表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

プロローグ

「ルナ、僕は真実の愛を見つけたんだ。悪いが別れてくれ」


 そのセリフを口にしたのは卒業パーティーで婚約破棄を宣言する王子ではない。二年間付き合ってきたルナの彼、兼尾久礼カネオ クレイ。横で小動物のような仕草で震えているのが会社の同僚の安里井雲母アザトイ キララ


「ちょっと、どういうこと! どうしてキララちゃんがここにいるの?」


 キララはルナと彼氏が働いている株式会社漆黒のアイドル的存在。上司や男の前でだけ媚を売る女として女子社員からは嫌われている。おまけに他人の”モノ”を欲しがる女として有名だ。


「ごめんなさぃ! 私ぃ、知らなかったのぉ! まさかルナちゃんの彼氏だったなんてぇ」


(一瞬の勝ち誇った顔。わざとだよね。私の彼って知っていたよね。ムカつく)


 同じ会社に勤めているのに、お互い仕事で忙しくて最近は会えなかった二人。久しぶりに家に遊びに行ったら玄関に派手なハイヒールがあり、そこから冒頭の真実の愛宣言となった。忙しいというのもウソで、キララと付き合っていたから時間が取れなかったのが真相。かなり前から二股状態だったことが予想される。


「急に別れるなんて。一応、理由を聞きたいわね」


 ルナの問いに、彼は外国人が良くやる”Why?”的なリアクションで手を広げて驚いてみせた。


「言わなくても分かっているだろう! なら少しだけ言わせてもらえばルナは金遣いが荒いし、部屋の片づけができないゴミ部屋の住人だし、勉強嫌いだから頭が悪いし、計画性は全く無いし、自己中でわがままだし」


「ぐはぁ!」


 効果はばつぐん! ルナはひん死のダメージを受けた。


「しかも少しと言いながら悪いところ探しさらっと五か所!」


「会社の人もルナの事をいじわるで性悪女だと思っているよ」


「まじでぇ!」


 ルナは食い気味に驚いた。まさか自分が罠にはまるなんてという点で。そう、これがキララのいつもの手口だ。ターゲットとなる相手の悪口をそれとなく、しかも無邪気に周りの人達に吹き込むのだ。ため息を吐いて頭を抱えるルナ。


「”月々”と書いて”ダブルーナ”なんておかしいと思ったんだ。キラキラネームにもほどがあるしローンの支払いみたいだし」


「悪いところ探し六か所目! でもキララちゃんだってキラキラだよ!」


「キララは天使だからいいんだ!」


「解せぬ・・・」


 鈴木月々と書いてスズキダブルーナ。平凡な名字だからと言って非凡な名前を付けた両親。おかげでキラキラネーム対決で天使認定された安里井雲母アザトイ キララに対抗できるがあまり誇れない。恥ずかしすぎて会社では通称”ルナ”で通しているくらいだ。


(そもそも名前なんて二年前から知っていたでしょ。だけど私のあら捜しをしている時点で元の鞘に収まるのはもう無理ね。ていうか、真偽をろくに確かめもしないのか。この男こんなにバカだったっけ?)


「じゃあ、別れてあげるから私が貸したお金返してよ」


 絶対に儲かる株がある。為替で大損したのを株で取り返せるからと頼まれ、仕方なく車を買おうと貯めていた百万円を貸した。彼は大喜びしてルナを抱きしめた。数少ない素敵な思い出だ。


「ああ、あれね。株を買った数日後、その会社が倒産したから返せなくなった。俺も騙された被害者なんだ。諦めてくれ」


 二年間かけて貯めたお金が一瞬で消えた。唯一の計画的な行動も無駄になったのだ。目が点になるルナ。


「さよなら! お似合いのバカップルね!」


 捨て台詞を吐いてドアを勢いよく閉めた。彼との別れよりも、キララの罠に気付けなかった自分が悔しくて自然と涙が出てきたのだった。


(どこで間違えたのか。思い返せば間違いだらけだったような気もするけど)


 そんなことを考えながら、とぼとぼと自分の家に歩いて帰る途中で、信号無視したトラックとぶつかって死亡。


 享年二十二歳。


(おしまい)






「だはぁっ! 夢、夢!? 怪我は無いし体も痛くない! ここ天国じゃない! 異世界にも転移してない!」


 周りに目をやると脱いだ服が散乱している。見慣れたルナの部屋。どうやらスマホゲームをしている途中で寝てしまったようだ。


「酷い話だわ。二股男にフラれてその帰り道で死亡なんて。ほんと夢でよかったわ。誰よこんな酷い夢を見させたのは!」


 深夜、自宅の部屋で誰に言うともなく怒るルナ。


「ルナうるさい! もう寝なさい」


「はーい・・・」


 お母さんに怒られた。


 中学三年生で高校受験真っただ中、成績は公立中学で下の方。最近はクラブを引退した三年生が受験勉強を本格的に始めたためルナの成績は相対的に下がる一方だ。クラブ経験者の根性と集中力は馬鹿にならないのだ。


 そんな追い込まれた状況に居るルナだが、入試の半年前だけでも必死に頑張ればいいものを、彼女は未だにゲーム三昧のご機嫌な日々を送っていた。


「これ”あつもり”じゃないし! よく見ると偽物だし! 製作:株式会社ニンニンドーってどこの忍者よ!」


 彼女は『あつまれどうぶつの森』(※)のスマホ版をネットで買ってダウンロードしたつもりだった。しかし、実際にダウンロードしたゲームは『あつかましい洞窟のモーリシャス』、略して”あつもーり”だった。


「おかしいと思ったのよ。”あつもり”のスマホ版なんて発売されてないはずなのに。それに村長は変なハムスターだし、友達はネズミばかりだし。これ単なるネズミを飼うゲームじゃん」


「ハムスターと違うし!」


「え!?」


 スマホの中にいるハムスター村長が怒っていた。


-----

※『あつまれどうぶつの森』はNintendoのゲーム。

https://www.nintendo.co.jp/switch/acbaa/index.html

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ