村長はアフィカス?
「ルナ知っているんだから。それってアフィカスでしょ。本を買わせて金儲けしようとしているでしょ。その手のステマには乗らないんだから。よく考えたら、そんなに簡単に英単語が覚えられるわけないじゃん」
アフェリエイトとは”成功報酬型広告”。特定のリンクを通してネットショップで読者が買い物をするとリンクを張った人に売り上げの一部が報酬として払われる真っ当な仕組み。読者に影響はない。
ただ使ったことも無い商品とか提供を受けただけの商品を「お勧めです」とか言ってアフェリエイト設定してリンクを張ると(ステルスマーケティング、ステマ)読者や視聴者からアフィカスと言われ嫌われることがある。三流芸能人にありがちなパターンだ。気をつけよう。
「アフィカスとかステマとか、全くどこで覚えたんだそんな言葉。もっとまともな英単語覚えろよ。そこだけで2語増えるよ。それからここのリンクはアフェリエイトと違うから。(※)のサイト行ってもぼくには一円もお金は入ってこないから! というか、むしろアフェリエイト設定したいわ!」
村長の言うとおり、ここのリンクは引用のため記載してあるだけなのだ。
「じゃあ販売元からお金を・・・」
「もらっていませんから、タイアップもしてないから!」
ルナは驚いた顔をした。
「まさか本当にルナのことを思って紹介してくれたのですか・・・もしかしてルナのこと好きなの? ごめんなさい、ルナの心は隣のクラスの駄目納紐男君のものなの。だから諦めて」
中学生女子は何でも恋愛に結びつけがちな歳ごろである。
「名前からして、そいつ関わっちゃいけない男! すでにルナにダメ男好きの片鱗が! いや、そうじゃなくてルナが英語をなんとかしてと言ったから効率良い方法、お勧めの単語帳を教えてあげているんだよ!」
「そうだっけ?」
自分が頼んでおいて頼んだことを忘れる。ここにダメ男好きのダメ人間がいる。明るい未来を手に入れる前に、人間性を変える必要がありそうだ。
「とにかく、これらの単語帳はさらに色々と工夫されているんだ。例えば単語を音声で聞いて、意味を思い浮かべながら発音して、綴りを書く。これを繰り返す。こうすることで耳と目と口と手を動かすことになるので、目で見るだけよりかなり記憶しやすくなると言われている」
「確かに! 眠気には勝てそう!」
敵は眠気、食い気、マンガ、ゲーム、Youtube、SNSなど多岐にわたる。先は長い。
「単語を覚えるには繰り返し覚える作業が必要になる。でも中には知っている単語とか一回で覚えられる単語もあるはずだ」
「短い単語なら覚えられるよ! それからカタカタで日本語になっている単語とかも」
日常生活に紛れている英語、カタカナ英語を再確認するのは効率が良い。ただ本来と意味が違っていたり、発音、特にアクセント位置が違うことが多いので注意しよう。
「そうだね。だから十個の単語を五回繰り返して覚えるとしたら、一回目は十個覚えようとする。そこですでに三個覚えていたなら次に覚えるべき単語は七個に減る。だから二回目はその七個を覚える。単語数が減ったからこれまで以上に覚えやすくなり、覚えた単語を再度覚えるという時間の無駄も無くなる。こうやって三回目、四回目と繰り返すと覚えるべき単語が減っていき五回目くらいには全部覚えられる。しかも短時間で」
「そっかー! そんなテクニックが詰まっていたんですね。じゃあ信用してあげましょうか」
なぜか上から目線であった。
「そういえば!」
何かを思い出したかのように部屋の中をガサゴソと漁るルナ。
「あったー! なんかそれっぽいの母さんが買ってくれてた気がしたんだよねー CDも開封されてないのが付いてる」
ルナの部屋の片隅の深い地層でキクタンが発見された。パッケージは埃だらけだけど未開封。
「あるじゃねーか! 初めから使えよ!」
二年以上前に購入された本だが、開封してページをめくろうとすると指が切れそうになるくらい新品同様。日に当たらないよう大切にしまわれていたのだろう。まさか捨てられずに日の目を見る時が来るとは。ありがとう母さん。
「英単語はキクタンを使って楽々覚えるからいいや。CDの音声もスマホに入れるし。村長にもう用は無いです。じゃーねー」
「まだ話が・・・」
「ポチっとな」
アプリ強制終了。ルナは用済となった人を簡単に切り捨てるタイプである。
ティアラの怒りに触れたくない一心で、ルナは一週間限定だが四倍ペースの一日64語を覚えることに決めた。
「一週間だけ頑張る! きっとできるはず!」
この一週間の家庭学習は全て英単語に費やす、さらに食事の前、食事のあと、風呂の中、寝る前、早朝などスキマ時間も徹底的に利用して単語を覚える時間を確保した。100%英単語生活である。
「意外といけるかも!」
勉強嫌いのルナが無理なペースで始めた一日64語だが、実際やってみると思った以上に続けることができた。リズムに合わせて発音するのが楽しく、チェックシートで自分の成長も実感できるのが良かったようだ。
でもそれは最初だけ。
「英単語が走馬灯のよう。キレイ。ルナこのまま死ぬのかな。駄目納君、私が居ないと生きていけないのに。先に逝くルナを許して。ゴメン」
急に勉強をはじめたので脳が拒否反応を起こしているようだ。
ちなみにダメ男は弱い自分を演じることで母性本能を刺激しながら図々しい要求を通すスキルを持っている。そうやって何人ものダメ男好きな女に寄生しながら自由に楽しく生きることができるという特徴を持つ。そうやって苦労せずダメ男は長生きするのだ(主観です)。
一方、女性は寄生されていることに気付かない。むしろやりがいを感じてさえいるだろう。あやしい宗教に近いものがある。
結局、ルナはくじけそうになりながらも異常な集中力を発揮し、一週間の間、英単語生活を続けた。
「ツラかったけど乗り切った!」
二回目の英単語まとめテストが行われた。そしてテストは無事終了した。
「悔いはない。英単語はもう一生見ない」
何のための英単語だ。
数日後に発表された順位では、奇跡的にルナとティアラ達が所属する班が一位となった。ルナの個人の得点は先週21点、今週75点(各百点満点)。ルナの合計点はクラスの平均点以下だ。しかしティアラを含めた他の班員がほぼ満点だったおかげでギリギリ一位となった。薄氷の勝利のおかげでティアラが大暴れする事件は起きなかった。これで一歩、死から遠ざかったのだ。
一週間で覚えた448語は頻出単語であり、テスト問題のかなりの部分をカバーした。しかし、せっかく覚えたこれらの単語だが、何もしなければすぐに忘れ去られるだろう。脳への定着には時間をおいての繰り返しが重要。忘れそうになるころに記憶する、というのを繰り返す必要がある。
順位発表のあった夜。
「村長、テストはなんとか乗り切れた。それはいいけど、必死に覚えた英単語なのにテストが終わったら大半を忘れているんですけど。ルナって本当はバカなのでしょうか。母さんからはやればできる子、やる気スイッチとやる気回路とやる気電源とやる気メモリーがほんのちょっと大破しているだけっていわれているのに」
相当な大破である。パソコンなら廃棄確定だ。
「日頃の行動は確かにバカだけど記憶力は悪くない。人間は忘れる、それが普通なのです。エビングハウスの忘却曲線というのがあってですね、復習せず一週間経てば77%は忘れ去られるのです」
覚えた翌日、一週間後、一か月後という感じで、少しづつ間隔をあけて繰り返し覚えると記憶したものが脳に定着しやすいという理論だ。実際のところ、この理論を利用すれば一カ月で500語覚えることも無茶ではない。詳しくはエビングハウスの忘却曲線を参照(※)。
その理論を村長から聞いたルナは、再テスト後も一日に16語づつ覚えながら、翌日、一週間後、一か月後の復習もするよう計画を立てた。
「ほっほっほ、計算によると一日たった16語覚えるだけで二カ月で960語、三か月で1440語確実に覚えられますわ。これで英単語は完璧! 私の時代が来たわ! なぜこの程度の簡単なことに気づかなかったのかしら。重要な事なので再度言いますがたった一日16語ですわ。先週の一日64語に比べれば楽勝! まあ、私の手にかかれば、こんなものよ。おほほほほ」
皮算用でハイテンションになり鏡の前で一人お嬢様ごっこをするルナ。自信が付くのは良い事だ。
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※例えば、
トシ スマート英語TOEIC935点・通訳案内士の英語学習法
忘却曲線で分かる!効率的な記憶の仕組みと暗記のコツ
https://smarteigo.jp/articles/2434