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異世界転生のみならず転性しちゃいました  作者: kilight
一章 まずは地道に探ろう
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3話 彼らを置いて、物語は勝手に動き出す

 森を抜けるのにおよそ10km。


 それから2kmの道のりには、いくつかの建物があった。

 その建物は石と木とレンガで出来た、如何にも中世の建築物である。……その先にある、街にそびえる白い塔が余りにも不自然に思える程に、それらはイメージに沿ったものだった。

 そんな建物と建物の間には、果物のなる樹木が植えられている。

 見た事のない果物だった。見た目としては洋梨に近い。皮も薄く、そのままでも食えそうだ。

「腹、減ったなぁ……」

 太郎はそう呟く。

 実際、この世界に来てから、腹を下した要因である謎のきのみを除いたら、まだ一食もしていないのだ。空腹感は高まる一方である。

 が、だからといってこれを食おうとはまだ思えない。

 それでまたお腹を壊す羽目になったら、もう笑えないのだ。

「とりあえず、あの街の近くまで寄りましょ。きっとあそこなら何が食えるのか分かるはずだから」

 些か希望的観測であったが、右も左も分からない状態では、それに頼るしかなかったのだ。

 ……不思議と、その道中では人とは遭遇しなかった。

 代わりにあったのは金色の麦畑である。

 広々と使われているようではあるが、誰一人として農作業をしていないのはおかしい。

 代わりに、これから向かう街からは、大きな歓声がここにまで届くほど響いていた。



 そうして着いた場所は、道中よりも多くの建物が並んでいた。

 おそらくはマンションだろう。それと並ぶようにして露店も並んでいる。

 その様な街の中で、やはり一際目立つのが、この街の中央にそびえる白い塔の存在であろう。

 近くに寄れば寄るほどにその存在感に圧迫する。

 どうやら、街を形成した際の中心がこの白い塔になっているようで、その周囲には柵が敷いてあった。その柵はぐるりと一周しており、おおよそ半径300mほどの面積の中にあの白い塔が陳列されている。


 どうも側から見た様子では街とそれらは隔離しているかのように伺える。

 中に行くための扉の所にある橋以外、溝が出来ていたのだ。

 その先の白い塔の周りは、今立っている場所のような石のタイルではなく、黒いコンクリートが使われていた。

 白い塔の根元には中に入る為の玄関があったが、その扉は、ガラスで出来ていた。

「随分と極端ね……」

 妙子はぼやく。果たしてこれは意味あっての区別なのであろうか。わざわざ柵で壁を作り、市民にも見て分かるような形にするのには……。


 が、彼らが重要に感じたのはその事ではなかった。

「なんか凄い騒がしいな。パレードか?」

 そう、この街は今、何かしらの祭りの最中であった。

 柵の周りに集まっては熱狂する人々。

 その近くで別の人がビラを撒き、カゴを持った人は、道歩く人にカゴの中身のパンなどを配っている。

 空からはどこから湧いたのか分からない紙吹雪が舞う。

 そんな中で、彼らは沢山のパンを持った人にいきなり話しかけられる。

「エヘテ チョミ!」

「えっ、なんて?」

 太郎が聞き返すより先に、その人はパンを二人に手渡しそのまま去っていく。

「な、何が起こってるんだ?これ?」

「さ、さぁ?」

 周りの賑わいから、なにかの祝い事である事は察せられる。しかし、ここまで熱狂する程の出来事とはなんなのだろうか。


「とりあえず、はぐれないようにしましょう」

 と、妙子が言った矢先、いつの間にか太郎は人波に攫われて、遠くまで流されてしまっていた。

「えぇ〜!?そんなベタな展開ある?!」

 妙子は手を伸ばして太郎を呼ぶが、太郎本人はその背の低さもあって、妙子の場所すら分からなくなっていた。

「オ イロアス テリカ イデ!」「カンテ ペリソッテロ トーリボ!」

 街の人々は様々な掛け声と共にけたたましく賑わす。

 全く理解の出来ない言葉に不安を抱いた太郎は、せめて妙子に分かるように大きな声で叫んだ。

「とりあえず調査な!終わったらさっきの樹木のとこに集合って事で!」

 それを聞き取った妙子も返す。

「えぇ、分かった!無事でいてね!」

 と。



 そうして狂乱に包まれる事30分。

 どうにか路地裏にまで避難した太郎は、一旦パンを頬張りながら周りを一瞥。

 遠くから見た時は塔にばかり気を取られていたが、いざ街の中に入ると、なかなかどうして、普通の中世の世界と言った風景ではないか。

 木とレンガで作られた家は、上を眺めれば嫌というほど目に映る白い塔とは全く別の代物だと分かる。


 まるで文化を隔離しているかのような歪さだ。

「ゲームみたいだよなぁ、ホント」

 この手の風景だけなら、まぁたまにゲームで見ることがある。

 どっかのCG技術が凄いゲーム会社とかが如何にもやりそうな風景じゃないか。

 異世界の門が開いてその世界の街の一部が降ってきたりした時の見た目によく似ている。

(異世界の門か……)

 太郎はそれを思った時、自身がこの世界に飛ばされた時の事を思い出す。

 太郎自身はその時は屋上で空を眺めていた為、あまり記憶にないが、たしか、光に包まれるような感覚があったような……。

(それでなんで女になるんだよ)

 身体的特徴が全く違う説明を誰かしてくれないものかと思ったが、道端を歩く人々に尋ねても全く意味の分からない言葉しか話さない。


「異世界転生モノならちゃんと言葉が通じるようにしとけよもう!」

 ……これじゃたまたま超絶美少女になんか助けをせがまれ、華麗に応えた後に好かれる展開に出来ないじゃないか!

 ダンっ!と壁に拳を当てる。そして悶える。いつまでも成長しない太郎である。


「あー……なんでこんな事に……。アプリゲーのログボも貰えないし、辛い」

 一日の活力たるログボにまでそっぽを向かれてもう何もいいことがない。せめてこの見た目の可愛さで上手い事立ち回りたいが、オタクな太郎にその様な交渉術など存在しなかった。

 そして、ふと嫌な事を思い出す。

「そいや、巻き込まれ異世界系って、大概奴隷商人に騙されて奴隷になったりするよな……」

 思わず周りを見渡す。まだ大丈夫。


「これからどうするかなぁ……」

 妙子からは、街に着いたら解散という事を言われ、自身も承諾した手前、やっぱり辛いから一緒に居たいだなんて言うのは男として恥ずかしい。

 けど、これから一人でどうにか出来る自信なんて全くない。

 どうにか生きていくための手段が欲しい。

 具体的には、なんか偶然宝の地図を手に入れてそこに向かったら伝説の聖剣が置かれていて、俺にしか抜けなくて、手に取った瞬間言葉も通じて、振るだけで山を砕くレベルにまで強くなって、ご飯も沢山生み出す魔法を覚えたりして、最後にはこの世界最強になって……。

「自分で考えていてこれほど虚しいのはねぇな……」

 どれも妄想の世界。あるはずがない事を語ってるに過ぎない。

 しかし、ここは異世界であり、現実なのだ。

 それを自覚しなければ、多分すぐにでも死んでしまうのだろう。

 深い溜息をつくと、街の騒がしさがより一層深まっていった。

 何事かと目を向けると、その声はある団体を見ている様だ。

 白い塔のある方から、100人以上の少年少女が箱馬車に運ばれている。皆は、それを見て興奮しているのだ。

 高い所によじ登り、太郎もその注目の的たる集団を見る。



「……っ!!な、なんで」

 太郎は思わず疑問の声が漏れた。

 そして、同時に頭の中に直接、何かの言葉が入ってきた。



『私の愛しい子達よ。これでいくつになるかも分からぬ世界の破滅の波に再び会う。しかし、不安になる事はない。安心されよ。今しがた他世界の住人との契約はなされた。彼らもまた、快く勇者としての道を歩んでくれたのだ』


 その声は、太郎には理解出来ない筈であった。街の人々の言葉と一切変わらず意味不明な言葉。

 しかし、分かってしまう。

 それはさながら、海外映画の字幕を読んでいるかのような感覚。声が、別の言葉によって置換されて行く感覚だ。


『さぁ、今こそ勇者達の門出だ!皆、彼らの未来に祈りを託せ!』


 そう言って突如、周りを囲っていた柵の門が開かれる。そして、その勇者達を乗せた馬車は橋を通って出てくる。

 その勇者達というのが太郎にとってはあり得た事ではあったが、あって欲しくはなかったものだ。



 そこに居たのは太郎と同じ学校の生徒だった。同学年、下級生、上級生問わず、皆がいた。

 甲冑姿に身を包んだ運動部の人達。重そうであるが高級感漂うローブを身につけた文芸部の姿もある。


「……待ってくれ」

 太郎は呟く。

 あれだ。あれこそが太郎が求めていた異世界転生の醍醐味なのだ。


「俺も連れて行ってくれ」


 羨望の眼差しで見つめながら、手を伸ばす太郎。

 しかし、それは街の人々の前では余りに小さな挙動であった。


 彼らの馬車は進んでいく。太郎の気持ちを知らずに早々と。

「待ってくれ!俺だ!俺も行きたい!」

 太郎は大声をだした。

 これまでにない程の大音量で。でも、それもやはり街の賑わいの一つになって溶けていく。

 彼らの耳にまで届かない。


 そのまま彼らが街から少し離れた場所につくと、箱馬車の中から見覚えのある男性が出てきた。

 一年上の、成績優秀な理系の高杉先輩だ。

「メタフェーテ ト!スィ アンプラティア!」

 そう唱えると、突如馬車達が光に包まれる。


 そうして太郎の気持ちなど一切届かず、無情にもその箱馬車達はそのまま何処かへと飛び去ってしまった。

 太郎達は置き去りにされたのだ。


「あ……あぁ……っ!!そんな……!なんで!」

 今から追いかけても、居場所なんて絶対わかるはずがない。

 太郎はこの出来事に少し目眩がした。

 このようなよく分からない世界で、強いであろう存在がそのまま目の前から消えて、頼れるものが消えた感覚。夢見ていた力を自身だけが使えず取り残された感覚。

 そのどれもが太郎の心に大きな不安を募らせる。

「そ、そうだ。あの白い塔の主人に相談すれば……」

 太郎はすぐさま柵の門の元まで駆け寄るが、その時には既に門は閉まっていた。


 太郎はそれでもお構いなく門に手をつける。

「開けてくれ!中に入れさせてくれ!俺もあいつらと同じなんだ!俺にも高杉先輩の様な力をくれ!」

 ガシャガシャと振っては見るものの、門は一切動かない。

 代わりに門番の人が現れて、太郎を無理やり門から引き剥がす。

「な、なんで?」

 太郎は引き剥がされた勢いのまま後ろに尻餅をつく。

 そんな状態のまま、太郎は門番の人に言った。

「俺の格好を見ろよ!どう見たってこの世界の奴らとは違うだろ!勇者達と同じ格好だろ!?俺もその勇者なんだよ!」

 そう叫ぶが、門番の人には伝わっていないようだった。

「デン エナ パラァクスノ ギャ メナ ナ エマイ メトピコース?」

 門番はそう言って頭をトントンと打ちながら煽るように太郎を見る。


 それは、太郎には言葉としては理解出来なかったが、何を言っているのかは分かった。

 ーーお前、あたまおかしいんじゃないか?

 きっとそう言ったのだろうと。

 苦虫を噛む様な想いとはこの事を言うのか。

 太郎は起き上がり、ズルズルと街から出るように歩いて行った。




 そうして、妙子との集合地点である樹木の側でしゃがみこむ。とりあえず、妙子が来るまでこの事を忘れようとしたのだ。

 しかし、その時間は思いのほか早く終わった。


「なーにそんなところで黄昏てるのよ」


 10分も経たず、妙子は太郎の元に戻り、声をかけたのだ。

 俯いた顔を上げて妙子の顔を見る。その時妙子の目からは、太郎の顔が随分と疲れた様子に見えた。

「……俺、これからどうすればいいのかな」

 低い声で太郎は言った。

「どうするも何も……」

 妙子も、あの場面には居合わせていた。


 妙子とて、あの光景はかなりのショックを受けたものだった。言葉が通じない世界の中で、意思疎通が叶う相手が一斉に何処かへと飛んでいくのを眺めるだけとか、ロクでもない展開だ。

 もう一人、空から聞こえた謎の声の主人も会話が成り立ちそうではあったが、白い塔へは入る事が許されなかったのだから、会うのは困難だろう。

 言葉が通じないだろう事はなんとなく覚悟していたつもりだが、せめてフランス語やイタリア語に近かったのであれば、少しは勉強していたので使えたのだが、発していた言葉は本当に謎すぎる。なんなのだあれは。

 そんなわけで、この街に来て得られたのはパン一個だけだった。


 妙子とてこの展開は一切望んではいなかった。

 たしかに情報も展開されては来たものの、肝心のピースをはめる作業に手をつけられないでいる。

 まるで真っ白なパズルのピースを一個ずつ集め、そのピースがどれもはまらなかったかのような虚脱感。

 自身らの手で進められる事が無かったのだから仕方の無い事ではあるが。


「まぁ、こうなったらやる事は限られるでしょ」

「なんだよ?」

「私達であのログハウスを建て直し、事が済むまで自給自足の生活よ!」

 妙子の提案に、太郎は目を細める。

 確かにあの使われていないログハウスなら使っても誰も文句は言われないだろうし、住処は問題ないだろう。

 が、自給自足なんて、そんな某サバイバル番組みたいな事が自分ら二人で出来るものなのか、と。

 あと、しれっと言った妙子の言葉に気になった。

「私達って……俺が含まれてるんだよな?」

「そうよ?」

「解散の話はどうなったよ」

 太郎がそう言うと妙子はくいくいっと手で来るようにジェスチャーをする。

 それを見て太郎が寄ると、二人のみの円陣が組まれた。

「考えても見なさいよ。こんな状況下でソロなんてまず無理でしょ。言葉通じないのにどうやって行くってのよ」

「……いや、まったくもってその通りだわ」

「というわけで、これからも手を組むって事でオケー?」

「オケー」

 互いに意思を共有させると、円陣が解除される。

 そして、互いに安堵に包まれた。


 太郎は心中、自身が共に行こうだなんて言うのが恥ずかしいので言ってくれて感謝の極みであった。


 対して妙子も、なんやかんやその流れに行けたのが嬉しかった。別に妙子は狙ってやったわけでは無かったので自然な流れで運べた事に喜んだ。


 ……互いにそれは顔には出さないが。


「ちなみに、自給自足の方はどうするんだよ?」

「それなら大丈夫!街にいた時に店に並んでいた物は写真に撮っておいたから、食える物の判別は出来るようになったわ!」

 それを聞いて太郎は感嘆した。

「すっげぇ、ぬかりねぇ!さすたえ!」

「えぇ!もっと私を讃えても良くってよ!」

 それならばある程度の食料ラインも確保出来るわけだ。

 太郎は妙子に拍手して喜んだ。

「とりあえず、そろそろログハウスに戻りましょ。今から帰らないと多分暗くなってるから」

 妙子はそう言いながら、樹木に実ったきのみを二つもぎ取り、一個を口にしながら歩いて行く。

「そのきのみは食えるのか?……というか、それ窃盗じゃ」

「私が昔調べた奴じゃ、道にある樹木のきのみは旅人に喉の渇きを潤す為に用意されたって書いてあったから多分大丈夫大丈夫」

「本当かそれ……」

 少し怪しい説だが、食べ物は沢山欲しいので、細かい事には目を瞑る事にした。



 そうして、太郎達はあのログハウスに戻る為、また三時間もかかる距離を足で戻って行くのであった。

異世界の言語はオリジナルではなく、現実にある言語をしようしています。

一応異世界でも使われている可能性のあるかもしれないものを選びましたが、文字と実際に聞く発音はだいぶ違うと思いますが、ご了承ください。

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