェルシモ

弟のお世話になって領地で怠惰な生活を夢見るシャルロット。その為にはちょっと働こう。干ばつで受けた被害を結婚の援助で賄おうともくろむが、シャルロットは相次ぐ事件に巻き込まれ、望まぬハッピーエンドに向かうのです。

2年続いた干ばつで、名門と言えどフェルシモ伯爵家は苦難を強いられていた。

領民を救うために貯蔵の麦もすぐに底がつき、国の支援も役には立たなかった。

貯えも数年前に起こった近隣の災害の時に貸したままだ。

「調査員を派遣するでもない、国は被害の程度を簡単に見ている。

王宮では毎夜のように舞踏会が開かれているというのに」

シャルロットは帳簿を見ながら、溜息をついた。

父の伯爵は真面目で融通が利かないというか、優しすぎるのだ。

良き領主ではあるが、金策にはむかない。


「うーん、とりあえず納税は猶予されたけど、無くなった訳じゃないんだよね。

来年の作付の種まで食料にしちゃったからなぁ、種を買わないと」

家にある骨董品も、由緒ある品々もすでに売った。

シャルロットがどれほど知恵を絞ってもお金は出て来ない。


借金をするにも担保がない。

あるにはあるが、まさか領地や館を担保にするわけにはいかない。

これは、弟テオドアの為に残さねばならない。

我が家にしては、優秀すぎると思うぐらい利発なのだ。


ふー、と溜息をついていると弟が執務室に入って来た。

「父上は?」

「領地の見回りに行ったわ」

そうですか、とまるで大人のような口ぶりで机の上の書類を見るテオドア。


「姉上、もうすぐ18になられますね。

昨年の干ばつ被害の対応で領地から出れず、16歳のデビュタントの後、婚活が出来ませんでした、申し訳ない」

まるで、年上のように話す弟のテオドア、16歳。

シャルロットに返事をさせることなく言葉を続ける。

「今年は、僕がエスコートできる年齢になりましたので、夜会に行きましょう」

シャルロットのデビュタントで、王家、公爵家をはじめ多数の家から婚約の打診があったのを、テオドアは知っている。

デビュタントの夜には、ダンスの相手を求めて数多の貴公子がシャルロットのカードに名を連ねたらしい。

確かに、デビュタントの夜のシャルロットは早咲きの春の花で飾られた白いドレス姿、清楚で初々しく春の妖精のように美しかった記憶がある。

だが、デビュタントの翌日から、労働(社交)で疲れたと部屋に2日間引きこもり、着替えるのも面倒と一歩も出なかったシャルロットを、高位貴族や王家に嫁がすのは無理と全て断ったのだ。


「この非常時に夜会なんて無理よ、王宮の夜会なんていくらかかると思っているの!?」

ドレスも仕立てていない、宝石だって売ってしまった、王都までの旅費だってかかる。

王都にあるタウンハウスも売ろうとしているのだ。 

社交は嫌いだ、面倒でしかない。

優先事項は夜会ではなく、領地で使う来年の種である。



「必要経費です。

それ以上の収穫を得るためには投資が必要です」

バサバサと書類を読み始めて、シャルロットの計算ミスを修正しだした。

「来年の種だけでなく、干ばつ対策に用水路を確保したい」

テオドアが修正した書類をシャルロットに戻しながら言う。

「その工事代がないのはわかっているでしょ」


「姉上にノルマを与えます。

夜会で、お金のある好みの男を引っ掛けてください」


「えええ!!」

顔を赤くしたらいいのか、青くしたらいいのか、わからないぐらいにシャルロットは動揺を隠せない。


「いいですか?

姉上の結婚相手となる年齢で、婚約者もいない独身は、よほど吟味しているか、よほど問題があるかです」

ゴックンとツバを飲み込んで、シャルロットはテオドアを見る。

「我が家の状態で父上が考えるのは、娘を担保に金を引き出すことです。

そこに姉上の好みは反映されません。

それどころか、相手に(だま)されて僅かな資金提供で、問題しかない男に姉上が売られていく可能性が高いです」

ありえる、とシャルロットは頷く。干ばつの被害を大きくしたのは、父親の後手にまわる対応だったのだ。


「姉上は、若く美しい令嬢なのです。

十分に金のある男を騙せます」

「やめて、騙すなんて無理」

「人のいい父上を見てください。

周りが大変な時に父上はかなりの援助をしました。その人達が今回助けてくれてますか?

大体、契約書もなく貸したのが悪いといわんばかりに返す気などないのでしょう」

テオドアはシャルロットには黙っているが、伯爵のところに、その問題しかないひひ爺から縁談がきているのを知っている。

あの父親が上手く断れるとは思えない強引な相手だ。


「僕の代になれば、農地改革のあてがありますが、それまで待てないのです」

テオドアはシャルロットを見つめる。

この姉は、社交界の華と言われた亡き母の血を濃く受け継いでいる。

手入れさえすれば、誰にも引けを取らないだろう。

今は領地に引きこもり、髪さえ梳いているかも怪しい。

仕事優先で衣類に気を使っている様子もない。豪華なドレスは売ってしまったが、令嬢らしい装いは十分出来るはずなのだ。

「いいですか?

姉上、ある程度妥協すれば、最悪のひひ爺から逃れられます。

何もかも揃っている男なんていません、妥協です」

「・・・はい」

そんな簡単に騙される男なんていない。でも背に腹は代えられないが、一度も男性と付き合ったこともないのに、(たら)し込むなんて高級テクニック無理だろう。


「頑張ってください、姉上。

そうすれば、姉上の大好きなダラダラした生活が手に入るかもしれません」 


ちくしょう、我が弟ながら言い返せない。

干ばつで生活が厳しくなる前のシャルロットは、怠惰で日がな一日寝て過ごしていたのだ。

ベッド周りに本や菓子を持ち込み、どんなにお天気がよくても散歩にすら行かない。

今だって、イヤイヤ領地経営を手伝っている。食べる物もドレスも贅沢したいと思わないのは、ルーズだからだ。

伯爵令嬢としての教育は受けているが、自分でたてた病弱の噂のおかげで、昼の茶会も最低限の社交しかしてこなかった。とてもいい、と喜んでいたのに干ばつで伯爵家が苦境に陥るとは思いもしなかった。





二日後、王都に向けて二人は旅立った。

母親のドレスをリメイクして、シャルロットは夜会に出る予定だ。

馬車の中で、シャルロットは幸せそうに眠り、テオドアは時々シャルロットを見てため息をつきながら本を読んでいた。


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