蓄積
ある冬の夜のこと。
僕と彼女は、塾が終わった後一緒に帰っていた。
僕は自転車通学だったが、彼女は電車通学だったので、並んで自転車を押しながら歩いていた。
七時前くらいだが、辺りはもう真っ暗だ。
同じ所に通っていた訳ではない。
場所が近く、終了時刻も大体同じだったため
いつの間にか一緒に帰るようになったのだ。
………帰り道の途中の公園で、毎回キスをしていたことは内緒にしておこう。
歩いていた場所は、人が二人と自転車が一台並んでいてもまだ余裕のある広めの歩道だ。
それでも、後ろから人や自転車が来ると障害になるだろうからと気を配っていた。
ある時、後ろから自転車のライトが近づいてくるのが見えた。
まだ少し距離はある。
車道側を歩いていた僕は、彼女の歩く歩道側へと移ろうとした。
その時、
僕は着ていたコートの袖を強く引かれた。
「後ろから自転車来てる」
「危ないでしょ?」
「早くこっちに寄せて」
分かってる、今しようとしてた。
なんて子供みたいな事は言いたくなかったから、
「分かった、ありがとう」
としか言えなかった。
実際、僕のことを心配してくれていたんだと思う。
だが、それを素直に受け入れる事が出来るほど、僕は成熟していなかった。
別の日にも同じようなことが何度かあった。
不満は感じたが、口に出して言う程の事ではない。
僕はそれらを心の中に仕舞い込む。
何か黒いものが溜まっていくような気がした。
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