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異世界転生のみならず転性しちゃいました  作者: kilight
一章 まずは地道に探ろう
7/49

5話 復活持ちは完全に倒しきるまで経験値は得られない

「リスキルってなんぞ?」


 太郎の言葉に妙子は尋ねる。


「リスポーンキルの事だよ。ほら、FPS……つってもわかんねーか。要は対戦ゲームとかで復活した瞬間に殺す行為の事だよ」

「何それゲームしなさいよ。なんでゲームの楽しみを自ら殺すのか」

「いきなり正論言うなや」


 ともかく、と太郎が妙子の茶化しをあしらうと、改めて説明をする。


「復活するなら仕方ない。復活しなくなるまで無限キルしてくしかない」

 いくら復活しようとも、恐らくは何かしらのエネルギーによって動かされているのであろうアレらは、そのエネルギーの供給が止まれば自ずと復活しなくなる事だろう。

 第三者の介入によって動かされているのであれば、これ以上の供給が無意味であると知らしめればいいのだ。

「穴に埋めて圧殺とか?」

 妙子が最初に思い浮かんだのがこれである。

 動物が作った穴などにその骨を埋めればいという考えだ。とはいえ、動物が作った穴の深さは恐らくスケルトン三体を埋めるには浅い様にも思ったが。

「いや、スケルトンって多分地面から上がって湧いてくるんだろうし、埋めて圧殺するだけじゃ終わるイメージねえな」

 それはアニメの見過ぎでは……と妙子は思ったが、実際それだけでは足りないとは思っていた。

「じゃぁ、何よ?」

「火葬だ」

「火葬?どうやって」

 妙子は訝しむ。というのも、木を擦れば火が出るくらいなら知っているが、実践なんて出来る気がしないからだ。

「火とかどうやって作るのよ?マッチもライターもないんだけど」

「ばっかでー。木を見ろよ。いくらか杉の木があんだろ?」

 そう言って太郎は杉の木を指差した。

 だからどうだと言うのか。まさか本気でやれるとおもっているのだろうか。


 いやいや、まさか太郎がプロでもつけるのに最低でも10分はかかるものを自身らがやるとは思ってはーー

「こすって火をつければいーじゃねーか!」


 ーーいたわ。バカだったわ。


「あの太郎さん、ちょっとよろしくて?」

「ん?なんだよ?」

「アンタバカ?」

「はぁ?!なんでだよ!」

 太郎はぎゃーぎゃーと喚くが、妙子はそんな太郎を哀れんだ目で見る。

「アンタ、それをやった事あるの?」

「あるよ!」

「えっ!?あるの?!」

 哀れんだ目が途端に変わる。

 彼女は太郎がまるで夢物語を語る様に言っただけかと思っていたので意外だったのだ。

「そりゃ、すぐには付かねーけど、30分もありゃ多分出来るっての!」

 しかもわりと現実的な時間。

 素人がやるといつまでも出来ないし、少しこなれてるだけでは30分はかかるとか見たことはあったが。

「嘘でしょ、何その後付け設定。そんな都合のいい話……」

「後付け設定じゃねぇよ!なろう小説読んでからと言うもの、なにかとサバイバル技術学んでいただけだっつーの!」

「マジか!」

 これは妙子にとっては結構嬉しい誤算であった。

 そういえば森に迷った時も周りをしっかり観察していたし、ログハウスを見つけたのも太郎だ。

 そう考えるといささか太郎に期待してしまう。

 どれほどのサバイバル技術を身につけているのだろうか。

「で、他には何を学んだのかしら!?」

 少し舞い上がる様に尋ねる。


 が、なんかそれを見た太郎はいきなり目を背けた。なんか気まずそうな様子である。

「えーっと、そのですね」

「うん!」

「紐の製作とか……」

 紐!

 妙子はそれを聞いてかなり頼もしく感じた。紐があればある程度の行動にも対応出来るようになる。

 罠の作製、分量の秤、網や重たい物の運搬も可能になるからだ。

「凄いじゃない!」

「ありがとう、ありがとう」

 こう言う太郎だが、ここで口がふさがってしまう。

「他には?」

 これを言われた時、太郎はますます目を合わせなくなってしまった。

「他は、その、ですね」

「うん」


「何も分かんないです」


 それを聞いた時、一瞬妙子の頭が思考停止した。まるで時間を奪われたかの様な錯覚だった。

「なんて?」

 ようやく太郎の言葉を汲み取った妙子はなおも一度尋ねた。

「火起こしと紐の製作しかやった事ないです」

「えぇー……」

 落胆の声に、太郎はなんか申し訳なさそうな気持ちになる。

 しかし、妙子もまた太郎に期待しすぎていたのだ。なんか頼りになりそうな事を言い出した辺りから少し過大な評価の目をしていた。

 気まずそうな空気がやんわりと湧いてくる。

 その空気に耐えられない太郎は、またも仕切り直しの為に話を変えようとする。

「とりあえず、だ!火をつけて、ずっと燃やし続ければ多分勝てると思うんだ」

 太郎の言葉に、無駄に意気消沈していた妙子も気を取り直す。

 しかし、火がつけれるとはいえ、今度は別の問題がある。

「そのスケルトンをどうやって燃やし続けるの?」

 さすがに足の遅いスケルトンとは言っても、ずっと火の中にいてくれる程都合よくはないだろう。

 焦げて朽ちる前に火から離れるのは見ないでも予想出来る。

「さっき穴の話があったじゃないか。それだよ。深い穴を用意して、倒してバラバラになった骨をすぐに穴の中に捨てて、火をつけるんだ。そうすりゃ、持続ダメージでずっと復活出来ないで朽ちるって寸法だ」

「なるほど。で、深い穴ってどう用意するの?」

「……」

 太郎がそこで黙り始める。

「ちょいちょいちょい」

 妙子も思わず訝しんだ。

 太郎は所々抜けている様に思った。

 その様な会話をしていると……。


 ガサッ……と、草木が擦れる音が聞こえてきた。

 何かが近づいてきている。またあのスケルトンか。

 二人は音のなる方に目を向ける。草の音は更に荒々しくなり、近付いてくる。それが分かると二人も心臓の音が早くなってくる。

 瞼は閉じない様に、視線はすぐにでも正体を判明する為に鋭くする。


 そうして姿を見せたのは、先ほどの人の骸骨ではなかった。

「おいおいマジかよ……」

 太郎が呟く。

 そこにいたのは、角の生えたウサギの()()だったのだから。

 この世界の生物、その死骸だろう。しかも、一匹だけではない。2匹、3匹と増えている。

 更に奥にはもっと大きい存在もいた。

 クマの骸骨だ。骨のみになって重量感も無くなった存在だが、大きさは現物のそれと変わらない存在感がある。

 いつの間にか、この動物の死骸達もこちらに集って来ているのだ。

「なんで……?私たち何かした?」

 特に悪いことなんてしてなかった様に思うのに。まさか帰宅中に食ったあのきのみからの呪いか。だったら食わなきゃよかった。

 と、心の中で呟く妙子だったが、冗談ばかり呟く場合ではなかった。

 クマの骸骨がすぐそばで腕を振り上げる。


「早く逃げるわよ!」

 クマの骨の腕が振り降りるより先に太郎の腕を掴み、すぐさま逃げる。太郎も逃げるのには賛成だが、アレらが何なのか気になってしまい、後ろを見ながら走った。

 太郎も考えていたのだ。何故自身らを狙うのかを。嗅覚も視覚も何もない筈なのに。これが魔法、というものなのか……と。


 しかし考えの途中で突然妙子が止まり、握られた太郎も同時に止まりざるを得なかった。

 何事かと妙子の顔を伺う太郎が目にしたのは、旋律に震える妙子の顔であった。

 妙子の向いている方、つまり正面に目を向ける……と。

 そこには先ほどの人のスケルトンが三体、並んで歩いてきている。

「……これ、明らかに俺らを探知してるよな」

 苦笑いと共に太郎は確認を取る。

「えぇ。……多分。参ったわね、これ……」

 何処に逃げても獣の骸骨が現れ、スケルトンも確実にこちらに近づいてくる。

 逃げても、安息はないと妙子達は確信を持った。早くどうにかしなければ。


 二人の感情を置いて、スケルトンの一人が背に付けた弓を取り出し、矢を弓のレストにつけ弦を引く。

「「!!」」

 二人はすぐさま木の陰に隠れる。

 ビュンッと弦を離した音と共に、隠れた木の幹に当たる破裂音がすぐそばで聞こえた。

「無理無理無理無理!無理だってこれ!ズルイってこれ!遠距離技とかないでしょコレ!」

 妙子は思わず叫んで言ってしまう。

 ……確かに、動きは鈍く隠れるのは容易とはいえ、その威力は本物である。

 対処なんて、考える暇もない程に相手は手数を増やしていく。

「ゲームなら俺が自爆特攻とか仕掛けるんだけどなぁ……」

 残機があったりするならば割と一回くらいはやれそうな気はするが、ある前提で動く事など出来ない。

 隠れた方から後ろを見てみると、先ほどの獣の骸骨がにじり寄っているのが見えた。ここに居続けるのも良くない様だ。

「妙子さんよ。とりあえず逃げるしかない様じゃね?獣がやってきてる」

 太郎の言葉によって妙子もそれらに気付いた。

 そうして、妙子は苦虫を噛みしめるような表情を見せつつ、仕方ないと弓矢に当たらないように配慮しながら逃げる。

「あ、ちょっといいか?」

 すると、逃げている最中に太郎が言った。

「な、何よ!?今度は?!」

「やっぱりあのログハウスに戻ろうぜ」

「何で!?」

「弓を使う奴まで出て来たら籠城戦しかないだろ、多分。朝までどうにか持ちこたえるんだ」

 籠城戦。建物に隠れ、入り口を閉じて身を守る戦術。

 ゾンビゲームなどでは良くある戦術である。

 入り口を補強すれば良いし、2階からの侵入ルートがないなら、上から色々と見渡し対処が出来る。

 もちろんジリ貧になる戦術ではある。敵は入り口を作るために壁をも壊す事がある。

 籠城する側は何処が脆くなっているのか警戒しつつ対処しなければならないので、精神的な疲労は大きい。

 太郎としては、準備も一切無しの状態でしたくはなかったが、もはやこれしか対策が無いように思えた。

 無闇やたらに走り回っていては、何処からか飛来した弓矢に当たるかも時間の問題であり、獣の骸骨との遭遇率も時間と共に増加するのみだからだ。

 そしてずっと走っても、自身が疲れて妙子の足手まといになる。

 籠城戦が一番疲労を抑える事が出来る。

 ……勿論、退治しきれるのであればそれが一番なのだが。


 太郎の決断に、妙子は少し考え、理解を示した。

 ログハウスからはそんなに離れた場所ではないので、太郎による大体の感覚で辿りつける筈。


 そうして走る事5分して、太郎はある場所でいきなり宙を浮くような感覚に襲われた。

「ーーえっ」

 ズルリと前に出した足から先には地面が無く、そのまま重力に従い前のめりになって落ちそうになり……。

「っ!」

 妙子は掴んだ太郎の腕をより一層強く掴んだ。

「……あ、ありがとう。後ろ気にしすぎて前見てなかった」

 バクバクと鼓動の激しさを自覚しながら太郎は言った。

 太郎の足から下は随分と深くまで空洞が続いていた。

 とりあえず妙子は太郎を引き上げる。

「な、なんだこれ?」

 太郎は落ちかけた穴を見る。

 随分と大きめの穴だった。直径2m程の円の穴だ。深さは周りの暗さで良く見えない。が……。

 カタカタ……と、底で骨同士ぶつかってなる軽い音が聞こえる。目を細めて周りの暗さにも慣れてくると、奥にあるものも見えるようになってきた。


 そこにいたのはーー獣の骸骨の群れであった。


「ーーうぁぁぁぁぁぁ!?」

「!?どうしたの太郎!?」

 あまりのおぞましさに叫んでしまう太郎。この穴にいるのは百鬼夜行だ。

 もしあの中に落ちていたのなら、その先には死があったに違いない。そう思うと体が力を無くす。

 深さはおよそ10m程と随分な深さだ。これは一体……。

「あ、穴の中にあの骸骨達がいた……!な、何だこれは!」

「穴の中に骸骨……?それってもしかして」

 妙子は思い当たる節があった。ログハウスの近くにあり、大きな穴で、その下に動物の骸骨が沢山あるとしたらこれしかない。

「貝塚……、なのかしら」

 妙子の目は悪いが、太郎の情報から考えると恐らくはそうなのだろう。


 貝塚とは、飛鳥文明時代などで見受けられるゴミ捨て場の事である。

 海からの食料として貝類が多く食われる様になり貝殻を捨てる場所として生まれた事から、名前に貝がつけられたそれが、この様な山にあるのは随分と不自然だが、これは間違いなくあのログハウスの宿主が作ったものだろう。

 そんな貝塚に、この世界の獣の骨を宿主が捨てていたのかもしれない。

 真っ暗な穴の中に耳をそばだてる。確かに骨っぽい音が聞こえてくる。

 しかし、これは僥倖ではなかろうか。これなら太郎の作戦も実行出来る。

「太郎さんや太郎さん。この穴を使って火炙りに出来ないかしら!」

 それを言って、太郎はビビった心を落ち着かせる事が出来た。

 確かに、これなら処分がしやすいと。

「な、なら早く火をつける準備が必要だよな!」

「えぇ!」


 勝機を見出した二人は、これによりやる気が増した。

 籠城戦で耐え、火をつけたら形勢が逆転出来ると。

 太郎は太さの違う杉の枝を二本と、木の皮や枯葉を集め始める。


「あと、ちょっといいかしら」

「?何だ?」

 妙子は一つの提案を考えた。今後の為に。

「あのスケルトンどもが持っているナイフや弓を取り上げたいのよ」

「物資の問題か……、確かに」

 今二人の手持ちはあまりにもこれから生活するには厳しすぎるものだ。斧しか無いと、これから器用な動きが出来なくなる。例えば狩りをする際に弓は重宝する筈だ。ナイフも、紐を製作する上で大事だし、火をつける時もナイフがあった方がやりやすい。

 太郎を賛成し、無言の頷きで互いに了解する。


 太郎の草木集めを妙子も手伝い、ある程度溜まったらすぐにログハウスへと向かった。

 後ろからは骸骨の姿がいくつか見えたが、スケルトンはまだ見えない。弓の矢が飛ぶ音もしない。

 時間を食いはしたが、やはり足が鈍い様だ。

 そうして二人は無事、ログハウスの中にまで逃げる事が出来たのだった。


 ナイフで穴の空いた扉を閉めて、周りの様子を伺う。

 大丈夫。中には誰もいなかったし、壁も壊れてはいなかった。

 ほっと一息して、太郎は火をつける準備に取り掛かった。


「どうやって火をつけるの?」

 妙子は少し興味が湧き、太郎の行動を見つめる。

「擦ってってのは知ってるよな?だから、まずは擦りやすい様にこうするんだ」

 そう言って太郎は床が岩で出来ている台所に移動して、草木をそこに置いた。

 そして、太い枝と斧を持つ。太い枝に対し、まず半分も行かない程の切り込みを斧で入れた。その後、それより上の所からその切り込みの部分まで枝を立てながら斜めに切っていった。

 見たところ少しやりにくそうに見えたが、斧だからなのだろうか。

 太郎も、どこかやりにくそうな表情をしていた。

 木の身が見えたら、切り込んだ溝の中央にVの字を入れた。

「何それ?」

 妙子が聞く。

「こうしてVの字を入れると、擦る時そこに収まり易いんだよ」

「あー、成る程」

 擦る際、難しそうと思ったのは、擦る途中でズレる事だ。このVの字は、それを未然に防ぐ効果があるのか。

「しかも、擦って出来た木屑がたまり易い。たまり易いと燃焼しやすいって訳だ」

「へー」

 意外と頭いいぞ、この太郎、などと妙子は思いながらも感心した。

 そうして準備が終わると、尻で後ろを抑えつけ、両足で手前を支える。そして、溝に小さな小枝で前後に擦っていく。

 思いの外早く動かしている。やはり、それくらいしなければつかないのだろう。


 そうして5分が経過したが、まだ煙すら出ない。だが。

「黒くなってきてるわね!」

 擦った部分、そしてそれによって削れた木屑が黒くなってきていたのだ。これは実際に燃えそうな予感がする。

「あぁ、思いの外早く出来そうだ!何でだろ、すげぇやりやすいなコレ」

「日本って湿度高いらしいし、ここがそれより乾燥してるって事なんじゃない?」

「あぁ、そうか!」

 それを聞いて太郎は嬉しくなった。

「30分で付くと言ったな。見てろ。15分で付かせてやるぜ。半分の時間だ!」

 自身に満ちた顔に、妙子も期待が高まる。

「そうだ。今のうちに薪をいくつか用意してくれないか?」

 火がついても、燃料が尽きたらやり直しになる。ので、せっかく近くに薪があるのだからそれを利用しようと考えた。

「分かったわ!」

 そう言って妙子は台所にある扉から裏にある薪を取りに行った。


「何個必要かしら……。」

 薪の数は抱える量以上は一応あった。とりあえず、抱えきれるだけ持って行こう、と妙子は両腕を広げて薪たちを持って戻ろうとする。と。


「ヤバい……もう来たの?」

 森の方に目を向けると、ナイフを持ったスケルトンの姿を捉えた。妙子の目ですら見えるほどの距離にまで。何故ナイフ持ちだと思ったのか。それは、弓を抱えていなかったからだ。

 それに気付くと妙子は慌てて走る。その最中にいくつか薪を落としてしまったが、それどころではなかったので、そのまま置く事にした。


 ダン!と扉が強く閉まる音と共に妙子はログハウスの中に入る。両腕一杯に持った薪は結局半分くらいにまで減った。

「……来たのか」

 太郎は火をつけるのに目を向けつつ聞いた。

「えぇ、今のところナイフ持ち一体だけ見つけたわ」

「一体だけ……か」

 弓持ちが伏兵として隠れている可能性を考えてみて、太郎は有り得ないと結論付けた。

 弓兵を見た時、ナイフと一緒に並んで現れたそれが、その様な規律の取れた動きが出来るはず無いと思ったからだ。

「今なら手に入るかもな」

「えっ」

 太郎の発言に、妙子も察する。

 一体だけならば、三体同時に比べれば安全に倒し、ナイフを手に入れる事が出来る、と。

「斧ならもう使うことはないから妙子が持っていてくれ」

 その言葉に妙子はゴクリ、と息を飲む。

 それはつまり、妙子自身があのナイフ持ち相手に戦いを挑むという事だ。

 確かにあのスケルトンは実際には弱いだろう。しかし、太郎同様にナイフに刺さってしまう危険性を考えると体が上手く動かせない。

 しかし、妙子自身がやらなくてはいけない。

 太郎は今火起こしの最中であるなら、結果として妙子しか戦えない。

 妙子はその覚悟がまだ決まっていないが、それでも使命感で斧を握る。

「わかった。任せて」

 正直、妙子は今すぐにでも引きこもっていたかった。元からホラー要素には恐怖を抱くし、暗闇の中で明かりもない状態で戦いに挑むなど、とても恐ろしかった。

 ーーでも、やらないと。

 強く握りしめた柄には手汗が湿っていた。滑らないように改めて握り直し深呼吸。

 そうして、妙子はテープのような薄く取って付けたような覚悟で自身の恐怖に蓋をした。

 それを太郎は見逃さなかった。

「あぁ、あとそうだ」

 そう言って、緊張の中にいる妙子に言う。

「扉を若干開けといて、そこの壁沿いに構えとくのがいいかもな」

 太郎の助言に妙子は首をかしげる。

「ほら、最初出会った時もそうだったけど、あのスケルトンさ。扉が普通に開くと分かったら扉を壊すなんて事をせずに開けていただろ?だから、少し開けとけば普通に取っ手に手をつけて開ける筈じゃね?」

「な、何を言っているの?取っ手に手をかけたから、だからなんだって言うの?」

「ゲームをやってないとわからないのか?改めて考えてみろよ。取っ手を持つのはどっちの手だ?」

「そんなの……」

 ナイフを持っていない左手に決まっているーー。

「そんで、ここの扉はどっちに開く?」

 左に開く内向きの扉ーー……。

 海外では内向き扉がメインであるらしいが、その理由が防犯の為であると言う。犯人が扉を開く時、中の人は体の重心を使って押さえる事が出来るからだとか。

 太郎の場合は、恐らくその様な理由では無いだろう。

 太郎の考えはこうだ。

「扉を開ける時、まずどこを注意するかと言えば、すぐ目の前だ。そうして真っ先に見るのは俺だろう。壁沿いのお前には気付かない!」

「ちょっと待って。アイツら、私たちの居場所を探知しているから壁沿いに私がいるのもバレない?」


「ーー……」

 ドヤ顔で言った太郎が沈黙に入る。


「なんか言えや」

「フッ、まぁ、そのくらいは気付いてトウゼンダナー」

「白々しいなホント」

 若干声が上ずっているのを妙子は聞き逃さない。

 その様子に太郎は慌てて弁明する。

「まぁ、待て待て待て!ちゃんと他にも理由があるから!」

「本当に〜?」

 ジトッとした目で太郎を見る妙子。

「えっとだな!左に開く内向き扉なら、ナイフを横に振るって行為が壁によって出来なくなるんだ。

 結果、たとえ妙子の存在を知っていても、上段に構えてから攻撃するか、刺突でしか出来ない。

 刺突も、扉を開く向きとは体の重心がズレるからやりにくいんだ。

 対して壁沿いの妙子の方は突き立てる構えだけしていれば扉が開いた瞬間に攻撃すれば倒す事が出来るって訳だ!」

 オタク特有の早口でそう説明する太郎。口の速さと同じくらいに小さな枝を擦りながら言う姿に滑稽さを見いだしつつも、中々理に適っている様な事を言っている様に感じた。

 しかも、これにはもう一つ妙子にとっては利点があった。

 それは、扉が開かれるまで、あの恐ろしいスケルトンを見なくて済む事だ。

「本当に他の理由があって見直したわ」

「見直すな、絶賛しろ!」

「アンタ天才か!」「そうだともー!」

 太郎は恐らくシリアスな空気が苦手なのだろう。

 彼の言う言葉や態度は、重苦しい空気をなかった事にしたい意思が感じられる。そして、その意思は妙子にとっては好都合であり、実際に先程まで緊張状態だったのが緩和された。

 それが妙子にとってはとてもありがたかった。


 改めて深呼吸。深く思い詰める事もない。攻める上ではこちら側のが有利なのであれば、やっていける。

 妙子は太郎の指示に従い壁沿いに張る。


 そうしてしばらくする内に、カタカタとスケルトン特有の音が近づいてくる。


 ゆっくりと斧を突き立てる様に構える。

 あの自体はハルバードの様な槍の形状は存在しないが、スケルトンを崩すだけならそれで十分である。


 そして、ギィ……と扉が開く音がした。伸びた腕は骨のみ。そして、体は前のめりになっている。

「……!」

 グイッと斧で突く。

 その力はそれだけで太郎が振りかぶる力に等しい力が得られた。

 スケルトンはナイフを突き立てる間も無く庇った様に前に出された右手もろとも人の形が保てなくなるほどに崩壊した。それでもなお、骨は傷跡を残さない。

 ……否。傷をつけても修復されて行くのだ。

 しかし、それでも得るものはある。

 バラバラの骨になった事によってナイフを手に入れる事が出来るようになった。

 早速ナイフを取ろうと腰を下ろし……、気付いた。

 骨の手が今もなお形を保ち、強く柄をにぎりしめているのを。

 あまりに不気味な為ナイフに手をつけられないので、代わりに本体をどうにかしようと思った。


 人の体の基盤は腰からだと妙子は聞いた事がある。

 そして、それはこのスケルトンに対しても適応されているのか……、腰を中心に骨が集まっていく。

 なので、腰に対し斧で思い切り叩き割ってみる。


 強烈な破裂音と共に、腰の骨盤は四散する。

「うおぉう、ビックリした。なんだ、バーサーカーにクラスチェンジでもしたのか」

 スケルトンが来てもある程度集中していた太郎だったが、先ほどの音によって体がびくりと反応した。

「いや、復活が遅くなるかなぁって」

 そうして、妙子は割れた骨盤の破片を手にとって見る。

 実際に、手にした骨に分断された他の骨はくっつこうと磁石の様に擦り寄ってくる。

 ナイフにくっついた手は未だに離さないままであった。

「困った……」

 このままだとナイフの回収がしにくい。

 ナイフに手を出そうとしていきなり手が動いて切り裂いてくるんじゃ無いかと思うと下手に近付けない。


 そうしていると、太郎の方は火起こしがもう少しで出来そうであった。

 太い枝から煙が立ち込め、そこから仄かに灯りがともる。

「そっちの方は順調そうね!」

「あぁ、もうすぐ出来るぞ」

 太郎はそばに置いてあった細かい木屑に擦って出来上がった黒い煙の元を入れ、息で酸素を入れる。

 吹きかけた息に合わせて木屑のなかの光も強くなる。

 そして……。

 小さな火が木屑を覆っていく。

「おぉ……」

 周りの暗さによってその火の光がこれまでのどれよりも明るく見えた。同時に、どうしようもないほどの恐怖感を解消しうるそれに思わず妙子はため息が出た。


 ニヤリ、と太郎は笑う。

「さぁて、盛大に火葬してやろうじゃねぇか!」

 薪を火に焚べて、着火させる。

 後はスケルトンともどもあの貝塚に沈めるだけだ。


「ところで弓の対策はどうするの?」

「……そりゃお前、籠城戦貫いて、隙が見えたら粉砕の流れだろ」

「……ですよねー」


 そうして、同じような作戦がひたすら繰り返された。弓兵のスケルトンも、もう一体のスケルトンも律儀に扉を開けてくれるタイプだったようで、倒すのに苦労はしなかった。

 残りの一体は何を持っていたかと、不思議な事によく分からない丸く赤いビー玉の様なものを持っていた。

「これはなんか意味があったりするのかな」

「こんなビー玉が?ねぇだろ多分」

 とりあえず、厄介そうなスケルトンは倒せたので、2体とも同じく腰を砕き、それぞれの破片を手に取っておく。

 三体同時ともなると、動く他の部位の骨の群がり具合がかなり気持ちが悪い。

 二人は急いで貝塚の元まで走っていった。


「これでサヨナラだ。本当に終わってくれ……!」

 妙子は手に持った割れた骨盤の破片を貝塚の中に放り、太郎は木屑や木の葉、枝と共に燃えている薪を中に投げた。

 火は他の草木に燃え移り、たちまち広がっていく。

 地面の底から萌えるそれはまるでキャンプファイヤーの様な感覚だった。

 そして、スケルトンの骨たちもまた、この貝塚の中に自ら入っていく。これは妙子の予想通りであったので、少し喜び、安堵する。

「って、ちょいっと!」

 同時にナイフや弓を持った手の骨も心中仕掛けていたので足で踏んで止めた。


 貝塚の中はといえば、先程まで気持ち悪く動いていた獣の骸骨も体を崩して行っていた。

 しかも、復活を図っている様子も伺える。その度に火に焼かれ朽ちていくのだ。

 これこそが太郎が考えたリスポーンキルなのである。

「よっしゃあ!これでもう終わりだろ!へっへー、ざまぁー!」

 ようやく完全勝利だと確信して、太郎はまたイキり始めた。

 しかし、実際にもう何も恐れるものはないだろう。今度こそ終わった。

 と思いきや。

 太郎の後ろでクマの骸骨がスタンバッていた。

(あー、忘れてたー)

 妙子は目を細め、嫌な汗を流した。



 それから、また太郎が発狂するのは、もう伝える必要もなかろう。

 その後また一悶着はあったもののどうにかなった。結局のところ、骸骨たちを倒したのは全て妙子であった。

 太郎はとにかく動き回って囮になって、妙子が後ろから薙ぎ払ってクマを倒し、ウサギなどは貝塚の近くでゴルフをする様な形で叩き落とした。

 そうして、ようやくログハウス周りの骸骨は一掃する事に成功した。こればかりは周りが自身らを追ってくれたのが早く終われた理由であろう。

 まるでゲームのNPCのような奴らであった、と太郎は思ったが、もうどうでもよくなった。とりあえず早く寝たいという感情だった。

 気付けばナイフや弓を持っていた骨の手は力をなくしたのか突然ポトリとそれらから手を離して動かなくなっていた。


 とりあえず今の時間を見ようとスマホを取り出すと、太郎は些かへんな物を見たような表情になった。

 妙子は突然のスマホの光に目が行き、太郎が見ている物を側で見る。


 フランスの時刻にして午後9時30分ーー


 体感深夜2時くらいだったのだが、思いの外早く終わっていたのか……。

(そういえば4時くらいにログハウスに着いたはずなのに周り真っ暗だったわよね)

 なんか違和感があったが、そういう事だったのか……。

(いや、どういう事よ)

 昨日はたしかに暗くなったのは午後6時からだ。それに比べて今日は夜になるのが早すぎる。

 これも、破滅の波って奴なのか。

 妙子は大きなため息をつく。

「どうでもいいわ。早く寝よ寝よ」

「さんせー」

 二人とも、緊張が抜けて一気に虚脱感に襲われた。

 ナイフと弓、そして赤いビー玉のようなものをとりあえず回収して、ログハウスに戻る。


 戦利品はとりあえずリビングの机の上に置いて、二人はそのまま二階に上がってベッドにダイビングして、そのまま睡魔に飲まれるのであった。

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