後味悪い病院
とある病院のお話です。
目が覚めると知ってる病院の天井だった。
私は交通事故にあって、随分前から入院している。今ではこうして目を開けられる程度にまで回復したけど、事故当時はみんな死んだと思ったらしい。
家族も、友人も、事故の相手も。
目が覚めたのは、夜遅くだった。
ぐっすり眠ってたけど、何となく知り合いが病院に来てくれたような気がしたのだ。あの人だったら嬉しいな。
604号室を出て、廊下を独り移動する。夜の病院は真っ暗で全く人の気配がしないから正直好きではない。
きっと、さっき病院に訪れてきたのは一階にいるだろうから私はそっちに向かう。人数は大体四人ぐらいだ。これだけいれば私の知り合いも一人はいるだろう。
二つ階を下に降りると話し声が聞こえてきた。
「おい―――こんな夜中に―――」
「気にすんなって―――ばれなければいいんだって」
「もし―――怒られたらどうするの?」
「そんときゃ―――逃げればいいさ」
男の子が三人で、女の子が一人。
私の心はとっても喜んでいた。だって、男の子の声の内、一人はあの人の声だったから。
私は三階に降りる階段で四人を待つことにした。
しばらくすると、四人が私の目の前にまで来ていた。
「おい。誰かいるぞ」
男の子が一人喋った。あの人の声だ。私はとっても嬉しく思った。思わずにやけてしまったほどだ。
「―――かもよ。声かけてみようぜ」
私に聞こえないように小声になったからよく聞こえない。今のは違う人っぽかったけど、もしかしたらあの人かもしれない。
「やめときなって、それより―――よ」
女の子の声だ。この子には正直あんまり興味がない。でも、もしかしたら声の高い男の子で、実はあの人なのかもしれない。
「俺もそれに賛成」
三人目の男の子が言った。これもあの人の声に聞こえる。
四人の声を聞いたけれど、暗くてどのこえが誰の声なのかわからない。もっと近づけばわかるかもしれない。でも、真っ暗だからやっぱりわからないかもしれない。
「大丈夫だって。どうせ―――とかに決まってる」
そう言って四人の中の一人が私に懐中電灯を向けた。そんなもの何で持ってるんだろう。眩しいからやめて欲しいな。
「きゃああああああああああああ!!!」
高い声をした男の子かもしれない女の子が叫んだ。それを合図に四人が一斉に駆け出した。
「待って!」
行かないで。あの人かもしれない人達。
待って、待って待って、待って待って待って待って。
逃がさない。
「おい! 誰がドア閉めたんだよ!」
懐中電灯を持ったあの人かもしれない男の子が入り口のドアを叩いた。よかったさっき閉めておいて。
「俺じゃねえよ!」
「あんたでしょ! あんたしかいないじゃない!」
「な、何で俺なんだよ!」
「いたずらもほどほどにしなさいよ!」
さて、誰があの人かなあ。
「おい! 後ろ!」
「え」
「うわあああああああああああ!!!!」
あの人だったら嬉しいなあ。
絶対に殺してやる。
◆ ◆ ◆
結局、あの人はいなかった。
とても残念だ。いつになったらあの人は会いに来てくれるのだろう。もうずっと待ってる気がする。
真夜中に起こされて損した気分だ。
病院の外に車が一台停まっているからそれは車庫に直しておこう。入り口のドアも開けておこう。もうどこかに行こうとする人はいなくなったし。
久しぶりに動いてまた眠くなってきた。もう少しだけ寝て居よう。
◆ ◆ ◆
また目が覚めた。
こんなに短期間でこんなことは初めてだ。何かの前触れ見たいでちょっと不気味だけど、あの人かもしれないから私はベッドから起き上がった。
今度は二人みたいだ。
二人とも男。一人はなんだかおかしな格好をしている。袴のような服を着ていて、まるでお坊さんみたいだ。
あの人はもしかしたらお坊さんだったかもしれない。
その可能性も無きにしもあらずなので悲観することない。むしろ喜ばしいことだ。
私は今回も604号室から出た。
ゆっくりと廊下を進んで、階段をゆっくりと降りる。
今度こそあの人だったらいいのに。絶対に殺して食ってぐちゃぐちゃにしてミンチみたいにして燃やして裂いて粉々にして泥に混ぜ込んで魂も飲み込んで永遠に一つになって一生これからいつまでも一緒に暮らせるのになあああああああああああ。
「誰だ!?」
二人の後ろに立ってあの人かどうか確かめていると突然一人が後ろを振り向いた。お坊さんっぽいほうの男だ。
「で、出た………!」
お坊さんじゃないほうの男が小さな悲鳴をあげた。
可哀そうだけど、あの人かもしれないので近づいて顔を確認する。
お坊さんが私の邪魔をした。
妙な棒を持って行く手を遮った。かと思ったら今度は何やらぶつぶつと呟き始めた。何言ってるかわからないしすごーくどうでもいい。
あの人はぶつぶつとぼやいたりしないからお坊さんはあの人じゃないや。
「あっち行ってて」
腕を振るうとお坊さんはボールみたいに吹っ飛んでいった。
「うあああわああああああ!!!」
「あ、待ってよ。行かないで」
あの人かもしれない人がまた逃げようとする。あの日みたいに逃げようとする。そんなのって許せない。
「嫌だいやだいやだ! 死にたくない死にたくない。何であいつらこんなとこに来ていなくなったんだよおおお!!!」
ぶおん。と目の前を何かが通り過ぎた。
そう思った時には私は消えてしまった。意識はあるけど実体がなくなったのだ。
三人目。お坊さんと男を追いかけていたから気が付かなかった。誰かがまた私の邪魔をしやがった。こいつも許さない。
「あ、あんた。後ろ!」
さっきの男が喚く。
私を何かで殴った男が振り向いたけど、次の行動は許さない。首元を締めあげ、男の足を苦に浮かせれば身動き取れない。私を攻撃した罰だ。いつかあの人にこうしてやると念じながら握力をガンガン加えていく。
「くそっ。さっさと、しやがれ。マサ……」
後少し、首を捻じれそうだ。
最後の人絞り、と言う時だった。体が熱い。燃えるように熱い。ようにではなく、まさに私の体は燃えていた。ああ、わかった。何となくだけど、私はこれで終わりなのだ。
最後に願った願い、あの人に私と同じ苦しみを味わわせてやりたかった。
でも、もう一度だけ。一度だけでいいから。愛している、って言いたかったなあ―――。
◆ ◆ ◆
黒い夜空を眺めていた。
お坊さんと男は先に帰らせた。
「悪趣味な仕事だったな」
マサがぼやく。
「何言ってんだ。いつもの事だろ」
「今回は特に、だよ」
まあ。マサの言うことも一理ある。
今回の事件は今までの物よりも後味が悪い。
幽霊に男女四人が殺された。SNSを監視していたらそんな投稿を発見した。警察は事件だと確認しなければ動かない。これは俺達の領分だと察知してきてみれば、まさか先客がいるなんてな。
昼間あれだけ行くなと言ったのにも関わらず。馬鹿な連中だ。
あの幽霊は、交通事故で死んでいた。深い中だったこの街の前の前の市長と痴話げんかの末、市長が弾みで女を車道に押し倒した。そこに自動車が通り、病院送り。
搬送先のこの病院で女は一命をとりとめかけたが、市長が圧力をかけ女を見殺しにするように命令した。
女は市長を憎み、この廃病院に取り憑いた、というわけだ。
閉鎖後は市の方で立ち入り禁止をかけていたが、肝試しだか何だかで若者が今まで何人か行方不明になっていたらしい。
女は今でも市長を待っているってな。可哀そうな話だ。
「ま、とっとと帰ろうぜ。病院は嫌だ。お化けが出るからな」
「おいカズ。冗談ならもっと面白こと言えよ」
「はいはい」
俺達は自動車に乗って廃病院を後にした。




