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異世界転生のみならず転性しちゃいました  作者: kilight
一章 まずは地道に探ろう
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4話 その日の帰路

 ログハウスまで戻るのは、彼らに取っては結構な苦労であった。

 森に迷っていた時は焦燥感で体力の事など忘れられたし、コンパスを手に入れた時は目に見えぬ目標に邁進出来たので活力が湧いていた。

 が、既に通った道を三時間もかけて歩くというのは精神的な疲労が積もるものだ。

 しかも、他の生徒が勇者とやらになって冒険に向かう中、二人だけが置いていかれたショックは並大抵のものではなく、それも二人の足取りを重くした。


 妙子は手に持ったきのみを齧りながらこのやるせなさに耽る。

 が、このまま暗いまま歩くなど、太郎的には如何なる苦痛より堪え難い。


「ログハウスに戻ったら、まずはどうするよ」

 そうして沈黙を破ったのは太郎である。

「……とりあえず今日の所は帰ったら寝るだけにしましょ。本格的なのは明日やればいいわ」

 空を仰げば青かった空もすっかり赤く染まっていた。


 魔法があると先ほどの場で証明されてから、妙子は自身の知っている現実との違いを探していた。

 とりあえず見つけたのが、獣の種類、木の種類。

 例えばここには野ウサギがいるが、そのウサギには角が生えていた。あれはどのような経緯で角が生えたのだろうか。見た目だけなら角以外は本当にありふれたウサギに相違ない。

 木もそうだ。

 杉の木など、見覚えのある物も存在するが、根っこにあたる部分から二本の幹が蔦のように絡まり合っている独特なものもある。

 それは、これだけがなっているのではなく、周りを見渡せばそのような変わった木が乱立している。

 これも、そういった性質の木なのだろうか。

 その木の上を見ると、ヤシの木のように枝が拡散し、大きな葉っぱをぶら下げている。

 そのようになっている枝にも、枝に別れた部分から細い蔦が枝に絡まり、蔦の先端に赤く小さく丸いきのみをザクロのように実らせる。

 遠目で見れば花にも見える事だろうが、近寄ればまるで虫の集合体みたいで気持ちが悪い。


 このように、今二人が歩いている場所だけでも知らない動物、植物が目に入る。

(まぁ、二足歩行のトカゲとかがいるよりかはマシだけどねー)

 妙子はそんな、ファンタジー物にいるようなモンスターの存在などがいまいかと勘ぐっていた。

 実際にそのようなものが敵意全開でやってきたら勝ち目がないだろう。

 先ほどの街には柵や溝と言ったものは設けられていなかった。なので、そう言った凶悪な生物は存在しない筈だ。

 あの白い塔が並ぶ場所への道にはそう言ったものはあるが、あれは単に貴族と庶民とを分けるための敷居以外の意味は持たないだろう。

 だとすれば。

 妙子はあの時聴いた天からの声を思い出す。


『破滅の波』


 それが一体どのようなものなのか。

 おそらくはその破滅の波とやらが自身らをここに呼び寄せた原因なのだろう。

「ねぇ、太郎さん太郎さん」

 疲労の為か、何となくお婆ちゃん口調になる妙子。

「何だい妙子さんや」

 それに乗る太郎。

「あの時の破滅の波って奴、何なんだろうね。太郎はどう思った?」

「俺から言わせれば、多分アレだろ。魔王降臨系」

 なろう歴の長い太郎は真っ先に思いついたのがそれであった。

「なんで魔王降臨系?波ってあるから大寒波とかの可能性もあるじゃない」

 日本語の言葉には綾というのがあり、比喩的な表現が多く見られる。例えば泣き暮れる事を豪雨と例えたり、困り事のない状態を快晴と言ったり。

 では、今回の場合はどうなのだろう。言葉は翻訳された感覚があるが、それなら波というのはメタファーだったのだろうか。

 妙子はなんとなく寒波か何かだと思っていたので、魔王降臨系と言ったのが意外に感じていたのだ。

「俺には考えつかなかったな、それ。でもやっぱり降臨系だろ」

「その心は?」

「寒波とかならわざわざ俺らを召喚する必要ねぇだろ。外海からの波だとしても、防波堤作ればいい話だしな」

「それはまぁ、確かに」

「あと、やっぱりアレだな。理系の高杉先輩がなんか瞬間移動的な魔法使っていたのが決め手だ。わざわざ高杉先輩が魔法を使う必要無かったろ。それこそこの世界の護衛がやってくれるものだ。それがなかったという事は、先輩たちに移動の主導権があるわけで、ひいては先輩たち異世界人に託せる事なんて、戦闘くらいしか思いつかない」

 確かに。他にもやらせられる事はある気もするが、わざわざ他所の人に土地を踏ませてまでやってもらう事の理由となれば限られているか。

 寒波の為の策の提供なら何処かに行かせる必要はない。他所の街への配慮ならわざわざさっきの街の人に教える必要もない。ましてや、街の人があの様な熱狂に包まれる訳もない。

「つまり、皆はその魔王とやらを倒す為の少年兵だと」

「少年兵は言い得て妙だなー」

 なろうを嗜む太郎だが、その様な例え方は面白い表現だと思った。

 確かに召喚モノで召喚されるのって大抵学生かおっさんだからなぁ……。しかも大体はその召喚した側の奴らの頭がおかしかったりするのも様式美だ。

 召喚された奴らは大体チートを貰っていたりはするが、わざわざ死地に送り込むと考えると、確かに効率が良さそうだ。……召喚にどれくらいのコストがかかるかは分からないが。

「あの街だって自国民を死地に向かわせたくはないだろうし、何も知らない異世界人を煽てるだけで乗り気にさせれるならこれが一番理想なのかもねー。政治もギスギスせずに済みそう」

「なんか嫌な言い回しだなそれ」

 考えても見なかったが、確かに日本の生活に退屈……の様なモノを感じている学生にはこの様な非現実的なモノはむしろ体験したいものなのかもしれない。

 それこそチートなんか貰えたのなら尚更。

「……」

 太郎は考え込んだ。

 なろうの読みすぎでそう言った物に夢を見ていた事実を思いながら。

 もし自分が高杉先輩達と同じ場にいたのなら、多分乗り気で旅に出ていた事であろう。

 他国(他世界と言った方が正しいか)の為に兵士になる、なんて現象に違和感を覚えていなかった。

 ーーなるほどなぁ。

 と太郎は考えを改めた。

 まぁ、ゲームでも対戦相手を倒すのは楽しいし、正直その延長線上で、自身も転生して無双シリーズの様になぎ倒したりしたかった……アトラクションの一つとしてでしか見てなかったが、実体験となると例えそれがチート持ちだったとしても痛い目には遭う訳で……。

 実際に痛い目に遭っている身としてはあの様な願望など、馬鹿げた妄想に思えてきた。

 それに、例えばこの戦いの目的が他国侵略のためだったとかなら、億劫な争いになる事間違いない。

 色々夢があるが、同時に現実問題の観点も見え隠れするのが歯痒い感じがする。

 その様な考えに至ったのは、多分自身らに何の利益も被られなかったが故だろう。


「あとさ」

 深々と考え込んでいた太郎だったが、妙子はそんな中でつぶやく様に言った。それに太郎は考えを一旦やめて耳を傾ける。

「魔王軍とやらと戦う為だとして、だったらもしかしてここにもその魔物がやってくる可能性とかない?」

「やめろ、必死に考えないようにしていたのに」


 実際太郎もあの破滅の波とやらを聞いた時から考えついていた事だ。

 このままログハウスに帰ったとして、その道中や家の中で魔物と遭遇しました、だなんて悪い冗談だ。

 自身はチート持ちじゃないどころか貧弱そのもの。妙子は筋肉質な体を持っているとはいえ、わざわざ異世界召喚までして対処する相手だ。絶対まともに相手していたら死ぬ事だろう。

 それでいて対処を考えようにも武器はない、原住民と会話できない、頼れそうな高杉先輩達もいないと無い無い尽くしだ。

 それこそたまたまチート武器を授かるイベントが発生しなければどうにもならないが、そんなものに期待も出来ない。

(フラグであってくれ)

 この思想がチート武器フラグの起点になってくれる事を祈るばかりだ。


「……でも対策は考えないといけないでしょ。頭空っぽにしてもいい事なんて起きないわよ」

「正論だけど、ならどうすりゃいいんだよ」

「それは……まぁ……」

 妙子も考えれる事は考え尽くしたつもりだが、あまりにも情報が少なすぎる。

 この世界への理解が少ない今の状況では地の利すら活かせない。

 そして、魔物が来たら街に逃げればいいかといえばそうでもない。

『言葉の通じない人間が魔物を連れてきてやってきた』

 こんな構図、どう見ても悪役のそれである。他国のスパイだと思われて処刑なんて事もあり得る。

 とどのつまり、自身らは魔物と対面しても自身らのみの力で対処出来る術が必要なのだ。

 考えるだけ億劫になる太郎の気持ちもわかると言うもの。

「とりあえず、そんな魔物と出会っても相手せずに逃げることに専念するしか方法はないわね」

「そんな、森でクマに出会った時の対処みたいな方法……」

 まぁ、拳銃もないのならばそれしかないのだろうが。


 ……今歩いているこの間も、太郎と妙子の歩くペースは違っている。

 妙子も気を遣ってたまにゆっくり歩き、太郎も時折駆け足になっているが、全力で逃げるとなるとやはり個人差が出てくる。

 太郎としては、体力が少なくて妙子の足を引っ張る結果になるなんて事にはなりたくない。

 自分が遅いばかりに気を遣ってくれている妙子も逃げるのが遅れて全滅だなんて、とんだ疫病神だ。

「……はぁ……」

 改めてこの体の不憫さに嫌気が差す。

 もともと男の姿の時からそれほど体力に自信があった訳ではないが、少なくともここまで『酷く』はなかったのに。

 これからの生活でも、多分妙子には迷惑を被るだろう。非力であるが故に。

 女の姿のせいにしても、元々女性の人に頼る時点で情けない事この上ない。

 ーーとりあえず、自分も体を鍛えよう。

 太郎はそう思い始めた。



 この会話のおかげで、不思議と時間の流れが早く過ぎ、気付けば二人はあのログハウスの姿が見える所まで辿り着いた。その道中、不安の種だった魔物の気配もなく。

 ーーとりあえず良かった、と二人は安堵のため息をついた。


 不思議と足も駆け足になって、ログハウスの扉までは早かった。空の暗さもあって、安心出来る場所が欲しかったのだ。夜の森の虫の囁きは下手なホラーより恐ろしかった。


 妙子が、ログハウスの扉に手をかけ、ガチャリ、と扉を開く。

 そして目に飛び込んで来たのは安心感を与えるリビングーーではなく、一つの二足歩行の骸骨だった。骨のみのはずなのになぜ立っていられるのかさっぱり謎だが、片手に小さなナイフを携えてふらついていた。

「!!」

 その骸骨はこちらに気付くと、眼球も無いはずなのに有ると錯覚してしまうほどの眼力で見てきた。目の部分に怪しく光る赤い点が見える。

 バタンっ!

 勢いよく扉を閉める妙子。

「……ーーそんな事ある!?」

 そして第一声がこれである。

 バンバン!と扉を叩く音が聞こえる。妙子は必死に扉が開かない様に抑えて後悔の念を覚えた。

「やっぱり魔物の話とか出さなきゃ良かった!これ完全にフラグ回収パターンじゃん!」

 今更何も言っても遅い。過去には決して戻れないのだ。(既視感)

「ど、どうしたし?」

 まだ何も知らない太郎であったが、家の中から聞こえる音から異常事態が発生している事はわかった。

「骸骨の兵が立っててヤバイ!」

「えっ、何そのルシファーのファーがパージでコクーンみたいな言い方」

「冗談言っとる場合かーっ!」

 些か正気を失いかけてる妙子的には太郎のボケにツッコミを入れるのも一苦労であった。

 そう言っている間にも、扉からナイフがグサリと刺され、先端が見えている。

 流石にそれを見た太郎も血の気が引いた。

「と、とりあえず扉から離れた方がいいだろ!危ないぞ!」

「でも離れたら骸骨が出てきちゃうじゃん!」

 臭いものには蓋を閉めたいが、今の状況ではそれも不可能だろう。

 それに妙子が負傷するのはあってはならない事だ。

 太郎は妙子の腰に両腕を抱えて扉から離れる様に促す。

「何やってんのよ!」

「いや、このままだと絶対手を負傷するだろ!とりあえず距離を取って相手の挙動を見なきゃ対処出来ない!」

「そんなゲームの攻略法みたいな事を!」

 しかし、手への危険性は妙子も理解していた。

 恐ろしくはあるが、ここは太郎の言う通り手を離した方がいいのだろう。

 ……またあの姿を見る事になるだろうが。


 太郎の言う通りに妙子は手を離してそのまま一気に後退する。

 中から聞こえてくる騒音の主もそれに気付き、扉を叩くのをやめて律儀に扉を開けた。

 そして、妙子にとって二度目の邂逅。

 カタカタと不気味な動きと、どう見てもおかしい姿を見た二人はSAN値チェックを行う。


「「ヒー!!??」」

 見事一時的発狂と相成った。二人とも涙目である。

「何あれ何あれ!何で関節部に何もないのに平然と立ってるのあれ!」

 叫んだのは妙子である。

「スケルトンやんけ!生で観ると気持ち悪っ!不気味ってレベルじゃねぇーぞあれ!」

 なろう歴とゲーム歴は間違いなく妙子より長いはずの太郎ですらこの通りである。

 顔面蒼白で両者必衰の理を見出した。

「あれはどうやって対処すればいいですかね太郎さん!」

「えっ!?えっと、だな。……聖水投げるとか」

「無いものに頼るなー!」

「スンマセーン!」

 二人がビビる中、スケルトンは確実に二人に向かって歩いていた。


『カッポイス……ミー……スコットォスィ……』

「「骸骨が喋ったァァァ!?」」

 二人の耳にはエコーのかかった様な女性の声が聞こえてきた。



「に、逃げる!?」

 妙子はガタガタと震えながら太郎に問う。

「どこに!?逃げてどこに向かうって言うんだ!」

 地の利を持たない以上逃げる選択肢はないだろう。ホームが魔物に占領された今、二人はスケルトンをどうにかする他ない。

「じゃぁどうやって戦うのよ!」

 妙子の今の動揺ぶりから、太郎は知識に頼ることが出来ないと思った。多分テンパると何も出来ないタイプなのだろう。

 実に分かり味……じゃなく。

 ともかく、ビビってはいたが妙子の慌てふためきぶりに逆に冷静になった太郎は、このログハウス全域にある物を思い出す。

 ログハウスの中には机と椅子、貯水槽に本棚。

 外には薪が数個、それにーー。

 太郎は使えそうな物の検討がついた。

 妙子を引き連れてログハウスをぐるりと回って、薪割りをする場所まで移動した。

 スケルトンは足が遅いようでこちらに追いつく事はなかった。


 太郎はその辺に置いてあった斧を手に取った。

「これならどうにかなるだろ!」

 武器のリーチも斧の方が長い。後はこれを妙子が使えばいいのだが……。

 ちらりと妙子の方を見るが、若干の精神崩壊をしている妙子は実に使い物にならなかった。

「仕方ないか……。いや、たかだかスケルトン一匹、このエクスカリバーを携えた俺ならやれるか……」

 斧をエクスカリバーなどと言い虚勢を張る太郎であったが、その実足はガタガタと震えている。

 実際、刃物を持った相手と戦うのは思いの外恐ろしい物だ。いつ腕や手を切られるか分からない恐怖。

 絶対痛いと経験しなくとも分かるが故に臆病にもなる。


 かくして、異世界に来てから初めての戦闘となる。

 動きの遅いスケルトンにゆっくりと間合いを詰めて行く太郎。しかし、一手出す勇気が足りない。

 昔やったことのあるゲームでは、近づいた瞬間やたらと俊敏になって殺しにかかる奴がいたので、それを警戒してしまう。

 ゲームと違い、ここでは都合よく時間経過で全回復なんてしないし、回復アイテムも落ちてはいない。

 そう考えるとますます及び腰になり、両腕は前に伸び、腰ばかりが後ろに下がった情けない構えになる。

 太郎は内心戦闘アニメのようなカッコいい構えになっているつもりであるのが悲しみを誘う。

 流石にこれを見た妙子も不甲斐なく見えた。

「アンタ、何その構え!ダッサ!しっかりしなさいよ!」

「はぁ!?何言ってんだ、カッコいいだろ!」

 ダサいポーズで妙子の言葉に応える太郎。それをスケルトンは見逃さなかった。

 おお振りかつ荒い動きであったが、ナイフを振り下ろしたのだ。


「うっお、あぶねっ!」


 大雑把な動きの為対応する事が出来た太郎だったが、背筋が凍ってしまいそうな程怯えてしまう。

 そうなると、体の方も硬くなっていくもので、硬直状態が続いてしまう。

 スケルトンは躱された腕をまた振り上げる。

「ヤバイって太郎!はよ逃げなきゃ!」

 スケルトンは突き刺す様にナイフを逆に持ち、突進する。

 硬直した太郎には逃げるという判断は出来ても体が上手く動かない。

 それを見かねた妙子は急いで太郎の腕を引っ張り抱き抱え、危うくもスケルトンの刺突から回避させる事に成功した。

 ーーその刹那、太郎は自身の不甲斐なさを痛感した。


「ちょっと、大丈夫!?」

 妙子は太郎の様子を伺う。太郎は俯いていてよく分からなかった。が。

「大丈夫だから。ちょいバグってただけだから!」

 妙子から素早く距離を取り、スケルトンに目を向けた。


 ーーこんなのじゃなかったはずだ。俺はもっとカッコよく敵を倒すはずなんだ。自身の非力さ故に上手く立ち回ろうとしなかっただけだ。


 太郎は自身に言い聞かせる様に()()()して、斧を改めて握りしめる。

 動きは分かった。多分いきなり動きが変わったりはしないのだろう。ならやれる。

 スケルトンがまたナイフを振り上げて太郎を見つめた。

『パラコロォ ロティステ……』

 スケルトンはゆったりと近づきながらナイフを振り下ろした。

「意味分かんねー事言ってんなよこの野郎!」

 動きが遅いと分かった太郎はだいぶ長く距離を開き回避した。

 ーーゲームなら随分と無駄な動きであることは否定出来ないが、初めての戦闘なら許されるだろ!

 太郎は薙ぎ払う様にしてスケルトンの首を断ち切った。


 首がへし折られ断たれた頭部はその衝撃と共に宙を舞いながらボトリ、と落ち、胴体から下も、同じく衝撃によって転げ落ちた。


「……ふっ、またつまらぬ物を斬ってしまった(人生初体験)」

 太郎的には言ってみたいセリフベスト10に入る言葉を言えてご満悦だった。

 スケルトンには目もくれず、太郎は清々しい顔で妙子の方に顔を向けた。

「どーよ俺!カッコよかったろ!?」

 さっきまでビビっていたのにコロリと豹変する太郎に妙子は少し滑稽に感じながらも応える。

「まぁ、実に厨二病乙って感じ」

「厨二結構!いやぁ、実に弱かったなぁー!もっと骨のある奴出てこいってのっ。いや、こいつ骨しかないんだけどなー!」

 途端にイキリだす太郎。勝ったと思って言いたい放題である。

 その様子を見て仕方ない奴だと妙子は思った。その矢先ーー。


「……あっ」

 太郎の後ろ。先ほど倒したスケルトンの胴体が立ち上がってきた。しかも、近くに転がるドクロを持って頭にはめたのだ。

 それに太郎は気づいていない。


「ねぇ、太郎さん太郎さん」

 顔が真っ青になっていくのを妙子自身は感じた。

「なんだい妙子さんや。今日は出し汁かい?このスケルトンで?なんつって!」

 この男は何馬鹿なこと言っているのだ!後ろに気付いていないのか!

 スケルトンはゆっくりとナイフを振り上げる。

「うしろー!うしろ見てはよ!」

「出し汁がどうし……」

 太郎はケラケラと笑いながら振り向いてみる。


 そこには今にもナイフを振り下ろしそうなスケルトンがいた。

「……ーーそんな事ある!?」


 思わず目玉が飛び出てしまうんじゃないかと思うほど怖い姿だった。

 下手にイキっていたためか振り下ろしたナイフからはどうにか回避に成功するが、その時数本の髪がナイフに切れてはらりと落ちた。

 さーっと太郎は青ざめ、妙子の元にまで駆け寄った。

「あー!あー!あー!」

 そして発狂した!

「さっきまでのイキリはどこ行ったぁ!?」

 思わずツッコんだが、そんな事ばかり気にしている暇もない。

 まさか断絶してもくっついて復活するとは。

 かなり厄介な事になった。この手の対処法なんてよくわからない。無限復活なんて、経験値が実装されている場所でやってくれと思う。

 だが、それだけでは終わらなかった。

 奥からーーログハウスの玄関から、扉が開く音が聞こえてきたのだ。


 ここには二人とこの骸骨しかいなかったはず……。

 何故扉が開く音が聞こえる……?


 その正体はすぐに姿を現した。

「……!?」

 そこにはもう二体のスケルトンがやってきていた。

「詰んだこれぇ!」

 復活するスケルトン三体を相手にどう勝てばいいか分からない妙子。

 とりあえず太郎を抱き上げてすぐにログハウスから離れるのであった。




 全力疾走で駆け抜け、とりあえず森の中、大きな木を背にして妙子と太郎は座り込んだ。

 太郎はこの間に正気を取り戻したが、一日の間に何度も精神崩壊を繰り返したのでだいぶぐったりした様子だった。

「どうする?あれ。なんか三体に増えたんだけど。しかも復活持ち」

 妙子はとりあえず太郎に聞いてみた。

「いやぁ……、スケルトンって時点で復活とかするとは思っていたケドナー」「はいダウト」

 ビシッと太郎に指差す妙子。太郎も冷や汗流しながら沈黙する。

「勝ち目、ないのかなぁ、あれ。だとするとログハウス使えなくなるけど」

「せっかくの家使えなくなるのは嫌だぞ!」

「私だってそうよ!」

 これからロクな食事もなく野宿暮らしなんて、考えるだけで嫌になる。なので、どうしても早くあの家を取り返さねば。……まぁ、別に自身らのものでもないけど。

「というわけで!あのスケルトンの対策を考えたいと思います!」

 妙子は空元気で叫んでみた。が、それだけで思いつくなら苦労はしない。

 実際やれる事が限られているのだから出来る所から考えるのは大変だ。

「……対策と言ってもなぁ……」

 太郎はとりあえず周りの木の葉と適当に太い枝をかき集めながら呟く。

「……アンタ、何やってんのよ」

「え?」

 気付くと太郎は人一人分の量の木の葉と、10本ほどの枝を集めていた。

「野宿の準備」

 ケロッと言ってのける太郎だった。

 ……なんだ、時折見せる男らしさは、と妙子は思う。

「えぇ……。さっきまでログハウス使えなくなるのは嫌だとか言ってたじゃん……」

「いや、そうだけどさ。多分明日の朝にはいなくなってると思うから」

「なんでそう思うん?」

「今日の朝、スケルトンはいなかった。夜になったら現れた。つまり、あのスケルトンは朝に弱い!ゲームでも朝になると消えたりするし!」

「この世界はゲームじゃないから!」

 なんて事だ。まさか太郎はここまで精神がやられていたのか。

 ……いや、何回か幼児退行していたし無理もない、か?

 だからって野宿はどうなのだろう。それこそ他の魔物がやってきそうなものだが。これも指摘した方がいいだろうか。


 しかし、的を射た言葉もあった。

 朝にはいなかったが、夜になったら現れた、か。

 これは果たして偶然なのだろうか。

 それならば、なぜ昨日の夜は現れなかったのだろう。


 何か意味があるように思うが、その理屈が中々思い浮かばない。

 とりあえず、太郎を止めなければ本当に野宿になりかねない。

「太郎さんや。どうにかあのログハウスを取り返す算段考えない?」

「そんな事言ってもなぁ。こっちには防具もないし、武器も本来の用途として扱われてない斧だしなぁ」

 一体ならまだしも、まさか三体やってくるとは。

 ただでさえナイフ持っているというだけで怖いのに3人に増えたら数的な意味でも勝ち目がない。

 とはいえ、妙子は野宿は嫌そうであるのはみて伺える。

 ぶっちゃけ太郎も野宿自体はかなり嫌なので、どうにかしたいとは思っている。


 ……復活するスケルトンをどうにかする方法、か。


 ふと、太郎はあるゲームを思い出した。

 無限湧きした奴を一掃する方法。

 その方法自体は落とし穴を作って溶岩ダイブさせるというものだったので実現は不可能なのだが。


「ーーあっ」


 と、太郎はある事を閃いた。

「え、どうしたの?なんか思いついた?」

 妙子の声のトーンは普段と同じだが、どこか期待している様子だった。


「あぁ。思い付いたぜ。復活するなら、リスキルを狙えばいいんだ」


 太郎は実に悪い微笑を浮かべてそう言った。

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