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異世界転生のみならず転性しちゃいました  作者: kilight
3章 俺が男にモテてどうするんだ
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38話 少しの思い出話

 クローリスが居なくなってから、アンテロースは思い出した様に妙子とパナケイアの手を引いた。


 クローリスの来訪に振り回されていたが、アンテロースは異世界の衣装についての詳細を知りたくてたまらないのだ。


 背丈のある妙子が小さな子供の手に引かれる、と言うのはこれが初めてで、まだ出会って半日も経ってないのにそうされる事が【信頼されている】と感じられてとても嬉しかった。

 現代社会では無かった、心の閉塞感が解放されたかのような夢心地。

 この地こそが【私が居るべき場所】なのだと、そう安堵出来る。



 そうして三人はそのまま階段を駆け上がり、また服の着想を描くのだろう。




 そして玄関近くでは三人が残された。

『この調子なら、また第三、第四の女が奇襲するかの様にやってくるのでは無いか?』

 と、ニコラオスが冗談混じりに言うと、マカオンは苦笑いを浮かべた。


『お前は気が弱いのはよく分かったが、そこまで嫌いならそう言ってやれば良いだろうにな。そうすればお前が苦しむこともない』

 と、ニコラオスはマカオンの気を察する様な事を言ったが、マカオンは首を横に振った。


『いえ、いいえ。違うんですよ、ニコラオスさん。


 たしかに僕は彼女達の事が苦手ですが、嫌いなのでは有りません』


 そう言うマカオンにニコラオスは意外そうな面持ちを見せた。それは隣の太郎も同様であった。


「そうなん?あんなに怯えてるから嫌々関わっているのかと」

 そう言われると『確かにそう見えるかも……』と、髪を弄りながら呟く。


『だって、彼女達は凄いんだよ?

 ディケーの両親はこの街1の衣装設計者、ということもあって生まれた時から大きな期待を持たされていた。10歳くらいの頃はそんな重圧のせいでよく泣いていたけど、今や主にも認められる程の実力になった。親の七光りなんてものじゃなく、彼女の努力によって偉業を成し遂げたんだ。凄いよ』


 過去に思い耽るようにマカオンはそう言い、そのまま続けた。



『クローリスさんもそう。

 彼女は最初から主に認められていたわけじゃ無い、ただの村娘だった。

 だけど趣味の料理を極めに極め、今や主のお墨付きの調理師となった。

 2人とも才能なんてものじゃなく、努力でその地位に立っているんだ。


 彼女達の努力する姿はとてもカッコよくて憧れる。

 だから、苦手だけど、嫌いなんて感情はないよ』


 そう言って、それからは彼女達の凄いところ話を次々と語っていた。

 ディケーが周りに疎まれながらも心が折れず、ひたむきに努力を積み重ねていた事。

 クローリスが何度もミスを繰り返しながらも良い料理を開発していった事など。


 それを聞いて、2人……特にニコラオスは困った様な表情を浮かべ、太郎と顔を合わせ、肩をすくめた。



『……やれやれ。厄介な性格なのは彼女達だけかと思ったらお前が一番大概な様だ。

 確かにお前はそんな奴だったな。

【頑張っている人を応援したい。親とか関係なく、人の為になりたい】と子供の頃から言っていたよな』


 そうため息混じりにニコラオスがボヤく。


「……ならどっちかと結婚してやれば良いんじゃね?……あ、ここって多重婚ってあり?」


『まぁ、アリっちゃアリだが……基本的にはやらんな』


「でもやれはするんだよな?ならもうみんなと結婚しちゃえば良いじゃん」


 そう言うと、マカオンは全力で首を横に振った。


『絶対無理だよ!だって彼女達、僕に変なことしてくるし!怖いよ!』


「それはまぁそうだけどさぁ!

 クローリスとかはアリなんじゃ無いの?」

『やめとけ』


 即座にニコラオスが制止に入った。

「即答?!えっ、なんで?」



 聞く太郎に2人は顔を横に逸らした。


『……まぁ、いずれわかる時が来るさ』


 そう言うニコラオスは出来れば知って欲しくは無いという感情だった。

 よく分からないが、その話はそこで終わり、という雰囲気の中で、妙子達が降りてきた。



「(ありがとう!とっても楽しかった!)」

「なんて言ったのかしら?」

『ありがとうございます、楽しかったですと』


「かっわい!うん!私も楽しかった!」


 と、妙子はアンテロースと握手を大振りにしていた。


「終わったのか?」

 と、太郎が聞くと、妙子は首を縦に振る。


「えぇ!構想とかはある程度整ったわ。

 これから作るんですって。

 しかもよ!?明日には一着は出来るんだって!」


「明日には、か。

 俺、服のこととかよく分かんないけど早いんかな、それ」


 そう言ってマカオンに聞いてみる。


『市場と同じくらいのペースだね。

 本来ならいろんな人が集まって作るから4時間に一着だけど、今回みたいに手探りで作る場合はそれこそ1日はかかるね』


「なるほど……、何から作るつもりなん?」

 と、アンテロースにマカオン越しで聞いてみた。


「(もちろんパナケイアから!)」

 と、意気揚々と言う彼に、ニコラオスとマカオンは青春を感じながらクスリと笑い、パナケイアはたじろいだ。


 そして、太郎達も【パナケイア】という名前が出たことによって彼女から作られるのを察せられた。



『なら、明日またここに来るよ。

 今日はそろそろ戻らないと町のみんなが困ってるだろうから帰るね』


「(あっ、はい!)」


 と、アンテロースは走って玄関を開け、みんなの見送りを店員としての振る舞いで行った。



 そうして五人はまた街の外まで歩いていく。

 マカオンはまたディケーから貰ったフードを被り、顔を隠す。


『また来ると言ったけど、僕はまた明日から家からは出られないかも知れないから、これからはニコラオスさんに任せても良いですか?』


『ん?あぁ、構わない』

 そう返答すると、マカオンはニコラオスに一つビー玉程の水晶を渡した。


「それって?」

 と、妙子が聞くと『街の行き来をする為の道具さ』と、マカオンが答える。


 その水晶はマカオンの住む家からポイルホンまでの行き来が出来る、アポカリプシスが作った道具である。


 小さいが故にその二つしか行き来が出来ないが、これのおかげで服に困ることも無い。

 それを渡すと言う事は、マカオンは本当に外に出る事はないのだろう。


『まぁ、これからも俺が2人を護衛する。それだけのこと。普段と変わらんさ』


「「なるほど?」」


 なんとなく、マカオンは外に出にくいという事だけが分かる2人。


 そのままニコラオスは預かった水晶を掲げて言った。


「メタフェーテ ト。スィ ヴォタナ」


 そうすると五人は光に包まれて元の家……ヴォタナの町へと戻るのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 時は少し遡り、マカオン達がポイルホンに向かって10分が過ぎた辺りの頃。

 ヴォタナの町へとやってくる一つの光があった。


「ふふ……さて。アポカリプシス様からの期待、依頼をしっかりとこなすとしましょう」


 そう不敵な笑みを浮かべる美形の人……、アポカリプシスの側近にいた者はそのままマカオン達の家へと足を運ばせる。


 その見た目、仕草はとても美しく、人の目を引くには十分だった。

 そのまま、人の注目を少しずつ集めていきながら、マカオンの玄関前まで辿り着いた。

(……大丈夫、美しく、そう、美しくいきましょう)

 心でそう念じながら、一息入れる。

「すみません。マカオン様はおいでになられておりますでしょうか」


 日常会話より少し大きい程度だが、彼なりの最大限の大声で玄関に言った。……が、当然皆出かけているので応答はない。


「……な、なぜ出ないのですか……?」

(もっ、もしかして嫌われた……?いや、いやいや、そんな筈は……、あぁ!怖い!)

 心の中で不安が混じり、コンマ数秒単位でみるみる不安が大きくなっていく。


「あっ……!あのぅ……!私を嫌いにならないでください……!」

 と、不安に駆られ、玄関を叩く。……ノック程度の力で。


 それでも玄関の向こう側は無常の無音があるのみだった。

 その事実に頭を悩ませて、何かをミスしたのでは無いかと顔を暗くしていく。




「あのぅ」



 と、後ろから1人の老婆が美形の人に話しかけた。


「はっ……!はいっ!」

 と、取り乱した様子で返事を返す。


「どうしたのでしょうかお嬢様!私に何か様でも……!?」


「あらぁ、ヤダァ!

 私はもうおばあちゃんよぉ」


「いえっ!とても愛らしく美しい女性です!」


「まぁまぁ!お上手なんだからぁ!」

 と、老婆は嬉しそうに手を振っている。


「そ、それで私に何か用がございますでしょうか?」


「あぁ、そうそう。マカオンちゃんに用がありそうだったから。

 マカオンちゃん達は今ちょっと出かけているのよぉ」


 出かけているーーという言葉にまず安堵の様子を浮かべ、次にそんな悪いタイミングに来た事を嘆いた。


(あぁ!アポカリプシス様ッ!無能な私をどうかお許しください!嫌いにならないでください!)


 そう念じながらも、その事を伝えてくれた老婆に感謝の意を述べた。


「お伝えくださり、ありがとうございます、お嬢様。


 それでは私は一度引いて……」


「あらそうかい?どうせなら私達とお茶会でもして待っていかないかい?」

「お茶会……ですか?」


「あら、やっぱり年寄りばかりじゃ嫌、よねぇ。ごめんなさいねぇ、引き止めちゃって」


「いえっ!いえ!とても光栄です!お供いたします!」


「あらそうかい!」


 老婆は嬉しそうな顔を見せると後ろでたむろしていた他の老婆に呼びかけた。


「大丈夫だってー!」

 そう言うや、皆は喜びの声をあげていた。



 そうして美形の人は、老婆に手を引かれながらついていくのだった。


(大丈夫、まだ失敗じゃない。しっかりアポカリプシス様の命令を成功してみせる……!)


 と、ヤキモキした気持ちを持ちを抱え、お茶会が始まったのだった。

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