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異世界転生のみならず転性しちゃいました  作者: kilight
3章 俺が男にモテてどうするんだ
32/49

25話 報われたのなら

 パナケイアは出した紅茶を飲む2人を見た。


『2人は主様の元には一度も行ってないのですよね?』

「あるじさま?」

「神様の事じゃねぇの?」

「あぁ。なるほど」

 パナケイアは2人に対して不思議そうな表情で見つめてきている。

 とはいえ、そんな存在なんて今知ったばかりなのでどうとも言えない。

「私達はいきなり見知らぬ森にやってきたからねぇ。何も知らないわ」

『そうなのですか。えーと、確か勇者様達が来たのが2週間ほど前でしたけど、お二人もそうなのですか?』

 パナケイアが聴くと2人ともコクリと肯く。

『それまでどう過ごしていたのですか?見た所随分と苦労したのが伺えますが』

 それを聞かれると2人はあのサバイバル生活を思い出し遠い目になった。

 しばらくして妙子が答える。

「しばらく歩いて、偶然人の住んでいないログハウス……じゃ伝わらないんだっけ。……えっと、大きな木の家があったから、そこで宿泊していたわ」

『人の住んでいないって……、廃墟じゃないですか。つまり、そこで2週間も生活していたと?』

「そうなるわね」

 そう妙子が答えるとパナケイアは顔を真っ青にしているのが見えた。


『本当によく無事でしたね。あの時ってクスィピニーステも沢山彷徨いていたでしょうに』

「あ、そのクスィピニーステってやつ、さっきも言っていたよな。骸骨がつまりはそのクスィピニーステって奴なんだよな?あれってなんなんだ?」

 太郎が思い出したようにその事について聞く。

 それに対しパナケイアはタンスの中にある本を一冊取り出して2人に見せた。


 とは言っても2人はこの世界の文字がわからないので近くにある絵を見るしかなかったが。


『アレはこの世に住む生物が生み出した癌であると言われています』

「「癌?」」

 そう言われてもあまりしっくりとこない2人。なのでパナケイアはもう少し分かるように続けた。

『えっと、この世界はみなさんの世界とは違って魔法の力で生活しているのです。そして魔法にはプネウマと呼ばれる心の力が必要なのです』

「ほう?」

 いきなりのファンタジー設定に太郎は分かりやすく反応を示した。


『しかし、そのプネウマを消費していく過程でその意思がある程度不純物として出されていくのです』

「不純物?」

 妙子もなにかと興味を示した。つまりあの骸骨はその不純物によって生み出されたという事なのだろう、と妙子は一人で推理を進める。


『はい。生き物が持つとされる四大欲求です』

「四大欲求?三大欲求とか、七つの大罪とかじゃなくて?」

 太郎が前のめりになって聞いている。妙子は横目に分かりやすいなと太郎を見ていた。

『はい。私達の世界ではそうですね。睡魔、暴食、肯定、顕示の四つです。クスィピニーステはその内の睡魔ですね』


「アレが睡魔?とてもそうには見えないんだけど」

 妙子はあの時の骸骨達を思い出す。

 いきなり襲いかかってきたりして、とてもホラーチックだったがアレを睡魔などとは思えない。


『私達の世界では恐らく勇者様達の世界とは意味合いが違うのです。この世界の場合は、死んでも死に切れない時に出る感情がそれに当たりますから』

「はぁー、なるほど?」

『なのでクスィピニーステは他の癌とは違い、そのものの意志がくっついているものが多いのも特徴ですね』

「いわば亡者か。……そいや、あの骸骨達もなんか喋っていたもんな」

 思い返すと、ログハウスにいたあの三姉妹の骸骨や、船に乗った時にいた骸骨、そして何より、滝に落ちた時に出会った日本兵らしい骸骨、その誰もが意思があったように感じた。

 それが何故自身らへ矛先を向けるのかは分からないが……、埋葬には、意味があったのだろう。

 宗教は違えど誰にも看取られずに消えるのは辛いだろうから。


『クスィピニーステは死してから多くのものは今生きている者を恨む習性があり、多くの魂が親玉と呼べる個体によって縛られていました。午後しばらくしたら 空に立ち込める暗雲が数多のクスィピニーステを操っているらしいです。……なので、勇者様が倒してくださったおかげで全ての魂は浄化された筈です』

 なるほど。船での戦いでいきなり骸骨が力を失ったのは先輩達がそのクスィピニーステの親玉を倒してくれたからなのか。

「なんとなく理解したぜ。破滅の波とか言っていたが、用はその不純物の塊を崩す為に俺たちが呼ばれたって事だな!」

『はい!そう言われてます!』

「……でも、それでなんで私達が呼ばれるのよ?魔法知らないわよ?私達」

『私達も魔法があまり使えないからです』

「?どういう事?さっきマカオンさん魔法使っていたわよね?」

『お兄様は医療にしか基本、魔法を使っていませんからね。それでも消費はしてしまうのです』

 それを聞いて太郎は何か府に落ちたように声を唸らせた。

「あー、そっか。つまりアレだな。俺たちは魔法一切使わずに生活してるから、その分プネウマが蓄えられている、と」

 太郎がそう言うとパナケイアはコクコクと首を縦に振る。

『はい!私達の日常生活はプネウマと密接に関わっていますから。良かったです。ちゃんと説明出来たようで』

 どこか安堵したような表情を見せるパナケイア。それを見て妙子にドヤ顔を見せる太郎。

「あー、ハイハイ。さすがオタク」

 太郎の扱いに慣れたかの様に紅茶を飲み干しながら適当に相槌を打つ。

 太郎もついで飲み終わると、ふと気付いたようにパナケイアは太郎に聞いた。



『……あっ、そうだ。タロウさん、紅茶は大丈夫でしたか?』

「ん?俺?」

 たしかに苦いがあのサバイバル生活で川の水を飲むことに比べたら遥かに楽しく味わえた。

「全然平気だけど、いきなりなんで?」

『だってタロウさんってまだ子供ですよね?』

「子供じゃないしー!」

 何という観察眼の無さか。よもや高校生の俺に向かって子供とは。


『えっ?だって私と身長同じですから、10歳くらいですよね?』


「……ん?」


 この子は何を言った?

 太郎は目を点にして一瞬頭が白くなった。

 確かに身長は大差ない。が、それで何故10歳などと……。


「つかぬ事を聞くけど、パナケイアは何歳?」

 聞いては行けない事を聞いている気がしたが、太郎は聞かずにはおけなかった。


『10歳ですよ?』


「ウッソだろ!?」

「ぷっ。10歳の子と同身長の高校生とか……」

「笑うな!」


『えっ?つまりどういう事ですか?』

 パナケイアはなんとなく察しつつも2人に訊ねた。


「太郎は16歳なのよ」

 妙子が小さい太郎の頭を押し付けるようにしながら答えた。

 それにパナケイアは驚愕する。

『どんな事があったらそこまで発達しなくなるのですか!?』

「知らねーよ!俺が聞きたいわ!」

 妙子の手を跳ね除け怒鳴る。

『は……はぁぁぁ……、これは驚きました。てっきり親子だと思ってましたから』

「え、ちょい待ち」

 今度は妙子が首を突っ込む。それではまるで自分が老けているみたいではないかと妙子は思ったのだ。


「私も太郎と同い年なんだけど」


『えっ。……えぇ!?うそ、どう見てもそんな風には見えませんよ!?』

 いや、まぁ確かに太郎との身長差はかなりのものだけれども……。

 あれ。これマカオンさんにはどんな風に見えてるんだろう……。


『そ、それじゃぁ、同い年の男女が二人きりで生活を送っていたって事ですか?』


 その言葉に2人は険しい表情を見せる。

(そういえばそうだった……。最初こそ意識していたけどしばらくしたら完全にそれどころじゃなかったからな)

 ボソリと妙子にのみ聞こえる声の大きさで呟く。

(いや、待って。これ凄い不味くない?こんなの、パナケイアちゃんが10歳だからまだ不思議って程度で済まされてるけど、マカオンさんが知ったら変な目で見られるパターンよ)

 互いに目をパナケイアに向けつつも、2人はこの事に関して早急にそれっぽい言い訳を用意する必要が出てきた。


『2人はどういった関係なのですか?』


「「兄弟です!」」


 刹那。2人の魂は同じ指針に向いた。

『あ……、あぁ!そうですよね。ホッとしました』

 パナケイアは胸を撫で下ろす。


『それで、どちらが年上なのですか?』

「「俺(私)です」」


 だがしかし。2人は早くも分かたれた。同じ道であろうとも、その先にあるものは違ったのだ。


(ちょっと。どういう事よ。どう見たって私の方が年上っぽいじゃない)

(いや、待てや。ここは俺の方が年上だろ)

(はぁ?なんでよ?)


『あ、あのー?どうしたのですか?』

「あ、いやいや!なんでもないわよ!」


(ほらご覧なさい!あのパナケイアちゃんの顔を!)

 妙子はパナケイアの方を指差す。太郎が指差した方を見ると、不審そうな眼でこちらをみる少女の姿がある。


(……いや、分かってるって。でも待てや。お前、誕生日いつよ)

(えっ?……12月3日だけど)

(はい俺7月7日ー!俺の方が年上ー!)


 低い唸り声を上げながら妙子は黙る。なんなんだこの男は。そこまでして年上振りたいのか。

(そりゃそうだろ。威厳ってものは大事だからな)


(ノーパンの姉になんて威厳はないし、そんな姉を持ちたくはなかった)

(だまらっしゃい!)



「というわけで、俺が姉で、こいつが弟です!な!」

「……弟です……」

 妙子は渋々、嫌そうに言った。


 それを聞き、チラリと太郎の方を一瞥して言った。

『ははぁ……。苦労してそうですね』

「分かってくれる?!そうなのよ!」


「どういう事だよオイ!」


 こうして何故か、妙子とパナケイアの間に何処となく絆が生まれたのだった。




 そうして会話が弾んでいき、1時間が経過した。

 すると、診断室の方から足音が聞こえてきた。

『ふぁぁぁ……。パナケイア、ありがとう。よく眠れたよ』

 そこにはあくびを漏らしながら目をしばしばさせたマカオンの姿があった。

 彼は3人の様子を見てにこやかに笑った。

『あぁ、良かった。仲良くなれたようだね』

 そういいながら、マカオンはふらついた足で台所に向かおうとする。

 が、千鳥足で上手く歩けていない。

『お兄様、こちらですよ』

『あぁ、ありがとうね。ふぁぁ……』

 そんなマカオンをパナケイアが体全身で支えている。

 身長差が太郎と妙子並みにある為にそうしないと支えきれないのだろう。

 そのままパナケイアは台所に向かうように誘導する。


『すみません2人とも。お兄様は寝起きの時は酔った人の様に歩けなくなるのです。少しお待ち下さい』

「あ、私も手伝います」

 妙子はそう言ってマカオンを支える。それを見てパナケイアは礼を述べ、台所に着くのだった。


『お兄様、流し台に水を貯めております。顔を伏せて下さい』

『んー……』

 マカオンは言われた通りに流し台に顔を伏せる。

 その後はマカオンが自身で顔を洗い出した。



『……、うん。目は覚めたよ。ここまでありがとうね、パナケイア。それにタエコさん』


「あ、いえいえ!」

 ……濡れたイケメンというのも眼福ですので!

 と心の内に秘めた。


『タロウさんの容態はいいかい?』

 マカオンはパナケイアに訊ね、パナケイアは問題なしと答え、これまでの会話も合わせて説明した。




『へぇ。2人は兄弟なんだね。僕らと一緒だね』

 すっかり目を覚めたマカオンの爽やかな笑顔は、妙子の心に大きな影響を与えた。


(私、この世界に来て一番良かったと思ってる!)

(良かったな、妙子さん)

 妙子さんが喜んでいるのは何よりだった。


『それじゃ今度はタエコさんの怪我を治そうね。こちらへどうぞ』

「はーい」

 そう言って2人は診断室へと向かったが、わずか20分で帰ってきた。



「はっや」

 太郎の時は長い時間がかかった為、その速さには驚いた。

「なんか塗り薬塗ってもらっただけだった」

 しかも、その薬も特に変わったものではなかった。草をすり潰したかのような、薄緑色をした塗り物である。


『さすがに普通はこのくらいですよ。タロウさんが異常なのです』

「……なんか、すみません」

 太郎は改めてマカオンに頭を伏せる。


『いやいや。助かったようで何よりだよ。それに、君はとても興味深かった』

『えっ?なんで?』


『プネウマの事はパナケイアから聞いたよね?』

 なんの話だろうと思いながら太郎は頷いた。そうするとマカオンは嬉しそうに笑う。


『心を込めて使うのが魔法だ。そして君の傷を応急処置をした際の魔法にはとても暖かい、感謝の気持ちが沢山含まれていた。しかも複数回もね』


「えっ?」

『君は身に覚えがないと言っていたけれど、間違いなくあれは君が誰かを救ったという事なのさ』

 マカオンは太郎の目の前にまで寄り、顔の高さを合わせる様にしゃがんだ。


 そして、太郎の手を取って、朗らかな表情でこう続けたのだ。


『君はこの世界の住民を知らず知らずのうちに助けていたんだ。

 紛れもなく、君も勇者だ。

 この応急処置をした人に代わって礼を言うよ。



 ーーありがとう』




 それは、太郎に取ってはとても貴重な経験だった。

 太郎という男は至って平凡で、何をするでもない男だった。

 ただのオタクで、やりたい様にしかやらず、何もない人生だった。


 だから、こう、どこか仰々しくも、誠心誠意感謝を述べられるというのはとても新鮮で、とても胸の空く思いだった。





 その後。

 マカオンは『どうぞ、家に泊まって。そっちの方が賑やかになる』と言って2人は泊めてもらうことになった。夕食も態々作ってくれるという。


 それまで2人はやることがないので庭に出るのであった。


「さっきのさ。あの応急処置をした人の事」

「ん?」

 妙子はふと、先程の事について語り出す。


「あれってさ。もしかしたらログハウスにいた三姉妹がしてくれたんじゃないかしら」

「なんで?」


 太郎が問うと、妙子は腕を後ろに組みながら、花壇を見て述べる。


「だって。アンタ態々墓を作って、しかも毎朝毎朝、あの三姉妹の墓でお祈りしていたじゃない。きっと

 嬉しかったんじゃないかしら。誰かにちゃんと埋葬して貰った事とか。毎日顔を出してくれた事とかさ」


「うーん、そう……なのかなぁ」

 太郎も花壇の花をみる。その花たちはとても可憐で、風に煽られながらささやかに舞っていた。


「きっとそうよ。一回のみならず複数回なんでしょ?間違いないわね」

 そう考えるとどこか照れ臭さも感じる。


 ……そういえばあの骸骨は人の感情があるのだった。

 そして、彼らや彼女らの想いは納得出来ずに死んだとも聞いた。



 仮に自身が納得出来るような終わりを与えられていたのだとしたら。


 ……死した後でも何か報われたと思ってくれたのだとしたら。



 ーーなんとなく、良かったーー、と思う。



「明日。また墓参りに行こうかな」


「えぇ。そうね」


 太郎はそう呟き、妙子はそう頷くのだった。

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